オタクで厨二病の私が世界を救う? 〜異世界ライフは天敵男子を添えて〜
無月兄
第1話 天敵男子の雑用係になりました!
私、新木千代は激怒した。そして怒りに任せて、生徒会室のドアを開ける。
「いったいどう言うことですか!」
ここまで声を荒げるなんて、いつ以来だろう。普段は教室の隅でひっそりとしてるモブキャラな私が、生徒会に怒鳴り込み。
とんでもないことしてるって自覚はあるけど、それでもこれは、黙ってなんていられない。
「どうしてマンガ研究会が廃部になるんですか!」
私たちの通うこの中学にある、マンガ研究会。その名の通りマンガを描く部活で、大きな実績があるってわけじゃないけど、部員はみんな仲が良く、楽しく活動していた。
ついこの前、新しい学年になって再スタート。残念ながら新入部員は入ってこなかったけど、これからも楽しくやっていこう。
そう思ってたけど、今日授業が終わって顔を出した時、三年生の先輩がこう言ったの。
『うちの部、廃部になるらしいの』
廃部。つまりマンガ研究会がなくなるってこと。そんなのイヤだ!
何としても止めないと。そう思ったその時、頭に浮かんだのは、生徒会との直談判だった。マンガやアニメでも、部活動が廃部の危機になると、生徒会に訴えるってのがお約束。ならば私もそうしよう。
善は急げと、先輩の制止を振り切り生徒会室へとやって来て、今に至るというわけだ。
「廃部の理由を教えてください。そしてどうやったらそれを免れるかも教えて。いえ、いっそこの場で廃部を中止にしてもらえませんか!」
「いや、そう言われても……」
私の剣幕に、生徒会長も他の役員も、明らかに気圧されてる。これはチャンスだ。
このまま一気に頼み込んで、廃部をなしにしてもらおう。
そう思って、さらに声を張り上げようとする。
だけど……
「うるさい。そして迷惑だ」
「ぎゃん!」
そんな言葉と共に、頭に衝撃が走る。後ろから、勢いよくチョップを食らったんだ。
それに気づいたのは、ジンジンと痛む頭を押さえながら、なんとか顔を上げた時だった。
そしてその一撃を振り下ろした相手の顔を見たとたん、思わず顔が引きつった。
「りゅ……流星君。なんでここに?」
「ああ? 生徒会役員が生徒会室にいて何が悪い?」
「い、いえ。悪くありません」
彼の顔を見たとたん、さっきまでの勢いが一気に消える。それどころか、恐怖から身を守るように身を縮める。
私を見下ろす彼は、すっと通った目鼻立ちにキリッとした表情という、いかにもなイケメン顔。だけど私には、その顔が悪魔のように見えていた。
しまった。マンガ研究会存続の危機ですっかり忘れていたけど、生徒会には彼がいたんだ。
彼の名は杉野流星。私がこの世で最も苦手としている相手だ。天敵って言っていい。
「杉野、その子お前の知り合いか?」
事態を見守っていた生徒会長が、流星君に訪ねる。
「俺のクラスメイトですよ。あと、小学校から一緒でした」
「へぇ、友達か?」
「違います!」
友達なんてとんでもない。
確かに付き合いは長居けど、仲がいいなんてことはなくて、むしろ流星君のことは昔から苦手だった。
最近は、同じクラスにいても、できるだけ近づかないようにしてたくらいだ。
「俺たちのことはどうでもいいんで、それよりコイツの言ってたマンガ研究会の話をしましょうよ。会長からも言ってください。ここに怒鳴り込んできてもムダだって」
「ムダって、どうして? そんなにマンガ研究会を潰したいの?」
今や、マンガは日本が世界に誇る文化だよ。そして何より、マンガ研究会は私にとって大切な場所。それを潰そうって言うなら、例え相手が流星君でも断固戦うつもりでいた。
そりゃ、怖いけど。とっても怖いけど。
すると、なぜか流星君は大きなため息をついた。
「俺は別に、マンガ研究会を潰そうなんて思っちゃいない。けどな、まずお前は、大きな勘違いをしている」
「な、なに……」
「生徒会にはな、部活を潰したり存続させたりする権利はないんだ」
「…………へっ?」
間の抜けた声をあげると、周りにいる人達が一斉に吹き出した。
「いや、だって、こう言うのって、大抵生徒会が裏で糸を引いてるってのが定番じゃ……」
「そんなの、マンガの中の話だろ。現実の生徒会にそんな力があるもんか。マンガと現実をごっちゃにするな」
「ううっ……」
「お前、昔からそういうとこあるよな。おまけに小学校の頃から厨二病を発症して、自分のあだ名を漆黒の堕天使にしてくれってみんなに頼んで……」
「ぎゃぁぁぁぁっ! やめてーーーーっ!」
なんてことを言い出すの!
