『爆弾は愛より強し』

やましん(テンパー)

『爆弾は愛より強し』


 『これは、きまじめな、小さな、フィクションである。』





 『タンゴアジアカスタネット民主国』の非情、冷血な独裁者、マドモワゼル・シンバルを倒すために結成された地下組織『グリッサンドの風』は、ついに、恐怖の新型爆弾を手に入れた。


 『ウルトラチューブゴング爆弾』である。


 謎の地底民族、チューバ属が開発した。こいつは、地上半径約500キロの範囲を、強烈な衝撃音波でギタギタにする力がある。


 ビルも、工場も、宮殿も、どんな構造物であれ、全てがなぎ倒され、なにも残らない。


 しかも、小型で、持ち運びができるのだ。


 放射能汚染などはない。


 2発爆発させれば、差し渡し1000キロが破壊される。地上の生き物は、かなりの高空を飛んでいない限り、みな粉砕される。


 弱点は、地下の破壊があまり出来ないことだが、衝撃音波は、地中10メートルまでの人類を、最低5日間は、活動不能にする。


 だからして、国内のあらゆる人の動きを止めてしまうだろう。


 しかし、大量破壊兵器であるがゆえに、タロウとハナは、使用に反対していた。


 棟梁『マダム・コールラングレ』は、マドモワゼル・シンバルの姉である。


 しかし、二人は仲が悪く、政治信条も正反対であり、妹が、名門ヴィオラ家をついで、権力を握ったのだ。


 姉は、地下に潜った。国外にかなりの資金を握っていた。その大部分は、タルレジャ王国にある。そこは、だれしも、なかなか、手が出せない場所であった。


 タロウとハナは、なんの取り柄もない、貧民街の出身である。


 こちらは、小さい頃からの仲よしで、ま、恋人たちである。


 音楽好きで、クラシックが一番好きだった。


 しかし、まずは、恐ろしい独裁者を倒すことが、最優先だったのだ。


 恋は、それからである。



        💞💞💞💞💞



 マダム・コールラングレも、非情なことにかけては、妹に劣らない。


 祖国の民主化のためならば、ある程度の犠牲は仕方がないと、割りきっていた。


 しかし、昔ながらの核弾頭の使用には、反対だった。


 『きたない、爆弾だから。』


 が、理由である。



       💣💣💣💣💣


 

 マダム・コールラングレは、爆弾を、ひとつは、東の都、ピアノシティのオーバーハイデン公園に、もうひとつは、西の都ヴァイオリンシティの、バン・パークに置くことに決めた。


 そうして、AとB、ふたつのチームを作り、タロウとハナを、双方に分けて配置した。


 ふたりを、そのチームの、リーダーに据えたのである。


 いかにも、彼女的な、残酷な配置である。


 ただし、やること自体は、簡単だ。


 爆弾は、海外旅行用のスーツケースと同じスタイルである。


 時限式だが、開けると、すくに、爆発する。


 すぐに爆発させないためには、まずは、反対側から開けるしかない。


 しかし、暗証番号がわからないと、2分で爆発してしまう。


 暗証番号は、ふたりには、教えられていなかった。


 

   💥💥💥💥💥💥


 

 しかし、すでにふたりは、爆弾が爆発しても、あまり周囲に影響がでないようにする工作をしていた。


 爆発する直前に、でかい、蓋をするのである。


 そんなものあるわけないだろ。


 いや、あるのだ。


 それは、独裁者が住む宮殿の、大屋根である、ふたつのドームである。


 現在、修復作業をしていて、新しい屋根は、タルレジャ王国によって作られる。


 核兵器でもびくともしないと言うものだ。


 ただし、とてつもなく高価である。


 国民のために使うべき資金だが、マドモワゼル・シンバルは、気にしない。


 マダム・コールラングレは、そうした妹が許せなかった。


 という訳で、この新しいドームを略奪すること自体は、理にかなっていた。


 使い道は、棟梁の意思に反してしまったが。


 この作戦は、もちろん、タルレジャ王国のヘレナ王女様が、密かに認めていたのだ。


 帰国子女のハナは、かの王女様とは、高校時代の同級生だったのである。


 持つべきものは良き友かな。


 なわけで、新しいドームは、爆発寸前に、爆発場所に下ろされた。


 

    💯💯💯💯💯💯💯💯



 しかし、なにもかもは、都合良く行かないのである。


 A.B.両チームは、ドームの下じきになった。


 そうして、手のうちようがないまま、爆発したのである。


 生き残れるはずがない。


 タロウとハナは、地上から消えた。



    💮💮💮💮💮💮💮💮

 


 独裁者、マドモワゼル・シンバルは、さらに、過酷な独裁を続けた。


 ドームは、その後、ちゃんと計画された場所に据えられたが、まったくの無傷だった。


 マドモワゼル・シンバルは、喜んだ。


 しかし、その姉は、否応なしに、自分の間違いに気づいたのだ。


 なので、やり方を変えたのである。




 それから、間もなく、妹は、あっさりと逮捕された。


 捕まえたのは、タロウとハナたち、Aチームと、Bチームだったのである。


 爆発の寸前、ドームの内側にドアが開いた。


 みな、その中に駆け込んだ。


 そこには、居心地の良い居住施設があり、爆発はまったく感じなかった。


 スパイや、工作に必要な、様々な設備や備品、連絡装置があったのだった。



 姉は、民主化政府を樹立した。


 タロウとハナは、結婚して、念願のクラシック音楽専門のレコード店を開いたそうである。


 本店は、自国内に。


 タルレジャ王国には、支店を作った。


 地底民族は、地上人類に一泡吹かせたと、喜んでいた。


 それからは、新政府と友好関係を結んだ。


 タルレジャ王国のヘレナ王女は、やがて女王になったが、相変わらず、音楽と発明と金儲けに勤しんでいる。



        🏚️


 

 


 


 


 


 

 


 


 


 

 


 


 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『爆弾は愛より強し』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る