第28話◆ さくりゃく
翌日、初出勤の日がやってきた。
俺は今日から三クラスある魔導剣士科の剣術クラスを受け持つことになっている。
授業は一日三回しかないが一コマ二時間もあるため、昼休憩を含めると六時間以上も拘束されてしまう。
それが週に四回もあって、しかも無報酬ときている。いくらイノリの授業料と引き換えと言っても酷すぎる。さすが守銭奴の魔女と恐れらた女だ。このままでは骨の髄までしゃぶり尽くされてしまう。
当分はクエストに出られない分、生活を切り詰めるしかない。
すでに道場には生徒たちが集まっていた。生徒たちはピタリとおしゃべりを止めて立ち上がり、横一列に整列していく。
ほう、と思わず関心してしまった。
さすが金持ちや御貴族様の子息子女が通うだけのことはある。マナーや礼儀の教育をしっかり受けているようだ。
列の中に道着姿のイノリの姿を見つけた。彼女は俺と視線が合うと少し照れくさそうにはにかんだ。
「今日からキミたちに剣術を教えることになったロランだ。よろしくな」
くだけた口調で自己紹介した俺に対して、生徒たちはきょとんとしている。
「あの……マーチン先生はお休みですか?」
「なんだ聞いてないのか? マーチン先生は家庭の事情でしばらく休むことになったんだ」
そう告げると生徒たちが隣の生徒とコソコソ話し始めた。
「なんか冴えないおっさんだな」
「あんなんで強いのか?」
「学園長の知り合いらしいぞ」
「ふーん」
「え、まさか恋人?」
「まさか、あんな冴えないオッサンがモニカ学園長の恋人な訳ないだろ」
おいおい、丸聞こえなんだけどなぁ……。まったく最近の子どもたちはって、益々おっさん臭い事を言いそうになっちまった。気を付けないとな。
「ロラン先生、ちょっと試合やりませんか?」
そう提案してきたのは俺のことを〝冴えないオッサン〟と評した少年である。
「試合?」
「いやぁ、やっぱり実力を示してもらわないとね、教わる側として不安じゃないですか。僕らも高い授業料払って通っている訳ですから時間を無駄にしたくないし」
「はあ!?」と、でかい声を上げたのはイノリだった。生徒たちの視線がイノリに集まる。
「はあーもにっくあくせるぅー……」
なぜか突然、付与魔術の詠唱を口ずさんだイノリに生徒たちが首を傾げた。
顔を真っ赤してうつむいてしまったイノリを見兼ねて俺は、「あー、確かにそれもそうだな。よし、やるか」と彼の提案を受け入れる。
「じゃあ僕からお願いしま――」
「いや、全員で掛かってこい」
「は?」
「その方が手っ取り早いだろ? 確かに俺は現役バリバリって訳じゃないが、一介の冒険者だ。キミたちくらいの相手なら何人でも相手できる」
「な、なめやがって! みんなやっちまえ!!」
少年の声を合図に生徒たちが一斉に斬り掛かってきた。
俺は彼らの攻撃をひらりと躱して木剣を受け流す。
さらにムキになって攻撃してくる生徒たち。多勢に無勢だというのに戦略も戦術もあったもんじゃない。
だけど、彼らを見ていると強くなるためにがむしゃらだった昔を思い出す。
ガラじゃないと思っていたが、教師ってのも悪くねぇなと思ってしまう自分がいた。
モニカの策略のまんまと嵌ってしまった気がしてならないが、今はこの時間を存分に楽しもう。
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