惨校 ―学校迷宮―

@AMI2001

第1話 隙間

 〈ご案内〉いつもAMIのつたない話を読んで頂き、ありがとうございます。

  第1~5話は独立したコンテンツとして「目が覚める、怖い話」からこ

  ちらに移動しました。

  第6話以降は現在「目が覚める、怖い話」。順次こちらに移動し、その後

  は毎週金曜日に更新予定です。よろしくです(平謝り)









 その時あたしはね、もう下校しようとしてたの。でも学校出ようとしたところで、教室の廊下の傘掛けに傘を置いたままなの想い出して。

 そしたらね、もうみんな帰って誰もいなくなった教室に、レナちゃんが一人だけ残ってたの。変でしょ。変だよ。

 だって、レナちゃんは笑っていたんだよ。

 戸棚の隙間をのぞき込んで、ひとりで。そう、教室の先生の机の横にあるやつ。あの木の戸棚の戸が少しだけ開いていたの。

 でもね、あの戸棚、中に何も入ってないんだよ。あたし、掃除の時に見たことあるもん。だから不思議だな、と思って。

 声をかけようと思ったんだけど、その日はもう塾が始まる時間までギリギリだったの。だって終わりの会の先生の話が長かったから。だから……

 あんなことになるなんて思わなくて……


 転校生の名前は平田君です。平田……何だったかな。

 僕もあんまり覚えてない。だって平田君は、結局一日しか僕のクラスにいなかったわけでしょ。あ、でもこんな言い方はちょっと良くないかな。冷たいよね。

 とにかく僕が最後に平田君を見たのは、転校してきた初日の、三時間目の体育の前です。早く教室に戻って着替えようと、遊んでいた運動場から校舎に戻って一階の廊下を歩いていたら、二階に上がる階段の下……裏側のちょっと暗くなっている辺りから笑い声が聞こえてきたんです。見たら平田君がその暗がりを覗き込んで笑ってるのが見えました。だから暗がりにもう一人いて、その子と話して笑っていると思いました。

 相手は……見えなかったです。階段の陰にいて見えないんだと思いました。早く着替えて体育館に行かないと先生に叱られるから、声をかけようと思ったけど、あんまり楽しそうに笑ってるから、まあいいか、と思いました。まだ平田君とは会話もしたことなかったし、転校初日だから、先生も大目に見るかもしれないし。

 ただ……また廊下を歩き始めてすぐに思い出したんです。

 あの時は運動会の直前で、階段の下には運動会で使う道具がほとんど隙間なく積み上げられていて、とても人一人が廊下から見えないほど奥には入れないこと……

 あいつ……一体「何」を見て、あんなに楽しそうに笑ってたんだろう。


 ずっと本当のことを話してるんだけど、でも結局あなたも信じてくれないんでしょ。夢でも見たのかとか、子供だからって作り話をするな、とか。マユリはあたしの親友なんだから、作り話なんかするわけないのに……

 マユリは犬を飼ってたの。ミニチュアダックスのロン。すっごく可愛い。だからマユリの家に遊びに行くと、ロンの散歩につき合って一緒に近所を歩くことはよくあったんだ。ロンがちょこちょこお尻振って歩いてるの後ろから見るだけでも楽しいし、歩きながらずっとマユリといろんなこと話すのも、ホント楽しかった。

 でもね……学校まで行ったことはなかったの。結構家と離れてるし、丘の上まで坂道が続くし、それにあの事件のせいで学校の先生が、放課後は絶対学校に立ち入らないように、って何度も言ってたから……。ただ、あの日はロンがどういうわけか、どんどん学校の方に歩いて行って、すごい力で引っ張るから、あたしたちもつい……

  学校までもうすぐ、というところで、ロンをつないでいたリードが切れたの。どうして切れたんだろう。マユリが買い替えたばかりの新しいリードだったのに。

 とにかくロンはすごい勢いで学校の門の中に入って行っちゃって……ホントだよ。放課後、学校の門は絶対閉まってるって言うけど、本当にその時は開いてたの。

 あたしとマユリは慌てて後を追ったけど、すぐ姿が見えなくなった。それでマユリとあたしはロンを逃がさないように、右回りと左回りに分かれて学校の周囲を探すことにしたの。

 校庭にも校舎にも誰もいなくて騒ぎにならなかったのは良かったけど、もう夕暮れで、しんとしてて……ちょっと気味悪かった。ほら、あの学校の西側には、頂上に祠のある小さな山があるでしょ。夕方になるとあの山のせいで学校はすっかり陰になって、丘の上なのにすっかり暗くなるから……

ハアハア……なんか、息が苦しい。水……

 ええ、もう大丈夫です。

 そしたらに……急にロンの鳴き声が聞こえ始めたの。何かに向かって吠えてる感じ。それで、急いで鳴き声のする方に走っていたら、もうマユリも来ていて。

 ウサギ小屋の前だったよ。でも……ロンが吠えかかっていたのはそこじゃないの。小屋の前にある細い溝。普段は落ちないように重い鉄の蓋がしてあって、中を覗くことができるのは、蓋の格子のほんのわずかな隙間だけ。そこに向かってロンが唸ったり、吠えたりしてたの。

 でも、マユリは笑ってた。ロンが吠えかかる隙間をのぞいて、クスクス笑ってたの。どうしたのって声をかけようと思ったら、いきなりロンがケンカに負けたような声でキャンキャン鳴きながら走って逃げた。それでもマユリは笑って、もっと蓋の隙間に顔を寄せていった。……そしたら……ハアハア……そしたら……ハアハアハア……げ…げぎゅっがごぎっぼぎゅごぎがががががががぎぎゅぎぎゅぎっぎゃぎゃぐごぎっぼぼぐぼぼぼぼぼっぼぼ……


    

     

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