Day21 次回に生かす反省会
「体調についてだね。うん、それはこれからする話、君と僕が路でつながっているという話にも関係してくる」
もう一度板に何か書き込む。
「ワタシと君につながりを作ることで、歪んでいた魔王の定義を少しでも補正しようとした。それによって少しでも残った力で相手の偉い連中の何人かに致命傷でも与えられれば儲けかなって思って特攻を仕掛けたわけだ」
魔王の絵が適当に書かれた何名かの絵に攻撃を仕掛ける。
「そう思ってたんだけど。なんでか君との路を作った瞬間中身まで戻ってきた」
シンは円を補強するように線を足すと。そして円の中になみなみとした中身を描いた。
「そういうものだったわけか」
「いや違う」
そういうものとして納得しようとしていた真緒をシンはすぐさま遮った。
「始めてやったことだけど本来理論的には殻に一枚薄い膜を貼る感じかな。膜の大きさはその時それぞれだけど、薄い膜である以上すぐに敗れてやっぱり中身が出て行ってしまう」
「殻を補強しても中身は戻らない?」
「通常時でも少しづつなら中身は戻ってくるはず。でも殻が壊れていくから戻っても留まることはできない」
底に穴の開いたバケツに水を入れても水はたまらないのと一緒。しかし、もろい素材だったとしても穴をふさぐ補強材があれば、少しの水はたまる可能性がある。
「たまった少しの力で暴れようと思って暴れていたら、なんだかおかしいなって。よくよく自分の状態を確認してみると失う前の完全な状態、もしかするとそれ以上に良い状態だった」
「それは俺が異世界人だからか?」
「わからない。異世界人にそういった特性があるかといわれると無い。路を作る事例自体ほとんどないのに、異世界人となんて初めてだろうから」
シンの予想とは違ったとしても、今の段階でその原因を探ることはできないから保留とされた。
「……そのあとはどうなったんだ?」
真緒の脳裏にはシンの笑い声と回る視界、そして先ほどの悪夢がよみがえって顔をしかめた。
「予想以上に大暴れしてしまってね、闘技場の崩壊に加えて町の方までだいぶ破壊してた」
シンはあの時客席の上部、貴族連中が座っている席を真っ先に破壊しようとしたがそれ以上に力がわいてきたため、破壊範囲を拡大していった結果、気分が乗りすぎて闘技場の外までいつのまにか破壊していたのだ。
「でも、人的被害はそこまでだと思う。一般の連中はいつのまにか我先にと逃げ出した。貴族連中はあんな高みの席にいたから逃げ遅れがいたかもしれないけど自業自得。勇者には逃げられた、あの騎士が守ってたんだろうね。本来の目的である人質も誰一人かけることなく救出できた」
人に対する被害は比較的少ないと聞いて真緒は安堵したが、それでもゼロというわけではないのだ。自分が手を貸したことで人に危害を加えたといわれるとただの人間の真緒には引っかかるものがあった。
「殺したのは君じゃないっていえば気が済む?」
「いや、俺のせいでもある」
真緒の様子に気付いたシンの言葉を真緒は否定する。確かに真緒が手を下したわけではないとしても、真緒がシンを助ける選択をしなければ事態はもっと被害が少なく終わっていただろう。
「……ちょっと気分が落ち込んだところ悪いんだけどさ、次に話を進めていい?」
「あぁ」
配慮がないのか配慮があるのかわからない言葉に返事をする。
「ワタシの方は単純に元の状態に戻っただけと言っていい。ただ、真緒の身体は違う」
それがこの回復力につながる。
「つながりが出来たせいで君はワタシの力の一部を共有することになる。現状で魔王の中身を共有してはいないみたいだけど。今のところは生命力というものが共有されている」
「生命力」
「本来は治りが早いっていうよりは、完全に死ぬことがなくて時間があれば直すことが出来るかもしれないだと思ってたんだけど」
シンが真緒の身体を確認する。
「今は生命力の増加によって君のけがの治りが早くなったと考えてくれて構わない」
なんだか含みのある言い方だったが真緒はうなずく。
「さて、ここからが本題になるわけだが」
一瞬で笑顔に切り替えるシンの態度に何か嫌な予感がした真緒は耳をふさぎたくなったがこのだるい体を動かすことはできない。
「まっ」
「君に魔王になってもらえばいいんじゃないかって」
真緒の制止の言葉なんて聞こえていないようで勝手に重大発表が行われた。
「このつながりは簡単に切れるものでもない。つないだ時の反応が予想外だった以上、切るときもより慎重にならなければならない。どうせ切ることが出来ないなら有効活用するのも手だと思うんだよね」
「……そんなことが出来れば苦労しないんじゃないか?」
「世界平和の方も継続して行うけど予備策っていうのはいくらあってもいい」
さらっと自分がやりたくないことを人に押し付けようとしていることにこの魔王は自覚があるのだろうか。しかも本人の目の前で、である。
「君も魔王になれば楽しい異世界生活が送れると思わない?」
「……」
確かにシンの自由なふるまいを見れば羨ましいものもあるかもしれないが、それ以上にその重責を知っている以上なんとも返答しがたかった。
「まぁ、そんなすぐにってわけじゃない。これから少しづつでも考えていけばいいさ」
シンが差し出す手を真緒は見る。ふっと気の抜けた笑みを浮かべながら手を握る。
「これから」
「どうぞよろしく」
こんどは握られた手は離されることはなかった。
――
「一つ聞きたいんだけど」
「うん?」
「その絵はお前が描いたのか?」
シンが説明に使った板を指さす真緒。その顔には何とも言えない表情が浮かんでいた。
「そうだよ。うまいだろう」
絵については魔族との感性が違うのか、あるいはただ下手なだけなのか。
真緒は絵については触れないことにした。
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