第17話
「来てほしい」、椎名純礼の声を聴いた。
急いで駆けつける貴仁と啓太の前に、映像が映し出される。確かにレスポンスが返ってきているように見える。周波数は一定間隔ごとに電波を出したり、消えたりを繰り返している。これはASK変調の典型的なパターンだ。
「ASK変調って何?」ありさが尋ねる。貴仁はASK変調について説明する。
「ASK変調、つまり振幅シフトキーイング(Amplitude Shift Keying)は、デジタル通信で使われる変調方式の一つだよ。振幅変調(AM)と似ているけど、デジタル信号を伝送するために使われるんだ。簡単に言うと、ASK変調では、キャリア波の振幅を変化させてデジタルデータを表現するんだ。例えば、振幅が大きい状態をデータの"1"、振幅が小さい状態を"0"として表現することができる。」
「なるほど、そんな風にしてデータを送るんだね。」ありさは納得した様子でうなずく。
そこで、データにおかしいところがないかを1つずつ確かめることにする。周波数の変動パターン、間隔、持続時間など、ありとあらゆる要素を調べていく。
キャリア周波数は5.1525MHz。
「この数値には意味があるの?」播本ありさが聞く。
貴仁はその数値の意味するところを考える。
もし、これが何かのメッセージならば数値に意味を持たせるはずだ。
貴仁、純礼、啓太の3人は様々な仮説を当てる。
純礼は何らかの定数に関連しているのではないかと考えた。「誰もが必ず知っている定数。一定の文明があれば必ず知っている定数だ。」
3人はいろいろな定数を挙げる。円周率、自然対数の底、光速など、さまざまな定数を考えるが、どれも周波数と直接的な関連がない。
「宇宙人も10進数で考えるのかな?」覚えたての知識を使って、ありさが聞く。
10という数字は、人間の指の数から来ていると言われている。宇宙人も指の数がそうとは限らない。
貴仁は首をかしげながら考える。「普通なら2進数だろうと思うけどね。コンピュータの基本は2進数だし、宇宙人にとっても理にかなっていると思う。」
純礼も同意する。「そうだね、それに2進数は情報の表現にも適しているし、宇宙的な規模で考えると、2進数の方が合理的だよね。」
啓太も頷く。「まあ、でも宇宙人の考える数字の体系が何なのかは、やっぱりわからないけどね。」
3人は引き続き、周波数に隠された意味を解き明かそうとする。宇宙人の思考や文化についても想像しながら、彼らのメッセージを理解しようと試みる。
「周波数って、時間で割っているよね。でも秒っていう時間の単位は人類が勝手に作ったものだ。宇宙人や古代人なら、長さではないかな?」啓太がそう提案し、5.1525MHzから波長を計算し始める。
波長(λ) = 速さ(v) / 周波数(f)
この場合、速さは電磁波の速さで、光速(約300,000キロメートル/秒、または約3.0 x 10^8メートル/秒)
λ = (3.0 x 10^8 m/s) / (5.1525 x 10^6 Hz) ≈ 58.24 m
この計算により、5.1525MHzの周波数の波長は約58.24メートルであることがわかる。
宇宙人や古代人という言葉に、ありさは目を輝かせている。貴仁も興味津々で話に参加する。
3人とも何かのファンタジーの世界のような議論をしている自覚がある。大学の部室で、こんなに真面目に科学の話をするなんて、少し変わった体験だと感じる。
「2進数だとすると、2のn乗がちょうどきりがいい数字だろう。」貴仁が提案した。
単位は、宇宙で不変の何かの数字。ある定数の2のn乗倍になっている数値だ。
「あらゆる定数を当てはめて考えてみよう」と貴仁が提案し、3人は様々な定数を試してみる。
ある定数をあてはめた時、手が止まった。
ボーア半径。ボーア半径は水素原子の最も低いエネルギー準位での電子軌道の平均半径を示す値で、量子力学の基本的な概念である。
5.29177E-11(ボーア半径)× 2^40 この計算式の結果が、波長58.24mと完全に一致していた。
この計算式に気づいたとき、貴仁は空を見上げた。「俺はここにいる」まさにそんなメッセージだった。
人間ではない誰かと会話した気分だ。純礼、啓太も同じ気持ちだろう。
「だとすると、他にもメッセージがあるはずだよね。」純礼が言う。
「受信したデータをもっと詳しく確認しよう。」啓太が提案する。
貴仁、啓太、純礼の3人は、受信データを詳しく見る。
送信が間欠的なのは、ASK変調なのだろう。
電波が飛んでいる状態を1、飛んでいない状態がゼロだ。
一定時間1が続き、そのあとしばらく1と0が交互に繰り返される。その後、データが続いているように見える。一定時間後、またしばらく1と0が交互に繰り返されている。
「この交互に繰り返される1と0に囲まれたデータ部分、何か特別な意味があるんじゃない?」純礼が尋ねる。
貴仁は頷く。「うん、おそらくそうだね。これらの1と0のパターンが区切りを示していて、その間にあるデータが重要な情報を伝えているんじゃないかと思う。」
貴仁は、データの長さ、ビット数を丁寧に数えた。なんと、65536個。16ビットだ。というより、256の2乗という方が正しいだろう。啓太もすぐにピンときたようだ。
「これって、もしかして正方形の画像じゃない?」啓太が疑問を投げかける。
貴仁はすぐに反応し、画像を可視化するためのプログラムを立ち上げる。1を黒、0を白でプロットし、画像を表示する。映し出された画像は何の形を表しているようだ。
純礼が何かに気づいたようだ。
「ちょっと待って、これって…」彼女は検索した画像を横に並べる。背中を汗が流れ落ちるのがわかる。2つの画像は完全に一致していた。
1億年前の地球の大陸だった。
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