第4節 千雪が行く ー 魔装帆船編 ー
@anyun55
第1話 リスベル再び
リスベルは肉体を失った。今のリスベルは霊体として存在している。千雪の霊体と繋がってしまった。でも,幸いにして両者の霊体が混じって,混乱するような現象は生じなかった。
リスベルは,千雪が日本に来てから10日後に目覚めた。だが,千雪には声をかけなかった。
それからの1週間は,千雪が寝ている間,千雪の体を支配して,亜空間収納領域に入り,いくつかの魔法書の解読をして過ごしていた。リスベルが千雪の体を支配している間は,千雪の霊体が目覚めることはない。リスベルが目覚めさせないようにしている。
だいたい朝8時頃に千雪は目覚める。いや,リスベルに目覚めさせられている。その後,リスベルは寝ることにしている。お昼ごろ起きて,千雪が経験していることをそのままリスベルも体験する。
ただし,千雪には声をかけない。声をかけてしまうと,リスベルがいつでもいると勘違いされてしまい,リスベルの睡眠中にも声をかけられてしまう。安眠妨害だ。霊体の健康管理に問題が生じる。
それに,ここは月本国だ。自分の知らない世界だ。千雪に声をかけるのは,しばらく様子を見てからにしたい。この1週間で,千雪の周囲の人物の名前を覚えた。そろそろ散歩してもいい頃だ。
千雪が完全に寝込んだ真夜中の2時。
千雪の体を支配したリスベルはベッドから起きて服を着た。千雪の部屋には,靴箱がある。すべて運動靴だ。その一つを履いた。そして,散歩にでかけた。
今の千雪は妊娠している。妊娠8ヶ月だ。ゆっくりとお腹を抱えながら,散歩しなければならない。ときどき,胎児がお腹を蹴る。うん。元気な子だ。
この真夜中の時間帯でも,ときどき人は道を歩いていた。彼らは,奇妙な目つきで千雪の妊婦姿を見た。お腹のでっぱりもそうだが,片方の乳房だけで2.5㎏にもなるJカップの胸をぶら下げていた。これでも,かなり小さくなったほうだ。
真夜中に妊婦が歩くのは奇妙だが,誰も声をかけることはなかった。
リスベルは1時間ほどで散歩を終了した。千雪邸に戻り,また千雪の指輪の中にある亜空間収納領域に入って魔法書の解読をした。
そんな日課を過ごしていた。
そんなある日,いつものように近くを散歩していると,軽快な足音が背後から聞こえた。
トッ,トッ,トッ,ーー
その歩く足音は軽快だった。リスベルは背後から1人の女性に声をかけかれた。
女性「あのー-,すいません。昨日も1人で散歩していまいたよね。その体で大丈夫なんですか?」
リスベルは,その女性を見た。悪意がある人物かどうかは,今のリスベルにはなんとなくわかる。霊体となった身なので,相手の本性を見抜く力がついたのかもしれない。
彼女は悪意はないようだ。そこで,愛想良く返事することにした。
リスベル「ええ,大丈夫です。それよりも,あなたこそ,こんな時間に夜1人で出歩いて大丈夫なんですか?」
女性「そうですね,お互い変ですね。ふふふ。あの,私の家,すぐそこなんです。お茶でもしていきませんか?その体では,少し休んでからのほうがいいと思いますよ」
リスベル「そうね。どうせ暇だし,お茶,ごちそうになろうかしら」
リスベルは,その女性のアパートにいくことにした。そのアパートは,10畳1間で,姉と2人暮らしだ。
彼女の名はアイラ,姉はリブレといった。リスベルは,自分のことを紹介しようかと迷ったが,『リスベル』と紹介することにした。
リスベル「わたしはリスベルと言います」
アイラ「リスベルさんですね?これからよろしく」
この部屋には,毛布と鞄くらいしかない。ほかはまったくない。布団もなければ座布団もない。その様子の見てリスベルは,ちょっと質問した。
リスベル「あの,,,失礼ですが,この部屋,毛布と鞄があるだけですね。引っ越しでもするのですか?」
この質問に,姉のリブレが返事した。
リブレ「いえ,違います。ここで住んでいますよ。ともかく,立ちっぱなしでは疲れるでしょう。座ってください。アイラ,何か飲み物を出してちょうだい」
