第11話 よくある話
結局相馬は学校にこなかった。
まあ、昨日の今日で復活は難しいだろうからそれはいいのだが、帰りに星田のところにもう一度行ってみることにした。
コンビニでおにぎりを3個食ってから向かう。
昔から、誰かと飯を食うのが苦手だ。
理由を聞かれても困るが、とにかく嫌だと言うしかない。
咀嚼や口の中に食い物が入っている時に喋る奴を見てしまうと、またらなく不快になる。
そうは言っても、一応社会人なので、参加せざるを得ない飲み会には参加する。
一言で言うと、地獄だ。
長い、つまらない、自分の好みの食い物を選べない。
俺は、「金にならない残業」と読んでいる。
基本的に、他人の話ってのはつまらない。しかも、酒が入っているから、シラフのつまらない時よりもつまらない。
そんな話を笑顔で相槌を打たなくてはいけない状況は、地獄と言っても言い過ぎではないと思う。
それは、気心知れた星田も例外ではない為、事前に食っておく必要がある。
\
「相馬くん、そこの醤油取って下さい」
「はい」
「若いんだからじゃんじゃん食えよー」
なんか、楽しく食事をしていた。
自分より仲良くなっていて、嬉しいやら楽しいやらよく分からない気持ちを味わいながら挨拶をする。
「お。先生が来たぜ」
星田の揶揄うような声に反応して、少しホッとしたような顔で俺を出迎える相馬。
「元気そうで良かった。飯食ってからちょっと話そうか」
相馬達が食っているのはお好み焼き。
中断しにくい食い物TOP10に入るだろう。
あと4分の1くらいみたいだから、適当に待つことにする。
3人のテーブルとは少し離れた場所で文庫本を開く。
今日中に読んでしまえるのなら読みたい。
20分もあればいける。
\
「センセー」
物語の世界から離脱する。
「おー。早いな」
多分10分くらいしか経っていないと思う。
「めっちゃ急いでたよー」
星田が食器を片付けたさながらバラす。
「別に急いでないっすよ」
いやぁ、あの量を10分で食って急いでないは無理があるだろう。
本当だったら大食い大会に出るべきだ。
しかし、そうか。
やっぱり教師が近くにいると落ち着けないか。
だったら、さっさと済ましてしまいたいという気持ちから、早食いになったのだろう。
「申し訳ねーな」
「・・・別に」
『別に』が多いお年頃らしい。
俺も高校生の頃は、何かと『別に』を使っていた。
やる気がないと相手に伝えるのには、便利な言葉なのだ。
「で?あいつら、相馬にたかってんの?」
俯く相馬。
こういう時の遠回りは、相手が馬鹿じゃない場合は逆効果だ。雑談から入って、緊張を溶かそうとしていると気付かれたら、余計に心を閉ざす可能性がある。
相馬は、成績は良くないが、馬鹿ではないので、シンプルに聞いた方が良いと考えた。
「・・・」
無言。
急かさず、自分の指をいじりながら待つ。
「最初は、1000円とかだったんだ」
\
よくある話だ。
友達がいない奴にいい顔して近づき、ゲーセン代やらファミレス代を押し付ける。徐々に金額は上がっていき、『友達』というワードをぶら下がらせて、遊び倒す。
もしこれが、金持ちに対する『友達詐欺』なら、そこまで不快に思わなかったが、相馬の家は、そこまで裕福ではない。
普通の一般家庭。
金を巻き上げるのは、富裕層に限る。
彼らに「こいつになら金を払っても良い」と思わせるのが、金儲けの近道だ。
間違っても、普通の高校生をターゲットにしてはいけない。
俺の中のルールに反したあのブサイク達は、地獄に落とす必要がある。
相馬のためではなく、俺がスッキリするために。
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