第23話

店に到着し、個室に通されると、貴仁は驚いた。目の前には、高田圭司、純礼、そしてありさがいたのだ。


貴仁: 「えっ、なんでみんなここに?」


純礼は少し緊張しながら答えた。


純礼: 「貴仁、ごめん。色々と説明しないといけないことがあって…」


高田圭司も口を開く。


高田圭司: 「私たちもあなたに話すべきことがあるんです。」


ありさは無言で貴仁を見つめていた。彼女の目には怒りと悲しみが混ざっていた。

彼女は貴仁が逮捕されたことに関して混乱しているようだ。


野口刑事: 「実は私たちも、貴仁さんの父親について調べていて、高田さんや純礼さんと情報交換をしていました。」


高田は、苦笑いしながら言った。「T-RFIDシステムのせいで、こんな場所に集まらないと、まともに会話もできないんだよ。今どきの場所では、監視が厳しくてね。どこで会話や画像がシステムに保存されていても不思議ではないのだから。」


「詳しく説明をしたいのだけど」と高田は言う。

「今はそんな時間はないんだ。さしあたって例の石を取り戻す必要がある。」貴仁は驚いた。高田が奪ったわけではないようだ。

石は今警察署の保管庫にある。しかし、いつ持ち出されるかわからない状況だと野口が言う。保管庫は警察署内で厳重に管理されており、入室時にはT-RFIDが用いられており、記録が残る仕組みになっている。野口は警察官としてアクセス権限を持っており、石を持ち出すこと自体は可能だが、その行為が記録に残ってしまうことが問題だ。


「石を持ち出すことはできるんだけど、それじゃあ気づかれちゃうんだよね」と野口が言う。「記録が残る以上、後でバレるリスクがある。だから何か他の方法を考えないと…」


最も重要なことは、盗まれた石が、どこにあるか知られないことだと高田が言う。「解ってしまったら、返還要求が行われるからだ。」


つまり、石を持ち出して知らないうちにどこかに消えてしまうような状況が重要だ。皆はその状況を作るためにどのような手段を取ればいいのか。


問題は持ち出した石の存在を追跡不能にすることだ。

マネーロンダリングならぬ、ストーンロンダリングのようだと貴仁は思った。


高田は説明する。「石の存在や移動を追跡できないようにすることだ。それによって、石がどこにあるか分からなくなる」


これが極めて困難である。

現在、市販されているすべての自動車にはT-RFIDの仕組みが導入されている。

自動車で移動すれば全ての経路がばれてしまう。


「T-RFIDは高田重工業で開発したシステムだ。何とかならないのか?」と貴仁が尋ねる。


高田は苦笑しながら言う。「このシステムは国に納品されている。国の管理者が運用しているんだ。5分間ならば気づかれることなくシステムを停止させることは可能だけどね。」


警察署から高田重工業の本社までは直線距離で15キロほどある。渋滞していなくても30分はかかる。わずか5分での移動は困難だった。


「そこで、君たちが大会に参加しようとしていたドローンを使いたいんだ」と高田が言う。「PT-RFIDを用いた仕組みだ。確かに、この仕組みであれば位置と姿勢を極めて高精度に検出できる。ただし…」


「電波の中継ポイントがない。それが問題だ」と貴仁は言う。


高田はニヤリと笑う。「それについては問題がない。既にルートは選定しているんだ。警察署を出て、狭い路地を抜けて廃線になった地下鉄に進入。地下を通って高田重工業まで移動する。その途中に電波の中継ポイントを設置する」


貴仁は驚く。まさか、東京のど真ん中をドローンで疾走するプランを提案されるとは思わなかった。しかし、確かにこのプランならばなんとかなるかもしれない。


「だが、地下の狭い空間でドローンを操縦するのは難しいんじゃないですか?」貴仁が不安そうに尋ねる。


高田は安心させるように言う。「心配しなくても大丈夫だ。高田重工業が作った最高のドローンを提供するよ。君たちの技術力もあれば、この計画は成功するはずだよ。」

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