第10話 鑑定を楽しむ

 「立ち話はこの辺にしてひとまずお部屋へ案内するわ。

 ついていらっしゃい。」


 くるりと体を回し奥の部屋へ行く彼女の後ろに私とリズがついて行く。



 通された部屋は長椅子と長机が置かれた、簡素な所だった。


 「さぁ、ここに座って。

 …と言ってもただの執務室なのだけれど。」


 私は促されるまま席に座り、その対面に彼女が座った。


 「確か、今日は鑑定をしに来たのよね。

 ちょっと待ってね。

 "アンナ"ちゃん持ってきて。」


 「はいっ!」


 後ろに控えていた女の子が部屋の外へ飛び出していったと思えば、四角く切り取られた白い石を大事そうに持ってきた。


 A4サイズくらい?


 と思いながら眺めていると、その石が私の目の前に置かれた。

 その横には、紙が1枚置かれている。


 「さぁ。早速始めましょ。

 この"年輪石"に手を置くとここに置いてある"魔力紙"にあなたのステータスが浮かび上がってくるわ。」


 おお~ いきなりのファンタジー

 こういう展開を待ってたんだよ。


 もしかして、世界を揺るがすステータスを叩き出してしまうのでは…


 私はドキドキしながら石の上に手をかざすと。


 「うわっ…」


 石から放たれた光が部屋中を満たした。


 えっ、なんかやっちゃった?


 それとも良い結果出た?


 次第に光が収まっていき、部屋の中が静寂に包まれる。



 「こんなに大きい光、ここ数十年でも出たこと無いわ…

 早速見てみましょ。」


 もしかして私…すごく強い?


 ドキドキしつつ姐さんの言葉を待つ。

 すると、


 「……普通ね。」


 「普通…ですか…?」


 思いもよらぬ一言で私は呆気にとられてしまった。


 「ええ、そこらにいる町娘と同じか少し低いくらいかしら?

 あっ…でも魔力は少し高めね。」


 あんなに強い光が出たのに…

 期待させやがって。


 はいはい。所詮一般人ですよ私は。


 「でもおかしいわね。

 光の大きさは、鑑定した人の強さと比例するものなのだけれど…」


 「どうしてでしょうねぇ~」


 後ろにいたアンナも疑問を口にする。


 私にもう何が何なのか全くわからない。


 姐さんとアンナが熱心に話しているのが気になったのかリズが横から覗いてきた。


 「私の方が高い… 


 あっ、ごめんなさい!私失礼なことを…」


 「別にいいですよ、本当のことですし…

 それにアルフレッド様から聞いたんですよ、あなた達姉妹は戦えるメイドだと。

 だから、当たり前じゃないですか。」


 「はっ、はい。

 城で執事をしている"ヨーゼフ"さんから幼い頃から手ほどきを受けていたんです。」


 「幼い頃から?」


 「はい。

 実は、私達は幼い頃に両親に捨てられてしまったんです…

 ですが今はヨーゼフさんに拾われて、城でメイドをしているんです。


 私達を受け入れてくださった国王様と大切に育ててくれたヨーゼフさんには本当に感謝しかありません。」


 「リジはその、ヨーゼフさんという方が大好きなのですね。」


 「だっ…大好きって…

 そんなんじゃないですよぉ~

 いえ、嫌いとかじゃないんですけど…


 あ~もう!意地悪しないでください!」


 この子、可愛い!

 からかいがいがあるな…



 「もうお話は終わったかしら?」


 「ギャアッ!!」


 声のする方向を振り返ると目の前に化粧をしたゴツい顔が私達を見ていた。


 変な声が出てしまった…


 「ごめんなさい。話し込んじゃって…」


 「そんなに驚かれるとは思わなかったわ。

 話のことなら気にしないで。

 その間にあなたの"カード"を作っていたから。」


 その時タイミング良くアンナが姐さんの後からひょこっと顔を出した。


 「レン様の"ギルドカード"持ってきましたー!」


 「ええ。ありがとアンナ。」


 姐さんがアンナからカードを受け取り、私に差し出してくる。


 私はそのカードを受け取りじっくりと観察をする。


 素材はプラスチックとゴムを混ぜた感じ?


 見た目はプラスチックだけどゴムみたいにグニグニ曲がる…


 「書いてあることは、

 名前、ジョブ、レベル、称号よ。

 あなたはまだジョブと称号がないから名前とレベルだけ書いてあるはずだわ。


 ステータスやスキルは他の人からは見えないようになって、

 見たいときはカードを左から右へ指でなぞるの。」


 確かに私のカードには、

 レン・イヌキ  レベル1

 と書いてあった。


 言われた通り私がカードをなぞると、ステータスが露わになった。


 うん。やり方はわかった。

 低いステータスなんか見たくない。


 私はすぐその画面を閉じ、皆の方へと向き直る。


 たまには現実逃避ぐらい良いだろう。


 そう心のなかでつぶやきながら。

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