第45話◆ くすぶるハート

 攻撃力は文句ない。というか単純な威力だけならイノリの魔法よりも上だ。

 こんな超打撃を使わないと倒せないモンスターなんてこの辺りにはいないし、素材用に狩った魔獣も彼女が力の調整を誤れば木っ端みじんになっちまう。


 彼女がこの力をいかん無く発揮できる場所があるとすればS級の迷宮か、異大陸くらいだ。それこそ俺たちが黄金郷を目指し、攻略寸前で夢破れたプリスクスの迷宮ならば……。あの守護者にだってダメージを与えることができるかもしれない――。


「どうどう? あたしは魔法が使えなくてもすごいのよ!」


 アルカナの得意げな声に俺はハッと我に返った。


「あ、ああ……。まったく驚いたな、アルカナを捕まえたときにこんなパンチを喰らわなく良かった」


 肩をすくめる俺に彼女はふふんと鼻を鳴らす。


 近接戦闘タイプの彼女をパーティの陣形に配置するなら間違いなく前衛だ。しかし前に出過ぎて突っ走しられるのは非常によろしくない。


 ならばやはり本人の希望通り中衛か。それなら俺とイノリでアルカナを挟むことによって攻守のタイミングをコントロールできる。


「よし、アルカナはパーティのセンターに決定だ」


「やったぁ!」と万歳して空を見上げたアルカナが何かを見つけて「ねぇ、あの鳥って食べれる?」と言った。


 彼女の視線を追って空を見上げると、大型の猛禽類が悠々と大空を飛翔していた。


「あ? あー、あの鳥は市場では出回らないけど食べられなくはないな」


「そう、じゃあ捕ってくるから料理してよッ」


 そう言い終わるより早く彼女はジャンプして飛び上がる。


「はい?」


 飛び上がったままアルカナは落ちてこない。そのままグングン空を昇っていく。


「ウソだろ……」


 これはジャンプではない、飛翔だ。信じられないがアルカナは空を飛んでいる。


「ちょっとアルカナ! 勝手な行動はしないで!」


 続いてイノリも飛び上がった。すごいスピードで先行するアルカンを追っていく。


 イノリはすぐにアルカナに追いついて足を掴んだ。そのままふたりは空中で制止する。そしてなにやら言い争いを始めた。


 そうこうしているうちに鳥は羽ばたいて遠くに行ってしまい、捕獲を諦めたアルカナはイノリと一緒に空から降りてきて、俺の前に着陸した。


「……キミたちって空、飛べたの?」俺は啞然と言った。


「は、はい。今までは特に飛ぶ必要がなかったので飛ばなかっただけです」


「なによあんた、そんなこともできないの?」


「いやー……、空を飛ぶって高位の魔術なんだよね、たぶん空飛べる魔術師って世界で一握りくらいしかいないと思う。イノリは魔法が使えるからそんなこともあり得るかもしれないけど、アルカナは魔法が使えないんだよな? でもこれって魔法じゃないのか?」


「うーん、どうなのさ?」とアルカナがイノリに問う。


「あなたが自分で分からないのにわたしに分かる訳ないでしょ……」


「まあいい、それなら魔物と戦闘になった場合、ふたりは空から攻撃してくれるとありがたいな、その方が俺も集中できるし」


「どういうこと? 空に浮いていたら地面にいる敵にあたしのパンチが届かないじゃない」


「そうだな、だからこういった物を利用するんだ」


 そう言って俺は拳くらいの石を拾い上げてアルカナに見せる。


「ただの石ころじゃない?」


「ああ、そうだよ。簡単に言ってしまえば石を投げて当てるだけ。きっとアルカナのパワーなら簡単に魔獣を打ち抜けるはずだ。という訳で、ふたりは空から獣を見つけて攻撃してみてくれ、イノリは光の魔法を打ってみてくれ」


「わかりました」



 という訳で、空から攻撃できる優位性を学びつつ食材をハントしてしまおうという一石二鳥の訓練が始まった。


 思っていた通り、アルカナにはこの戦法がしっくりはまった。彼女は筋力だけでなく視力も良くて、茂みに潜んでいる獣を空から見つけて正確に狙い撃ちしている。


 対してイノリの魔法は遠距離攻撃には向いていないようだ。光の魔法が獲物に届く前に散開してしまっている。それでも回数をこなす度に魔法の精度を徐々に上げていき、散開してしまっていた光を一筋の線に収束させてきている。

 さらに研鑽を積めばきっとイノリにとって強力な武器になるはずだ。


 二つの戦略級の攻撃力に加えて、空から攻撃できるというアドバンテージ。戦い方次第ではドラゴンだって容易に倒せてしまう。

 ひょっとしたら《不撓テナークス・オルカ》は歴史に名を残すパーティになるかもしれない。


 不意に、俺の中で消えかけていた冒険心がくすぶり始めていた。


 




――――――――――――

ここで第四章は終わりです。


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