第4話◆

 ギルドでパーティ結成届を提出した俺たちは、さっそく薬草採取のクエストをチョイスする。

 今の俺たちには、ちょうどいいレベルのクエストだ。


 こういったお使い系クエストは、駆け出し冒険者以外はやりたがらず人気がない。しかし傷薬を作るために必要な薬草の需要は、年中絶えることがなく報酬もそこそこもらえる。


 討伐系クエストの合間に小遣いを稼ぐ手段としてやるのが一般的だ。

 

 薬草が取れるこのエリアのモンスターなら俺ひとりでも対処できるだろうし、彼女を守ってあげられる。ついでに彼女の実力を確認することもできる。


「行こうか」


「よろしくお願いします!」


 イノリが気合の入った声を上げた直後、ぐぅ、と鳴ったのは俺の腹ではない。


 お腹を押さえた彼女の顔は真っ赤だ。

 思わずくすりと笑ってしまうと、彼女の顔がさらに沸騰する。

 俺はカバンの中からバケットの入った紙袋を取り出して彼女に差し出した。


「食うか? うまいぞ」


「あ、ありがとうございます。いただきます」


「ゆっくり昼メシにしたいところだけど、日が暮れる前にできるだけ薬草を採取してしまおう」


「ふぁい」


 イノリはバケットを口に含みながら返事をする。


 この様子だとまともに食事を取っていなかったようだ。なんとか今日の夕飯代くらいは稼がせてあげたい。


 そんなことを考えつつ歩き出すとイノリは後ろから付いて来た。


「薬草採取の経験は?」


 イノリは頭を振る。


「この街の北、フィルの森で生息しているコウレス草ってのが傷薬の元になる薬草でな。今の相場だと末端価格でグラム五、六コプレってところだ」


「わたし、まだこの世界のことよく知らなくて……、ひょっとしてこのクエストってひとりでも出来ましたか?」


 この世界? 妙な言い回しをするな、こっちの大陸のことを言っているのか?


「熟練の冒険者なら単独でも問題ないが、駆け出し冒険者ならふたり以上でやった方がいいだろう。周囲を警戒しながら採取しないといけないから、嬢ちゃんひとりでこのクエストやっていたらモンスターにやられていたかもしれない」


「そう……ですか」


「今まで在籍していたパーティはどんなクエストを主に受けていたんだ?」


「討伐と迷宮の探索です。どちらも素材集めが目的でした」


「じゃあだいたいどんなモンスターが出現するか分かるな?」


 イノリはこくりと頷く。


「これから行く場所は森だから魔獣がメインだ。だがスライムも出る。毒を持った紫色のスライムには注意しろ」


「わかりました。あ、あのロランさんのそれって……」と彼女は俺の腰にある一振りの獲物に視線を送る。


「ああ、これか? 東方から伝来した剣でな、カタナっていうんだ。嬢ちゃんは見た感じ東方人のようだが生まれは向こうかい?」


「それは……」


 彼女は言葉を詰まらせた。なにか事情があることは分かってはいたのに余計なことを聞いてしまったな。


「すまん、生まれた場所なんてどこでもいいよな。さて、少し急ごう」


「はい!」


 俺たちはフィルの森に向かって歩調を早めた。






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