第32話☆ ちょうはつ
それから五日後です。
いつものランチの場所にリアナちゃんは来ませんでした。
テラス席のテーブルで彼女を待っているわたしの元にやってきたのはサラでした。イジメっ子のリーダーで大商人の娘です。
「いつまで待っても来ないつーの」
そう告げて、ほくそ笑む彼女の眼にわたしの全身は凍りつきました。
「……彼女になにかしたの?」
「だから関わるつったんだよ、バーカ。こうなったのもあんたのせーなんだから」
彼女の取り巻きたちがくすくすと笑います。
「なにをしたのって聞いているの……」
サラはふふんと得意げに鼻を鳴らしました。
「教えてほしいなら頭を地面に擦り付けて私の靴を舐めなさいよ」
「つまらないことに付き合わせないで……、質問に答えて」
彼女はちっと舌を打ちます。
「はん、つまらない奴ね……。あいつの実家が借りている農地を農場主から全部買い取って追い出してやったのよ。今朝ね、あいつにそのことを教えてあげたら血相を搔いて飛んで田舎に帰ったわ、ウケるー」
「なんでそんなことを……」
「え? だって気に入らないんだもの。優等生ぶっちゃって、あたしの方が優秀なのに許せない。だからイジメてやったの。あいつはこの学校に相応しくない。あんたもよ、この学校であんたと話す人間をいなくしてやる」
わたしは立ち上がっていました。彼女と正面から対峙して澄まし顔の彼女を睨みつけます。
「わたしはあなたを絶対に許さない!」
「はあ? 許さない? あんたに何ができるの? 学園長はあんたの後ろ盾にはならないわよ。恨むなら自分の無力さを恨むのね」
「モニカ先生は関係ない。あなたがやったことを取り消して、彼女に謝罪して」
「嫌だって言ったらどうするの? 殴るの?」
「っ……」
言葉を詰まらせたわたしを彼女はにたにた笑います。
「いいわよ、殴り合いしようよ。どっちが強いか勝負してあげる。あんたが勝ったらあいつの農地を戻して、あいつに謝罪してあげる。だけど、私が勝ったらあんたは私の奴隷になるの、どう?」
「わかった、約束だよ」
わたしは迷うことなくそう答えました。驚いたサラが眼を見開かせます。
「あんた……頭おかしいんじゃない? 他人のために勝負して、自分が奴隷になるかもしれないのに、そんなあっさり決めちゃっていいの?」
わたしは首を左右に振りました。そして真っ直ぐ彼女を見つめます。
「私は負けない。早く勝負のルールを教えて」
「ジョートウね……、それじゃあ一対一の決闘にしてあげる。ただし、武器の使用は禁止、ここは魔導学園なんだから純粋な魔術のみで殴り合おうじゃない」
「分かった」
「今日の放課後、術科訓練場にひとりで来い。学園長に告げ口したらただじゃおかないから」
そう告げたサラはわたしから視線を切って踵を返しました。
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