リスベルはお腹をかかえて,ゆっくりと畳の上に座った。アイラは,冷えていないコーラを紙コップに入れて持ってきた。だって,この部屋には冷蔵庫がないからだ。
アイラ「コーラくらいしかないけど,どうぞ」
リスベル「ありがとうございます」
リスベルは,コーラの入った紙コップを受け取りながら,自分が感じた質問をしてみた。というのも,彼女らは間違いなく月本人ではない。魔界の住民に近い感じがした。そこで,正直に質問してみることにした。
リスベル「ところで,あなたがたは,ここの世界の人ではない感じですね」
アイラとリブレは,びっくりした。
リブレ「え?なんでわかったの?あなたもここの世界の人ではないの?」
リスベルは,自分の勘があったことに少し嬉しくなった。というのも,リスベルが,この月本国でまともに話せる相手が初めて見つかったからだ。嬉しくないわけがない。リスベルは,いつになく,話上戸になった。
リスベル「私は,ちょっと特殊です。この肉体はここの世界ですが,霊体は魔界です。あなた方は,魔界の人に近い臭いがします」
このリスベルの言葉に,姉妹たちはすぐには理解できなかった。
アイラ「えーー?じゃあ,魔界の幽霊がこの世界に来て,女性の体を憑依したの?!」
アイラの理解は,あたらずとも遠からずだ。リスベルは,当面はその理解でもいいと思った。
リスベル「まあ,そんなもんです。わたしがこの体を支配できるのは,彼女が寝ている間だけです。ですから,真夜中に散歩していました」
アイラとリブレは,やっと合点がいった。リブレは,すっかり警戒心をなくし,彼女たちがこの世界に来た目的を言った。
リブレ「そうだったの,,,魔界の霊体なのね。面白いわーー。私たちは,魔界の獣人国から来たのよ。人探しです」
リスベル「人捜しに来たんですか,,,見知らぬ世界で人捜しとは,また大変ですね。でも,どうして月本語がペラペラなんですか?びっくりです」
リブレは,得意げに答えた。
リブレ「そうでしょう。1年間,獣人国でがっちり勉強させられたわ。でも,地球界に来る方法がなかったの。そしたら,魔界の人が,高純度魔力結晶を売り込みに来たよ。国王は,買うつもりなかったけど,でも地球界に行く方法を教えてくれるなら買ってもいいっていったの。その売りこみの人は,すぐOKの返事したのよ。私たちもびっくりよ。ほんとうに地球界なんていけるとは思っていなかったから。国王もびっくりしてたわ」
リスベルは,この話から彼女らのバックがどのような組織かを理解した。
リスベル「ところで,誰を探しているのですか?」
リブレ「獣人国の人よ。親子3名よ。今だと,母親は38歳くらいかな。娘が2人いて,20歳と16歳くらいかな? 母の名は,フォルナ・カネス。娘の名は知らないわ。でも,私たち,そばに近づくと同じ国の人だとわかるのよ」
リスベル「そうなんですか? 探すあてはあるんですか?」
その言葉を聞いて,リベレはきっぱりと答えた。
リブレ「ないわ」
リスベルは,少しおかしくなった。リスベルは,マリアと龍子や茜が獣人国出身だとは知らなかった。
リスベル「まあ,頑張って気長に探してください。そろそろ失礼します」
アイラ「じゃあ,途中まで散歩つきあうわ。身重は大変でしょうから」
リスベルはアイラとすばらく散歩してから別れた。
翌日。
アイラの家の周囲で,治安部隊が待機していた。
α隊隊長「窃盗犯はこのアパートでいいんだな?」
2号「はい。そうです。真夜中の2時前後にコンビニのバイトから戻ってきます。前日は,妊婦の女性に声をかけてアパートに一緒に行った模様です」
α隊隊長「そうか,,,」
α隊の連中は,妊婦が千雪の姿をしていることは,まったく理解していなかった。もし,妊婦の後をつけていったら,千雪邸に戻っていくのを確認できたはずだ。α隊の関心事は,ともなくも,窃盗犯を捕まえることだ。そんなつまらない窃盗犯の確保の仕事などα隊がでるまでもない。しかし,千雪邸の半径50km圏内の事件は,基本的にα隊が対応するという決まりだ。万が一,千雪側が絡んで居あたら,地元警察では対処しきれないからだ。