これには、他の人達も吹き出すどころか、思いっきり笑いだした。
思えば流星君はいつもこうだった。
小学生の頃から頭がよくて、先生からの評判もいい模範的な優等生、なんてのは表向き。その実、何かと私にちょっかいをかけてきては、やれトロいだの言ってきたり、オタク趣味をからかったりするようなやつだった。
「し、失礼します」
廃部と生徒会に関係がないなら、もうこんなところにいる必要はない。
さっさと生徒会室から出ていこうとしたけど、次の言葉を聞いてピタリと足が止まる。
「まあ生徒会は関係ないにしても、廃部の原因くらいは知ってるけどな」
「えっ……」
「聞きたいか?」
正直、今すぐ流星君の前から逃げたしたい。だけど、廃部の原因を知らないと、これからどう動いていいかも分からない。
「……教えてください」
渋々、仕方なく、不本意ながらも、ここは頷くしかなかった。
「ああ。って言っても、そこまで難しいものじゃないけどな。廃部の理由は、単純に人数が足りないからだ。うちの学校では、人数が五人を切った部活は廃部になる決まりなんだ」
今いるマンガ研究会のメンバーを数えてみる。三年の先輩が二人で、二年が私とあと一人。そして、昨日までの仮入部期間を終えた結果、新しく入ってきた一年生はゼロ。つまり合計四人で、部活存続にはあと一人足りない。
だけど今の話を聞いて、まだ希望も見えてくる。
「でも人数が足りないからダメってことは、あと一人でも入ってくれる人がいたら大丈夫なんだよね。だったら、人を集める」
入ってくれそうな人の当てなんてないけど、たくさんの声をかければ、もしかしたら見つかるかもしれない。
だけどそんな期待は、次の流星君の言葉で打ち砕かれることになる。
「言っておくが、廃部かどうか決まるのは仮入部期間の次の日、つまり今日までだからな」
「えっ……」
さらに、それまで事態を見守っていた生徒会長も口を挟んできた。
「うちの学校、俺達生徒会メンバーを除けば全員が何かの部活に入らなきゃいけないし、掛け持ちは無理。仮入部期間が終わった今、新しく入ってくれる人を探すのは難しいかもね」
「なんですかその鬼畜難易度は!」
「そう言われてもねえ……」
そんな。残り時間がないのに加えて、入ってくれる人を探すのも難しい。いくらなんでもこれは無理じゃない?
ガックリと膝をつく私。だけどそこに、再び流星君が声をかけてくる。
「お前、そこまでしてマンガ研究会が無くなるのが嫌か?」
「嫌!」
流星君には分からないかもしれないけど、私にとってマンガ研究会は大切な場所だった。だって、周りの目を気にせすオタク趣味や厨二病を解放できる場所なんて他にないの!
「なら、俺が入ってやろうか?」
「えっ?」
流星君、今なんと?
「さっき会長が言ったように、生徒会メンバーは部活に入らなくてもよくて、実際俺も入っちゃいない。けど、入ろうと思えば入ることはできる。そうすればマンガ研究会は5人になって、無事存続だ」
「本当に、入ってくれるの?」
夢を見ているのだろうか。まさか流星君からこんな優しい言葉を聞けるなんて。
「ただし──」
ほらきた!
分かってたよ、そんな上手い話なんてそうそうないって。いったいこれから何を言うつもりなのか、恐る恐る次の言葉を待つ。
「お前、雑用係として生徒会を手伝え」
「な、なんで? だいたい雑用係って、何させる気?」
「毎日忙しくて人手が足りねーんだよ。具体的に言うと、俺の下について指示通り働けってこと。ちょうど、顎で使える奴が欲しかったところなんだ」
顎で使うって、そんな録でもない表現を堂々と。だけど、周りにそれを咎める者は誰もいなかった。
「おおっ、入ってくれるなら助かるよ。杉野の下で働くのは大変だろうけど、頑張ってね」
「いえ、入りませんから!」
冗談じゃない。そんなことしたら部活に行く時間が減っちゃうし、何よりしょっちゅう流星君と顔を合わせなきゃいけなくなる。
「別に断ってもいいんだぞ。ただし、そうなるとマンガ研究会は廃部だけどな」
「鬼、悪魔!」
「何とでも言え。それで、どうするんだ」
「くっ……」
流星君に顎で使われるなんて絶対イヤ。だけど、マンガ研究会が廃部になるのはもっとイヤ。もはや私に選択の余地はなかった。
まただ。私の平穏は、また彼によってメチャクチャにされてしまうんだ。
だけど後から振り返ると、この時の私はまだ甘かった。
生徒会の雑用係なんて、これから巻き起こる、天敵な彼とオタクな私が織り成す異世界での冒険憚と比べれば、ほんの些細なことだったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます