第18話
播本潤の容態が大分回復したようだ。貴仁、純礼、ありさは潤に会いに行く。そこで、T-RFIDの認証を受けられていない事情を聴く。
潤は、T-RFIDの認証が始まった頃、建設現場の職を失った経緯を話し始めた。「あの頃、僕は建設現場で働いてたんだけど、突然解雇されちゃってね。それからはなかなか職が見つからなくて…」
彼は苦笑いを浮かべて続けた。「正直、T-RFIDのことをあまり知らなかったんだ。そして、気づいた時には、無職の人たちが政府によってスラム街に移住させられることになっていた。僕もその中の一人だったんだ。」
貴仁は潤の話に懸念を示す。「そんなことをしたら人口が減ってしまう。人口動態は国の基本データだ、それが変わってしまっては、国がどうなってしまうかわからない。」
純礼は深くうなずいて、さらに重要な情報を明かす。「実は、妹の彩音が調べたデータがあるんだけど、これが驚くべきことを示しているの。」
「何が驚くべきなの?」ありさが興味津々で尋ねる。
純礼は言葉を慎重に選んで続ける。「彩音の調査によると、人口の統計データが改ざんされている可能性がある。つまり、実際の人口と公表されている人口が違うかもしれない。」
貴仁とありさは驚く。潤も目を丸くして言葉を失う。
「それってどういうこと?」
純礼は続ける。「つまり、政府が何らかの理由で、国の状況をより良く見せるために、重要な統計データを操作しているかもしれないんだ。これはただの推測だけど、もし本当なら、我々が信じていた社会の現実は、実際の状況とは大きく異なるかもしれない。」
人口の統計データを改ざんする理由は、一気に社会が貧しくなったことを隠すためでしかないと考えられる。まさに、このスラム街のことだ。
「この5年ほどで一気にスラム街が広がってきたって、言っていましたよね?」貴仁は潤に確認する。
潤は頷いて答える。「そうだ。昔はこの地域はそんなに悪くなかったんだけど、ここ数年で急速に悪化してきた。スラム街が広がり、貧困と犯罪が増えてきた。」
純礼は話を変える。ありさのことだ。
潤はまだもう少し入院が必要だが、回復後、学校にも満足に通えない状況に懸念を抱いていた。
「ありさはどうすればいいんだろうね。学校に通うことも大事だけど、この状況を考えると、なかなか難しいだろう…」純礼は心配そうに話す。
貴仁も同意する。「それに、スラム街では安全面も問題だ。ありさを守るためにも何か手立てを考えないと。」
貴仁はこの際だから潤に住む場所を変えてはどうかと思っている。ありさは純礼に懐いているし、大学の近くに住めば、彼女も安心して学校に通えるだろうという考えだ。
「潤、どうだろう?大学の近くに引っ越すのは。ありさも純礼に懐いているし、安心して学校に通える環境を整えることができるよ。」
潤は少し考え込むが、やがてうなずく。「ありがとう、貴仁。ありがたく思うよ。ただ、今はまだ体調が完全じゃないから、元気になるまで待ってくれるかな?」
貴仁も純礼もありさも、潤の回復を待つことに同意する。
ふと、ありさの目が寂しそうになる
貴仁は憂鬱な気持ちになる。
DTS法を調べてみたが、T-RFIDタグを持たない人が新たに持つことを法律上規定していない。
もちろん、申請すれば市役所で発行してもらうことも可能かもしれないが、それには手続きや証明が必要だろう。
何よりも、潤たちのような状況で、そういった手続きがスムーズに進むとは思えなかった。
「大丈夫、もう会えなくなるんてことはないさ」
根拠もないこの言葉はありさに届いただろうか。
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