2号「あっ,窃盗犯が歩いてきました」
α隊隊長「よし,そのまま待機。アパートに戻ったら,押し込む」
α隊隊長たちが窃盗犯と言っていたのは,アイラとリブレのことだ。彼女らは,通行人から携帯や財布を盗んだ。常習犯だ。その犯罪は,すでに20件ほどにもなる。
彼女からが財布だけでなく,携帯を盗むのは,主にネットをするためだ。盗んでもすぐに回線が止められて使えなくなるので,また盗むという繰り返しだ。
しかし,彼女らにとって不幸だったのは,携帯から位置情報がばれるという事実を知らなかった。
2号「あ,また,昨日の妊婦が歩いてきます」
α隊隊長らは,もちうろん,この妊婦がリスベルが支配している千雪だとは知らない。リスベルは,散歩するとき,カツラを被って別人のようにした。髪型でずいぶんとイメージが変るからだ。
2号「あ,窃盗犯と妊婦がまた会いました。一緒にアパートに入りました。どうしますか?」
α隊隊長「かまわん。もしかしたら,妊婦も仲間なのかもしれん。一緒につかまえる。押し込みぞ!」
ドンドンドン!(ドアを強くノックする音)
治安部隊は,アイラたちが入った部屋のドアを強く叩いた。アイラがドアを開けると,すぐさまα隊たちが部屋の中に押し込んだ。
α隊隊長「騒がないでくれ!! われわれは,警察だ。携帯の窃盗犯容疑で逮捕する!」
アイラ,リブレそしてリスベルも,この日本での習慣はほとんど知らない。ただ,警察の役割は理解していた。彼らはおとなくα隊の指示に従った。
ー---
ー 治安部隊(α隊)の調査室 ー
調査室では,アイラ,リブレそして千雪の肉体を支配しているリスベルがいた。
α隊隊長「まず,名前と出身を聞こうか?」
彼女らは,正直に答えた。別に隠すことではない。最悪,暴れて,すべて破壊すればいいだけのことだ。
リブレがまず返答した。
リブレ「わたしはリブレ。隣にいるのはアイラです。わたしたちは,魔界から来ました。魔界の獣人国出身です。2週間ほど前に,この月本国に来ました。なぜか,いろいろと歩き回っていると,この辺りに来てしまいました。
いま住んでいるアパートは1週間ほど前に,以前住んでいた人間を亜空間監禁領域に押し込んで占拠しました。部屋にある雑多なものは,すべて邪魔なので,一緒にその領域の中に押し込みました。
自分たちは,SS級魔法士です。その気になれば,こんな月本国など,焼け野原にできます。でも,そんなことはしません。だって,この月本国には,わたしたちが探している獣人国出身者3名がいるはずだからです」
この話を聞いて,α隊隊長たちは,腰を抜かしそうになった。『SS級魔法士』が,どの程度の魔法力なのかを,身をもって知っているからだ。
α隊たちが,体を硬直して,今にも失禁しそうな状況など,おかまいなく,リスベルが,自分の素性を明かした。リスベルも正直に答えた。何も隠すことはないからだ。
リスベル「わたしは,リスベルといいます。リスベルは,この体を支配している霊体の名前です。この体の持ち主は千雪です。今,千雪の霊体は寝ている状況です。わたしは,千雪が寝ている間に,この千雪の体を支配して,真夜中に散歩しました。
わたしが千雪の肉体を支配していることは,千雪はまだ知りません。明日の朝,千雪は目覚めますが,このような状況になってしまったことは知らないでしょう。
アイラたちとは,昨日,偶然に知り合いました。今日も,またばったりと会ったので,彼女たちの家で休息しているところでした」
α隊のひとりは,ほんとうにオシッコがちびりそうになった。一刻も,この部屋から逃げたかった。こんな化け物を捕まえるなど,どこのバカがするのか?
いや,ここにいた。α隊だ。命がいくつあっても足りない。殺されるだけならまだいい。へたすればこの国が滅んでしまう!
α隊隊長の行動は,早かった。彼の部下からに,すぐに命じた!
