【第二章】アウトオブザマウスカムズイーブル

第9話☆ 告白

 おはようございます。

 わたしの名前は因幡いなばいのり、十四歳です。前の世界では都内の中学に通う中学生で、街を守る魔法少女をしていました。


 しかしある日、人々の祈りが宿った特別な宝石からその力を奪おうとする悪い魔法少女アルカナの魔法によって、わたしはこっちの世界に飛ばされてしまったのです。


 元に戻る方法を探しながら生活費を得るため冒険者になったのですが、パーティから追放されたりパーティを首になったりパーティのお荷物扱いされたけど、今はなんとかやっています。


 顔を洗って着替えたわたしは「よしっ!」と気合を入れて部屋を出ます。すると隣の部屋のドアが同じタイミングで開きました。


「おはようございます」

 

 わたしは彼に頭を下げて朝の挨拶をします。


「ああ、おはよう。それじゃ今日も行こうか」


 お父さんよりも少し若いこの男性はロランさんです。ふたりだけのパーティ、《不撓の鯱》のメンバーであり、困っていたわたしに手を差し伸べてくれた恩人でもあります。


「はい!」


 わたしが気合い入れて返事をすると、ロランさんは優しく微笑みました。

 彼と出会ってからもう一ヶ月が経とうとしています。ずっとお世話になりっぱなしで、今住んでいるアパルトメントだってロランさんの紹介で借りることができました。 


 わたしを導いてくれるロランさんですが、ほとんど自分のことを話しません。


 分かっていることは年齢と熟練の冒険者であること、基本的にソロとして活動していたことくらいです。顔が広く、冒険者界隈以外にもこの街に知り合いがたくさんいます。

 人の過去を詮索するのはあまり良いことではないと思うので、根掘り葉掘り聴いたりしません。

 ロランさんもわたしについてほとんど聞いてきません。

 この世界に来て間もない頃の話を少しだけしました。わたしが話せるのはそれくらいなのです。

 だって、わたしが別の世界からやってきたなんて言っていたら、たぶん変な子だと思われていたでしょう。


 クエスト中に発生したモンスターとの戦いでは、わたしが変身するまでロランさんが時間を稼いでくれます。

 でも、わたしは知っているんです。街の周辺に出現するモンスターだったらロランさんひとりでも対処できることを。だって彼は今までソロで活動しているのですから。

 もちろんキマイラみたいな例外もいるけど、あのとき以来ロランさんが苦戦している姿は見ていません。


 なにが言いたいかというと、彼は敢えてわたしに戦う機会を与えてくれているのです。

 経験値を積ませる目的もあると思います。でも、本当の理由はわたしに負い目を感じさせないためだと思います。

 キミが必要なのだと、前衛としてわたしを守るロランさんの背中が語ってくれます。


 変身に掛かる時間は相変わらず短くならないけれど、毎日クエストをこなして生活が安定してきました。日々の食事以外に服や雑貨が買えるようにもなりました。


 一番重要な元の世界へ帰る手立ては見つかっていません。

 ただ、アルカナの魔法で転移したのなら彼女が使っていたのと同じ魔法を使えば戻れるはずです、なのです……。

 幸いにもこの世界にも魔法はあります。

 解決の糸口があるとすれば、そこなのです。


 そして、この世界の魔法について知るなら冒険者であるロランさんを頼るのが一番だと考えました。


 彼なら元の世界に戻る方法を一緒に探してくれるはず。今こそ秘密を打ち明けるときが来たのではないか、そう判断したわたしは切り株に腰を掛けて休憩するロランさんに真実を伝えました。




※いのりの画像を追加しました。

https://kakuyomu.jp/users/doudoumeguru/news/16817330659239757279





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