第10話☆ ケーブル破断
「ふーむ、元の世界への帰還か……」
そう呟いたロランさんは顎の無精ひげに触れます。
思ったとおり、彼は突拍子もない話を馬鹿にしたり嗤うことなく真剣に聞いてくれました。思わず涙が出そうになってしまいます。
「ちなみに嬢ちゃんの世界では嬢ちゃんみたいな魔術士が一般的なのかい?」
「えっと、一般的かどうかはなんとも言えませんが似たり寄ったりです」
彼はわたしが想定していた質問とは別のことが気になったようです。もっと文化や歴史について聞かれると思っていました。
「変身するとみんな髪の色が変わるの?」
「変わる子もいれば変わらない子もいます」
「そか、戦闘体系になると髪の色が変わるって不思議だよね。どんな効果があるの?」
「特にありません」
「服が変わるのは? 防御力が上がるとか?」
「変わらないと思います……」
「でもあの状態にならないと魔法が使えないと」
「そうですよね、こっちの世界の人からしたら変ですよね」
「いや、俺は可愛いと思うけど」
「っ!?」
可愛いと言われて、わたしの顔が熱を帯びていくのを感じました。思わず目を逸らしてしまいます。
「あー……すまん、いやその、ただ素直な感想を言っただけで変な意味じゃないんだ。ほら、猫とか犬とかさ……。可愛ものは可愛いって意味だから」
素直にかわいいと思われていた事実を告げられてさらに体温が上昇します。もうロランさんの顔を直視できません。
「どのみち俺は魔術は専門外だ。世界を移動できる魔術について、知り合いの魔術士に聞いてみるよ」
「あ、ありがとうございます……」
ロランさんの協力を得られたのに、わたしは自分の顔を両手で覆っていました。
☆☆☆
ゲットした素材をギルドで換金してこの日のクエストは終了です。
「じゃあ、気を付けて帰るんだぞ」
「はい」
この後、ロランさんはさっそく知り合いの魔術士の方を訪ねてくれるそうです。
今夜の夕食を一緒に食べられないのは残念ですが、わたしのために動いてくれているのだから文句は言えません。
「はい、お疲れ様。これが今回の報酬よ、確かめてね」
ティナさんから銀貨と銅貨の入った革袋を受け取ったわたしは、金額に相違がないか袋を開けて確認します。
クエストで得た報酬はロランさんと完全に折半です。正直に言ってしまえば、あまり役に立っていないわたしの取り分はもっと少ないはずなのですが、ロランさんは言います。
「パーティで揉める原因の第一位が金だ」と。だから貢献度に関わらず均等分配にしないとダメだそうです。
ちなみに二位はパーティ内の異性関係とのことでした。
そんなことを言うロランさんですが、お金の管理に関してはかなり無頓着で、分配の管理はわたしに一任されています。わたしが渡した硬貨を何も言わずに、確認もしないで受け取って終わりです。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
中身を確認したわたしはティナさんに頭を下げて踵を返しました。
「うっ……」と顔を引きつらせて、わたしは思わず立ち止まります。
目の前に立ちふさがっていたのは《紅き鮫》のリーダーのカインさんでした。さらに彼の後ろに他のメンバーが控えています。
「イノリ、新しいパーティは順調みたいじゃないか」
カインさんは言いました。その後ろではスヴァンさんが鼻で嘲笑っています。
「捌くだけしか取り柄のない決定打に欠けた前衛と変身しないと魔法が使えないノロマな魔術士のコンビにしては、実によくやっていると思うぞ」
口調は悪気がない風ですが、完全にわたしたちを馬鹿にしています。
「だが、クエストの難度が上がればお前らは行き詰まるだろう」
「え?」
「これまでちまちまやってこられたのも単に運がよかったからだ。今のままだと全滅する日も近い」
「な、なんでそんな意地悪なこと言うんですか」
「事実だ。理由が知りたいなら教えてやる、模擬戦でな」
「模擬戦?」
「そう、実戦を想定したパーティ同士の練習試合だ」
「なんでそんなことしないといけないんですか」
「俺たちに負けるのが怖いのか?」
「勝つ負けるではなくて、別に興味がないだけです」
「はっ! 売られたケンカも買えねぇのかよ、《不撓(テナークス)の鯱(・オルカ)》が聞いて呆れるな。完全に名前負けだろ、弱腰イワシに変更しろよ!」
スヴァンさんが嘲るとアイリンさんとエマさんが、ぎゃははと大声で笑い始めました。
そのとき、わたしの中でレインボーブリッジを支える巨大なケーブルがぶちんと破断する音がしたのです。
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