渚の先へ

駄伝 平 

プロローグ:ファミリーツリー

マクシミリアン・マーフィー・イシカワ、愛称はマックスは小学3年生だった。今回の夏休みの課題は「ファミリーツリー」。家族の出身地や経歴や生い立ち仕事は何をしていたか、祖父母の両親はどんな人だったかと、遡れるだけ遡ってみんなの前で発表しなくちゃいけない。

 マックスはプレゼンテーションの授業が苦手だ。人前で話すと緊張するからだ。なのでヤリたくなかったが「ここで頑張らないで成績が悪くなったら、宇宙飛行士になれないぞ」とお父さんに言われた。確かにそうだとマックスは思った。

 マックスは宇宙飛行士になるのが夢だ。そして、火星に住むのが夢だ。丁度、1ヶ月前、火星移住計画で建設していたコロニーが完成し第一陣の500人からなる住民通称ピルグリムが移住にしたばかりだった。ニュースではその話で持ちきりだった。そんな事もあってかマックスはいつも以上に夏休みの宿題に熱を上げた。

 マックスのお母さんの祖父母マーフィ一家は、歩いて10分先にある300階建てのタワーマンション160階目の部屋に住んでいた。

なので簡単に話が聞けた。お爺ちゃんはオーストラリア生まれで、スティールカメラマンとして働いていた。ルーツ(血筋)はアイルランド移民とルワンダ難民にあるらしい、そしてお婆ちゃんもオーストラリア生まれで看護師をしていた。民族のアボリジニーとベルギーのユダヤ人移民がルーツらしい。あの時は丁度二人共オーストラリアのバースに住んでいて難を逃れたらしい。それでも、デジタル機器が使えなくて大変だったとか。

 マックスはこの夏休みの宿題が面白くなっていた。自分の祖父母の昔話は会話の節々に断片的にしか聞いていなかったので、経歴を詳しくは聞いたことがなかったからだ。これは思っていたより楽しい勉強だなと思っていた。

 そういえば父方の祖父母、特にお爺ちゃんの昔ばなしは聞いたことが無かった。

ユンミ婆ちゃんはたまに、アノ時、故郷の韓国のプサンを離れオーストラリアにワーキングホリデーで農場にいた為、被害が少なかったと、時々、断片的に話してくれたが、お爺ちゃんは全く話していた記憶がない。

 お爺ちゃんはツバサ・キム・イシカワ。日本からの難民だ。右手が義手で銀色のの金属のやつで指先も器用に動かせるし感触まで分かる物らしい「どうだ、ロボコップみたいでカッコいいだろ?」と自慢してきたことがあった。「ロボコップ」とは昔の映画らしい。お母さんに「ロボコップ」を観たいと言ったら15歳以上にならないと観ちゃいけない映画だから駄目と言われた。

 後にツバサお爺ちゃんが「お母さんとお父さんにには内緒だよ」と言って「ロボコップ」を見せてくれた。100年近く前のすごく面白かった。お爺ちゃんの家に行くと色んな両親に禁止された映画やドラマを観せてくれるので、ツバサお爺ちゃんの家に行くのが楽しみで仕方なかった。

 なぜツバサ爺ちゃんがなんでオーストラリアに来たのか、日本で何をしていたのかマックスは知らなかった。

 お父さんに聞いても「実は、俺も聞いたことがあるけど、アノ時は世界中がいろいろあったからな。いい思い出が無いんだろう。きっと」と言っていた。

 でもマックスは、どうしても成績を上げるて火星に行くためにツバサ爺ちゃんにしつこく、ツバサ爺ちゃんの事を聞こうと決めた。それに、お父さんにも言えないくらいの経験ならきっとすごい話に違いない。


 それから1週間後、夏休みの恒例行事、マックスの祖父母が住む農場に遊びに行った。 

 お父さんとお母さん、それに妹のジェニファーと車に乗って、一家が住んでいるニューシドニーから3時間あるのどかな森林地帯にある牧場で祖父母が住んでいる。

 マックスはツバサ爺ちゃんの農場が大好きだ。農業は主、ジャガイモとリンゴやイチゴを栽培していた。お爺ちゃんが作るイチゴジャムは世界一美味しかったが、お母さんは「砂糖が多すぎるからあまりトーストに塗っちゃダメ」と言って好きな量を塗ることを禁止されていた程だった。他にも動物も沢山いる。例えば、犬もネコもアルパカもダチョウも羊ももいる。まるで動物園だ。でも、ダチョウ、羊、は食用動物なので少し可哀想だと思っている。ダチョウと羊は可愛くて好きだ。ダチョウはよく見ると可愛い目をしているし、お爺ちゃんが乗せてもくれるので愛着が湧いた。羊はモフモフしていて可愛くて大好きだ。でも、どちらも食用で育てているので少し可哀想だけだ。食べるのに躊躇した生前のダチョウと羊がマックスの脳裏にチラつくが、美味しいの食べるのがでやめられない。

 マックスの一家が訪ねてくると、祖父母もとても歓迎してくれる。ソヨン婆ちゃんは韓国からの移民だという事もあり韓国料理を振る舞ってくれる。ソヨン婆ちゃんが作るチーズタッカルビは世界一美味しいと思っている。なので、動物とも遊べるし、料理は美味しいし農場に行くのが大好きだった。毎日ここに住んでもいいと思うくらい。

 でも宿題を型付け無くちゃ駄目だ。たぶん、お婆ちゃんは簡単に教えてくれる。

なので、お父さんが言っていたように一番手強そうなツバサお爺ちゃんから話を聞くことにした。きっと、人前では言いたくない事があるんじゃないかと考えて2人の時に聞くことにした。

 ツバサお爺ちゃんは多趣味だ。映画鑑賞と、音楽鑑賞と、テレビゲーム、VRゲーム、ボードゲームとSwatchとカシオとTIMEXのアナログの腕時計のコレクションとアマチュア無線と陶芸。お爺ちゃんが作った陶芸作品はネット上で販売していた。だけどあまり売れ行きは良くないみたいだ。ツバサお爺ちゃんはマックスにも陶芸の作り方を教えてくれた。やる前はマックスは興味なかったが、作ってみるとナカナカ面白かったので、ツバサお爺ちゃんの家に行くと必ず、ツバサお爺ちゃんの地下シェルター兼工場に行って陶芸をやるようになった。

 ツバサ爺ちゃん注文していたがを行きつけの骨董店に数十枚のレコードが入荷したというのでマックスはツバサ爺ちゃんと街まで一緒に買物に付いていくことにした。

 音楽なんてサブスクリプションで聴けるのに、ツバサ爺ちゃんはレコードにこだわた。それにネットでAmazonRakutenで注文出来るが、中古の古いレコードはを買った時に何度も不良品を掴まされたので、レコードに関してはネットの通販は一切信用していなかった。

 車内で、お爺ちゃんが大好きな懐メロの「タイラー・ザ・クリエイター」の曲をながしていた。しかも、機嫌が良さそうだ。今、聞こうと思ったが。

 もしかすると、お爺ちゃんは、なんか酷い事をしたかも知れないと急にマックスは思って緊張したが、これも成績を上げる為だ。それにマックスの成績も上がればツバサお爺ちゃんも喜ぶはずだ。勇気を出して聞いてみることにした。「ねえ?お爺ちゃん、夏休みの宿題でファミリーツリーをヤラなくちゃいけないんだけど、お爺ちゃんてどうして日本からオーストラリアに来たの?それと日本でどんな仕事をしていたの?」

 するとツバサ爺ちゃんはしばらく黙ってから話し始めた。

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