α隊隊長「おい,おまえら,一緒に土下座しろ!!」
α隊隊長らは,その場にすぐに土下座した。
α隊隊長「ははっーーー! 誠に申し訳ありませんでしたーーー!」
2号「ほんとうに,ほんとうに,誠に申し訳ありませんでしたーーー!」
3号「同じく,誠に,誠に,誠に,申し訳ありませんでしたーーーー!」
α隊隊長は,すぐに機転を利かした。
α隊隊長「3号! 最高のスイートルームのホテルを至急用意しろ。今日は,そこでゆっくりと休んでもらう。明日になると,千雪さんが目覚めてしまう。ちょっとのミスも許されない! 急げーー!」
α隊たちの行動は迅速だった。ここで,ヘタを打てば,もうすべてが終わりだ。
アイラ,リブレそしてリスベルは,治安部隊が提携している5星ホテルのスイートルームで休んでもらうことにした。
そのスィートルームに,アイラ,リブレ,そしてリスベルを案内した後,α隊隊長は,ちょっとだけ,リスベルにお願いした。
α隊隊長「あの,,,大変申し訳ないのですが,明日の朝,9時ごろに,われわれが来るので,待ってほしいのですが,,,目覚めた千雪さんに,状況を説明させていただくためです。よろしいでしょうか?」
この依頼に,リスベルは快く同意した。
翌朝 朝8時,5星ホテルのスイートルーム
千雪は,スイートルームで目覚めた。
なぜ自分がここにいるのかわからなかった。ベッドの横に,手紙があった。それは,リスベルが昨日の状況をしたためた内容だった。
千雪は,それを読んで理解した。リスベルが勝手に夜,勝手に出歩いたのだ。そして,隣に寝ているのが,獣人国のアイラとリブレで,同じ獣人国出身者を探していることもわかった。かつ,9時には,α隊が訪問するので待ってほしいということも記載されていた。だが,千雪は待つつもりはなかった。
千雪は,アイラとリブレを起こした。
千雪「アイラ,リブレ,起きてください」
アイラ「リスベル,こんなに早く起こさないでよ」
アイラは,寝たりないので,リスベルに文句を言った。
千雪「私は千雪です。リスベルではありません。早く起きたら,獣人国の人を紹介してあげます」
この言葉に,アイラだけでなく,リブレもすぐに反応した。
アイラ「えー-,ほんと?知っているの?」
千雪「はい,ですから,起きてください。
リブレ「でも,9時にα隊の人が来るって言ってたよ。私たち携帯盗んだから捕まったんだって。その件,ケリつけてからのほうが摩擦少ないなんじゃない?
千雪「そうですね。待つつもりはありませんでしたが,待ちましょうか? では,ゆっくり朝食でも食べましょう」
千雪は,折角なので,このホテルが提供する朝食を食べることにした。もちろん,最高級の朝食だ。
非番だった調理人も急遽たたき起こされて,この日の早朝のために,最高級の松坂級や,松茸料理,最高級の海鮮料理などなど,夕食に出すような超豪華な料理が用意されていた。
千雪はこの料理を見て,今回の件は『α隊にお咎めなし』と決めた。
9時になって,α隊隊長と2号が時間通りに来た。彼らは,アイラたちが食事中だったので,声をかけるのを躊躇った。
アイラとリブレは,しょうもない会話をしていた。
アイラ「こんなに早く起こされたら,お肌に悪いよ」
リブレ「でも,こんな豪華な料理なら,お肌にいいわよ。睡眠不足を補ってもおつりがくるわ」
アイラ「その可能性あるわね」
アイラとリブレがα隊のことなど気にせずにこんな会話をしていたので,しびれを切らしたα隊隊長が低調に言葉を選んで本題を切り出した。
α隊隊長「アイラさん,あの,すいません。まず,携帯の窃盗の件をケリつけさせていただきたいと思います。盗まれた携帯は,あなたがたの部屋からでてきました。20台です。これらの携帯は,持ち主に返却させていただきます。それでよろしいですね?」
アイラ「それはいいけど,ネットができないと,また盗んでしまうわよ」
予想された答えに,α隊隊長は,最新型の携帯2台と,同じく最新型のタブレット2台を彼女らに差し出した。
α隊隊長「どうぞ,こちらの携帯とタブレットをお使いください。電話し放題,ネットし放題です。タブレットは,テザリングでネットし放題です。あとで,詳しく使い方を説明させていただきます」
アイラとリブレは,ニコニコしながら,最新型の携帯とタブレットを受け取った。
リブレ「あらら?物わかりはいいわね。そうよ,初めからこうしてくれればいいのよ」
この言葉に,α隊隊長は苦笑しつつも,頃合いがいいころだと思って,大事な要件を切り出した。
α隊隊長「あの,,,あなたがたが占拠したアパートの住人を出していただけますか? あなたがたの住むところは,今準備中です。それまではこのホテルで住んでいただいて結構です」
α隊隊長の対応に,アイラたちは,まったく異存はなかった。
アイラ「そうですか?じゃあ,いまから出しますね」
アイラは,自分のしている指輪に手を当てて,なにやらつぶやいた。魔法の呪文のようなものに違いないと周囲のものは思った。
ヒュヒュヒューーー!
