俺の配信をゴースティングしてくるやつが現実でもゴースティングしてくる〜愛が激重のヤンデレから逃げられるアプデはよ〜

司原れもね

第0話 明日も会いに行きますね

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!! もう、またこいつかよ!!」


 暗闇に光る24インチのモニター。

 そこに映し出された[敗北]の二文字を見て、俺は苛立ち紛れにキーボードを叩きつけた。


「もうこれで何回目だよ! 一体どうなってんだこのゲームのマッチメイキングは……。毎試合こいつと当たるんだが!?」


 というのも、ここ数か月、俺はとあるプレイヤーから執拗に粘着されていた。

 名前は【tiny_Jackal】。

 厄介なことにコイツはただ俺と同じマッチを狙い撃ちしてくるだけではない。

 俺が勝ちそうになったタイミングや、ランクが上がりそうになったタイミングにまるで見計らったかのように現れては俺の邪魔をしてくるのである。


 おかげで俺の戦績はボロボロだ。

 ランクは一番下のプランズのままだし、勝率は一桁台まで落ちてしまった。

 しかも、これは5対5のチーム戦FPS『虹七』での話。

 俺にはもう一つ、よくやるバトルロワイヤル形式のゲームがあるのだが、そちらに至っては驚異の勝率0パーセントである。


 そもそも、俺がこの【tiny_Jackal】より弱いのが問題といえばそうかもしれない。

 しかし、いくらなんでもここまで一方的に負け続けるものだろうか。

 それこそチートでも使っていないと説明が付かないレベルだ。

 俺だってゴースティングされる前はそこそこ強い方だったし、実力で視聴者を集めていた自覚もある。

 それが今ではボコボコにやられて、その笑いで視聴者を呼んでいる始末だ。


「あ〜もう、やめだやめ! 今日の配信はここまで」


 コメント


『草www』

『また同じやつにやられてるwwwww』

『本日もお疲れ様でした』

『無様すぎワロタ』

『草に草生やすなwww』

『負け犬乙!』

『ざぁこ♡ざぁこ♡』

『もう諦めろって』

『早く引退しろ雑魚』

『まだやってるのか……』

『最近ずっとこれだよな』

『チャンネル登録者1.99万人から増えなくて草』

『いい加減諦めろw』

『ゴースティング相手に連敗中とか恥ずかしくないんですか?』


「うるさいなぁ。お前らも早く寝ろ。肌に悪いぞ。じゃあな。おやすみ」


 それだけ言って、俺は配信画面を閉じる。

 最後にコメント欄を確認すると、そこに見えたのは赤い背景に白い文字で記された、一際目立つコメント。

 所謂スーパーチャット、投げ銭と言われるものだ。

 金額は上限いっぱいの5万円。

 送り主の名前は【tiny_Jackal】。

 ゴースティング野郎と全く同じ名前である。


「はぁ……」


 通常ならばゴースティングなど、通報してしまえば、それで終わりだ。

 しかし、俺にはどうしてもそれができない理由があった。

 それがこのスパチャだ。


 奴は毎度毎度、俺の配信をゴースティングしてくるが、同時にスパチャも毎回投げてくる。

 それも、1万円以上の赤スパばかりを、何度も、何度も、何度も。

 ゴースティングされるのはストレスだが、収入の少ない高校生である俺にとって、この金額はかなりありがたいのも事実。

 故に、俺は奴のアカウントをブロックすることができずにいるのだった。


「どうせまた同じような内容だろ……」


 もはやお決まりとなった流れ。

 慣れた手つきでマウスを操作し、赤スパにカーソルを合わせた。


「なっ……!」


 瞬間、俺は思わず声を上げてしまう。

 画面に映し出されていたのは全く予想外の文章だったからだ。

 いつもならば、『対戦ありがとうございました』だとか、『次回も楽しみにしています』みたいな当たり障りのない文章が書かれているのだが、今回は違う。


————————————————

tiny_Jackal

¥50000

明日も会いに行きますね

————————————————


 たった一言、そう書かれていたのだ。


「なんなんだよ……マジで……」


 言い知れぬ恐怖を感じた俺は、慌ててパソコンをシャットダウンしてベッドへ逃げるように潜り込んだ。


 明日、配信の予定はない。

 ならば会いに行くとはどういうことだろうか。

 特になんの意味もない奴の気まぐれか?

 それとも俺に直接…………。

 考えれば考えるほど、嫌な想像が頭を駆け巡る。

 そして、そんなことを考えているうちに、瞼はゆっくりと閉じていくのだった。

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