アイドルの妹になりました。

第1話 スーパーアイドルが我が兄に!?

「こちら、心葉しんばくん。…って、わざわざ紹介しなくても、知ってるわよね。今日から、あなたのお兄ちゃんよ」


「…!?」


私は、固まった。そこに居たのは、ひのき心葉、16歳。アイドルグループ『NEW WORLD』のメインボーカルだった。テレビで、ずっとデビューしてから、応援し続けて来た、それはもう好きで好きで仕方なかった人。


喑縁なより…ちゃんだっけ。よろしくね」


心葉くんは、にっこり、テレビのまんま、微笑んだ。


「…は…はぁ…」


「喑縁、あなた、ちゃんと挨拶しなさい!」


「良いですよ。いきなり僕が兄って言われても、困るのは分かりますから」


「ごめんなさいね。心葉くん。この子、心葉くんが13歳でデビューしてから、ずっとファンだったのよ。だから、いきなりだから、放心状態になっても仕方ないわよね…。でも、喑縁、しっかり、挨拶はしなさい」


「は、はい。長良ながら喑縁です…。15歳です。よ、よろしくお願いします」


棒読みだ。下手な新人俳優より、もっとひどい。ど素人。素人以下。てか、人間以下?な、私の挨拶を、心葉くんは、ニコッと笑って、あんなに憧れた、あり得ないと思っていた、を、私にした。


「改めて、よろしく。喑縁」


(よ!呼び捨て!!)




私は、失神…寸前だった―――…。




「お義母さん、ご飯、美味しいです。お料理上手なんですね」


「まぁ。心葉くん、いいのよ?そんなお世辞言わなくても。おばさんまで照れちゃうわ」


(この人…本当に照れてる…)


娘ながら、恥ずかしくなった。失神寸前になって置いてあれだけど。




心葉くん(お兄ちゃんと呼ばれるのは、何となく嫌だからと、言われたため)の父親と、私の母親は、いわゆる婚活パーティーで出逢ったらしい。心葉くんの母親は、早くに亡くなっていて、男手一つで、お義父さんがずーっと育てて来たと言う。その苦労を知っていた心葉くんが、少しでもお父さんを楽させられないかと、アイドルになることを決めたのだと言う。





⦅ちょ!嘘でしょ!?お母さん!!心葉くんと一緒の部屋なんかに居たら、呼吸出来ない!!⦆


⦅仕方ないでしょ?部屋が無いんだから⦆


⦅でも!!⦆


⦅大丈夫よ。心葉くんがあんたなんて相手にするはずないんだから⦆


⦅……⦆


滅茶苦茶頭に来たけど、まぁ、それもそうだ。








「ごめんね、心葉くん。このマンション、部屋数なくて。真也しんやさんと話し合って、必ず近い間に広い所に引っ越すから。少しの間、この部屋、喑縁と一緒に使ってね」


「はい。解りました。でも…僕は構いませんが…喑縁は嫌なんじゃ…」


(また呼び捨て!!)←失神寸前。


「い、いいです!!大丈夫です!!部屋は…毎日、掃除、してたんで、き、汚くないと…お、思います…」


「もう、喑縁、そんな緊張しないでよ。俺たち、兄妹なんだから」


「じゃ、お休み。心葉くん。喑縁」


「「おやすみなさい」」






「喑縁は…、どんな子なの?」


「え?」


「俺はねぇ…すんごいヤな奴だよ?勉強出来ないし、お世辞しか言えないし、大人の顔色しか見ないし、仕事以外、なんの特技もないし…」


「でも、お義父さんのためだったんですよね?芸能人になったの。すごく、素敵なことだと、私は、思います。それに、私だって、勉強できないし、でも、お世辞は言えないし、大人の顔色なんて見るのも嫌だし、仕事なんかしないで、一生学生のままでいたいです」


「あははははははは!!!すんごいね!喑縁!そこまで言う15歳。すんごい!」


「…そ…そうですか?」


「ねぇ、良い加減、敬語、辞めない?俺たち、!!」


(なんか、他人でいた時より、遠くなった気がするのは…なんでだろう?)


別に、さっきの言動で心葉に幻滅した訳でも、特別な感情を抱いたわけでもないけれど、なんだか、寂しい、喑縁。


「喑縁、こっち来ない?」


「は!!??」


心葉が、床に敷かれた、布団を、ポンポンと叩いて、はらりと布団をめくった。


「い!いかない!いかないです!!」


「あはは。冗談だよ。ごめんね。なんか、自分より年下の子が傍にいると、こんなにホッとするんだね。これから、よろしくね。喑縁」


「…冗談には…いいものと、悪いものが…ありまして…、今のは…絶対、後者だと…」


「あはは。ごめん、ごめん。許して。お休み」


「おやすみなさい…(心葉くん)」















(眠れるか―――――――――――!!!!!)


夜中3時。喑縁の目と頭は冴えたまま。『お休み』してから、一睡も出来ていない。だって、それはそうだ。ずーっとファンだったアイドルが、いきなりお兄ちゃん!?そんなの、誰が想像する!!妄想はするかも知れないけど!!と、11時にベッドに入ってから、頭を回るのは、そんなことばかりだった。心臓が、バクバクして眠れない。


(もしかして…本当に…もしかしてだよ?本当に…心葉くんをすきになっちゃったら…、どうしたら良いんだろう…?告白なんてしたら、家族でいるのも辛くなるし、上手くなんて、行くはずもないし…)


これも、今夜、100回くらい考えた。



すると―――…。



もぞ…っと、布団がめくられた。


「え…?」


「やっぱり、一緒に寝よ」


「は!?」


硬直。


心葉が、喑縁のベッドに入って来たのだ。


(噓でしょ!?)


もう、何が何だか分からない喑縁。


「喑縁、いい匂い。ちょっと、眠れないくて…一緒に…寝て」


そう言って、心葉は、喑縁を抱き枕みたいにして、包み込むと、ほんの1分足らずで寝息を立て始めた。


(ちょちょちょちょっとまって!!どういうこと!?私、どうしたら良いの!?)


完全に、パニック状態の喑縁。


その喑縁をよそに、熟睡中の心葉。


「…傍に…いて…」


寝言…だろうか?心葉が、ぽろっと零した言葉で、急に、喑縁の頭が静かになる。そして、喑縁の耳に、暖かい水が滴って来た。


(な…涙?……心葉くん…。いっか。このままでも…。ねよ…)




すると、何故か、5分後には、喑縁も静かに眠りに落ちていた―――…。

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