亜空間監禁領域が開かれた。そこから横たわった1人の女性が出現した。若い女性だった。その女性は,1週間も強制的に寝かされていた。幸い,亜空間監禁領域に空気があるようなので,呼吸をすることができたようだ。しかし,飲まず食わずなので,かなりやつれていた。
しばらくして,その女性は目を覚ました。しかし,体力が失われていて,かつ,頭もボーッとして気分が悪かった。
α隊隊長は,その女性に言葉をかけた。
α隊隊長「もう大丈夫ですよ。気をしっかりもってください」
アイラは,その女性に近づいていった。
アイラ「ごめんなさいね。あなたの部屋を占拠してしまって。でもなんとか別の住むところ見つかったから返すわ。あなた,体調がわるいでしょう? 今から回復魔法かけますからね。気を楽にしてちょうだい」
アイラは彼女に回復魔法をかけた。
ボァーー--!
彼女の体全身に白っぽい光が包まれた。その後,彼女はスーーと気分がよくなった。
女性「あっ,ありがとうございます。すごく気分がよくなりました。なんか,奇跡の魔法のようです!」
アイラはクスクスと笑った。
彼女にとって,『ありがとう』と言葉を返す義理はないのだが,ついついそう言ってしまった。
α隊隊長は,その女性に,今回の拘束された件で,精神的な負担と仕事を1週間も休んだことによる賠償として,政府側から100万円程度の賠償金が出ることを伝えた。また,彼女の職場には,α隊から連絡してもらい,もとの職場にスムーズに復帰できるように手配することにした。
そのような対応に,その女性は感激した。ここまで,丁寧に対応してくれるとは思ってもみなかったからだ。
α隊側がアイラとリブレの住むところを探していることを知った千雪は,ちょっと考えてから,α隊隊長にある提案をした。
千雪「彼女らはリスベルの友人です。友人として,彼女らの住むところは,わたしのほうで準備します。α隊の方々は,これ以上われわれに関わらないほうがいいででしょう。あなた方では,とても手に負えないと思いますので」
千雪の言葉はしごくもっともなことだ。α隊隊長としてもありがたかった。
α隊隊長「そうしてもらえるとわれわれとしても大変助かります。あの,できれば,千雪さんのほうで,彼女らにこれ以上この国の治安を悪くするような行為はしないように言ってもらうと助かるのですが,,,」
α隊隊長は,最低限のお願いをした。
千雪「その件はご心配なく。今後,何かをする時は,証拠が残らない方法ですることを約束しましょう」
なんとも,いやな表現だ。でも,それを受け入れるしかなった。
α隊隊長「そうしてもらうと助かります」
千雪「では,要件は終了しました。アイラさんリブレさん,では,一緒に行きましょう。α隊隊長,すいませんがわたしの家まで送っていただけませんか?」
α隊隊長「もちろん,喜んで先導させていただきます」
このホテルの前には,警察の車両10台,SART所有の装甲車2台,大統領クラスの貴賓が乗るデラックス車両1台,さらに白バイ部隊20名がすでに待機していた。
周囲の野次馬たちは,いったいどんなVIPが来たのかと不思議がった。
それは,麦国大統領並みのVIP対応だ。麦国大統領は,核爆弾の発射装置を収納した鞄を持ち歩いている。一方,アイラ,リブレそれに千雪は,生身の体で核爆弾相当の破壊力を有している。当然,これくらいのVIP対応をせざるを得ない状況だ。だが,その事実を知るものはごく限られていた。
その光景をみていたあの拘束された女性はびっくりした。側に控えていたα隊の3号に聞いた。
女性「あの3人たちって,いったい何者ですか??どこかの大統領夫人ですか??」
3号「今回の件は,すべて忘れるほうがいいですよ。あの人達は人間ではありません。簡単にいうと魔法使いです。その力はこの国を滅ぼせるほどです。あなたが生きてここにいること自体,奇跡だったと私は思います。幸い,月本国の常識のある千雪様がここにいてよかったです」
この言葉を聞いた4号は,『ぷぷぷッ』と腹の中で笑った。千雪に月本国の常識? どこが?!
α隊の3号と4号は,この女性を車に乗せて彼女のアパートまで送ってあげた。
α隊の隊長と2号が乗った車が先頭を走り,その後ろには,パトカー5台,装甲車1台,千雪たちを乗せたデラックス車両,装甲車1台,パトカー5台という順番で走り,白バイ部隊は,それら車両を挟むようにして,10台ずつ走った。
2号「これで,とりあえずは解決ですね」
α隊隊長「表向きはな。だが,潜在的脅威は各段に上がった。SS級魔法士が2名も増えるなんてな」
2号「でも。千雪さんのほうでコントロールしてもらえると手間が省けますよ」
α隊隊長「そうだといいんだが。なんか,また大きな事件が起きそうな気がする」
そんな会話をしながら,千雪たちを千雪邸に送った。
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