第35話

貴仁、純礼、野口慎一、高橋直哉、播本ありさの5人が、古い店で集まっていた。この店は8年前、"ストーンロンダリング"の会議が開かれた場所であり、今でも個室で重要な話し合いが行われることが多かった。


高田圭司がやや遅れて入ってきた。彼は遅れたことを謝罪し、播本ありさが開発したルミナについて魅力的な技術だと称賛した。ありさは照れた表情を見せたが、代わりに彼女のルミナであるアゼリアがお礼を述べる。


アゼリアは、優美な姿をした妖精のような姿で、透き通るような緑色の瞳と、長い金髪が印象的だった。彼女の背中には繊細な薄翼があり、軽やかに空中を舞っている様子が見えた。


「高田さん、ありがとうございます。私たちルミナの開発に関わる者全員が、そんな風に評価していただけることは大変光栄です」とアゼリアは微笑んで言った。


貴仁は、アゼリアのスムーズな対話能力に興味津々で、研究者らしい好奇心に満ちた目で彼女を見ていた。純礼は、アゼリアの美しい姿にちょっと驚いた様子でありながらも、技術の進歩に誇りを感じていた。


高田が本題に入る。PT-RFIDの軍事利用についてだ。高田重工業では、PT-RFIDの技術を防衛省に提供している。"ストーンロンダリング"で用いた技術である。


具体的には以下の技術だ。

・グローブとリストバンドを一体化したような形状をしたウェアラブルデバイスで、腕の回転と指の動きだけでドローンを操ることができる。

・ウェアラブルデバイスは、PT-RFID技術を用いてミリメートルの100分の1の誤差で腕の回転角度や指の動きを検知する。この高精度な検知デバイスでの動きは、即座にドローンに送られる。

・ドローンはまた、同様にPT-RFID技術を用いて高精度な位置情報の検出を行い、座標、回転角度といった情報に変換される。

・ドローンは高度な演算装置を搭載しており、貴仁が事前に練習したときのシミュレータと同様の演算を行っている。

・この高度な演算により計算されたシミュレータの動きと、実際の姿勢が同一になるようにフィードバックとフィードフォワードの制御を行う。


貴仁はこの技術の優位性を理解している。シミュレータと同じ動きというコンセプトには「シームレスコントロール」という名前を付けている。


既にドローンを使った大会では標準的に使われる技術だ。軍事利用も時間の問題だと思われていた。


5年前、高田重工業はこの技術の提供を打診された。この技術を軍事に利用するなんてと貴仁は抗議した。いつかは使われる技術であり、高田重工業がやらなくてもどこかが作る。であれば手綱を握れる方がまだよいと高田は貴仁に説明する。


最終的にこの技術は提供され、昨年から量産されている。


高田は説明を続ける。近年、AIを用いた軍事技術が発展している。その中でStrike Target Except Allies(STEA)というコンセプトが注目されている。AIは民間人を見分けて攻撃しないようにすると言った高度な行動を取れない。そのため、友軍以外の目につく者を片っ端から攻撃するというコンセプトだ。


民間人の死傷者が増大するため、国際条約で禁止する動きがある。しかし、中華連邦は条約に参加していない。今回、世界で初めて軍事利用される可能性が高い。このSTEAを使った戦闘が始まれば、無差別な破壊と民間人への被害が予想される。


高田はSTEAによって死傷者が増大する理由を説明する。STEAのコンセプトでは、AIが友軍を識別し、友軍以外の目につくすべての対象を攻撃対象とみなす。このため、戦場において民間人や非戦闘員が巻き込まれる可能性が極めて高くなる。


AIは現状では人間と同等の判断力を持っていないため、戦場での状況や環境が複雑化すると、民間人と敵対勢力の区別が困難になることもあり得る。その結果、無差別攻撃が行われ、大量の無関係な人々が犠牲になることが懸念されている。


「STEAのコンセプトのドローンは百万円もかからない」高田は吐き捨てるように言う。

「有事の際には中華連邦から少なくとも数戦、多ければ数万のSTEAドローンが飛来すると予測されている。」

このドローンを迎撃用ミサイルで打ち落とすことはできない。費用対効果が全く合わないからだ。


迎撃用ミサイルは高価であり、STEAドローンよりもミサイルの価格の方が上回る。また、小型で機動力に優れたSTEAドローンはミサイルで追跡・撃墜すること自体も難しい。効果的な対策とは言い難い。


貴仁は、高田に遠隔操作するドローンでこれに対抗するつもりなのかと問いかける。「PT-RFID技術を用いた遠隔操作のドローンを使って、STEAドローンを撃墜するつもりなのか?」



高田は頷き、その考えを確認する。「その通りだ。遠隔操作されたドローンは、より効率的で効果的な対策となるだろう。」そして、貴仁に臺灣民主共和国に行ってほしいと依頼する。


「貴仁、君の技術力はこの問題に対して最適なものだと思う。臺灣民主共和国に行って、その場で遠隔操作のドローンを使ってSTEAドローンに対抗する具体的な方法を検討してほしい。」


臺灣民主共和国は、台湾有事に建国された新興国だ。独自の民主制度を確立し、自由な国を目指している。今では日本と軍事同盟を結んでおり、お互いの安全保障を支え合っている。技術供与という形で日本が支援することになるだろう。


貴仁には、PT-RFID技術を用いた遠隔操作ドローンが有効であることがすぐに理解できた。STEAドローンは、GPSを用いてルートを規定して巡回し、見つけた人を識別し、敵であると判断された場合にのみ攻撃するというアルゴリズムだ。そのため、遠隔操作ドローンでSTEAドローンを攻撃すれば、十分に対抗できるだろうと考える。


ただし、懸念事項としては、貴仁自身のドローン技術が挙げられる。ここ数年、貴仁はドローン操縦に携わっておらず、その技術がすぐに使える状態ではないことを高田も理解している。そこで高田は、横山啓太に依頼したことを告げる。


「横山啓太は、私たちと同じくドローン技術に精通している。彼にも協力をお願いしているんだ。彼が君のサポートをしてくれるから、ドローン操縦の技術面での心配はないはずだ。」


詳細はこれから話し合うとして、貴仁は了承した。

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