ギルド追放① ギルドを逆追放される

 『なりきりプレイ』というMMOのプレイスタイルを知ってるだろうか?


 プレイヤーがその世界の住人になりきり、ノリノリで遊ぶスタイル。

 自分はそれにすこぶる憧れていた。


 だってそうだろ?

 せっかくの仮想世界なんだ。現実とは違う自分になってみたいじゃないか。

 そんなわけで、ボクは初めて遊ぶVRゲームをそのプレイで望んだ。


 なりきりキャラのテーマは『黒の総帥』。


 黒装束、顔には仮面、黒マントをひるがえし、喋り方も中二病丸出しなキャラ。

 今のボクとは明らかに真逆。


 始めるゲームにもこだわった。


 ファンタジー系だと世界観が王道勇者という感じで。

 どうにもダークヒーローが映えない。

 やっぱりリアル系かSF系だと思うけど、乗り物に乗って戦うのはなんか違う。


 そして選んだのはP○VRというゲーム。


 VRMMOのうち、SF色が一番強く、基本生身で戦うRPGだ。



 プレイ当初。


 正直さすがにやり過ぎたかと思ったけど、冷やかしも含めて周りの反応は良好。

 たちまち名物プレイヤーになった。

 何回か動画サイトのライブやラジオにアバターで出演したこともあったっけ。


 活動をしているうちに人に請われてギルドのリーダーをすることになった。

 正直リーダーなんてがらじゃないと思ったけど。


 でもリアルとは違うことをしたくてこのゲームを始めたんだし、いい機会だ。

 まあ、なんとかなるだろう。


 そう思い、続けているうちにあれよあれよと言う間にギルドが急成長。

 『なりきり系ギルド』として有名になった。

 総合のギルドランキングでも3位にまで上り詰めたわけで。


 始めてよかった。


 そう思えた、ボクのVRゲーム体験。

 それが、まさかこんなことになるなんて。




「あのさ、キミ、もう邪魔なんだよね」


「邪魔?

 光をも越えてはるか先をゆく我が、お前たちの行く手をさえぎるとは。

 不思議なこともあるものよ。覇道とは、いつからトラック競技になったのだ?」


「あー、もう、そういうのいいからさ。

 最初は面白かったけど。もう飽き飽きなんだよね、そのノリ。

 時代遅れっていうかさ」


 副ギルド長『グレイディアス』。

 ボクをリーダーの座に導いたプレイヤーだ。


 その彼が、なりきりプレイをやめて素でボクに語る。


「ブハハ! おいおい。

 時代遅れもなにも、コイツの時代なんて来たことねーだろ」


「がーはっはっ、そいつはいいすぎちゃうん? そんな言うと可哀想やで。

 けどまあ、皆の言わんとすることもわかる。

 うちらもう、きちんとゲームを楽しみたいんだわ」


 それにNo6、No3の2人のギルド幹部が続く。

 

 2人もなりきりプレイを放棄。

 もっともエセ大阪弁を話す『バンスキング』は普段と大して変わらないけど。


「愚かな。

 我は顔を仮面で隠しはしているが、心にまで仮面を被るつもりはない。

 我が望むのは時代の象徴として行いを忘れ去られることではない。

 伝説の体現者として心を残すことなのだよ」


 実は正直、自分でもなに言ってるかよくわかってない。


「てか『我』ってなに? ダッサ。ププッ。

 ゲームプレイしてて恥ずかしくねーのかよ?」


「てかさ、ギルドの方針って、いつもキミの気分次第だろ?

 アレを倒すのがカッコいいとか、世界の礎、とか言っちゃってさ。

 僕たちはもっと効率の良い狩りを求めてるわけ。ついていけないんだよ」


「何を言う?

 我はお前の意見を代弁――」


「ひゅーひゅー、あいかわらずカッコいいねえ。

 けどまあ、そういうことじゃあらへんって、わあってる?」


 3人のプレイヤーが言いたい放題だ。




 まあボクもプレイでああしゃべったけど、彼らの言ってることはわかる。


 各設定はフレーバーとして、ゲームはゲームで別に楽しむ。

 むしろ一般的なプレイスタイルからすれば彼らのほうが王道だ。


 でもだったら最初からそういうギルドに入れば良かったんじゃないか?


 てかグレイ。

 ボクをギルド長に祭り上げたの、目の前のお前だよね?


 『キミはそのままでいい』とか言ってさ。

 ついてけないとか、今さらなにを。


 それに、ボクは狩り場やターゲットなどを個人で強制したことは一度もない。


 主にグレイの方針を主軸に他の意見も拾いつつ最良の選択をしていたつもりだ。

 異論が出たときも、それを受け入れるよう最大の努力をしてた。

 それなのに。


 ……まあ、いいや。

 なんにしても、ボクのスタンスは決まってる。




「……なるほど。言いたいことはわかった。

 だが覇道とは『譲ってください』などと言われて譲れるものではないな。

 奪うというのなら、この座、勝負して我から奪い取るがいい!」


「ああ、出たよ。

 まだ言うか、空気読めってーの。基地外かよ」


「ああ、いや別に、このギルドから出ていけって言ってるんじゃないんだよ。

 むしろ、ずっと居続けていい。僕たちがやめるだけだからさ」


「なんだと?」


「ていうか僕たち、P○VRを引退して別ゲームで新しくやるつもりだから」


「そうやで! 新しくギルド作って今度はランキング1位を目指すんや!

 いやー、たのしみだわ!」


「だから、テメーみてえな道化師プレイヤーについてきて欲しくねーんだよ。

 恥ずかしくて仕方がねえ」




 崩壊はあっという間だった。


 ギルドの拠点のメインフロアを埋め尽くすほどいたギルドメンバー。

 それがほんのわずか数分で一人もいなくなった。


 グレイの奴、裏で示し合わせていたんだろう。

 ひょっとしたらギルドを発足した最初からそのつもりだったのかな。


 ギルド員のリストを見てみる。


 直前までは1000を越えるほどいたはずのメンバー。

 なのに今や数人残るだけ。

 最終ログイン日1年以上まえの幽霊メンバーのみが。




 ……いや、一人だけ今日、ログインした人が残っているな。


 しかも、ギルド幹部じゃないか。

 名前は……『スズカ』となっている。女性だ。


 正直、覚えがない。

 最近幹部入りしたんだろうか。


 近くの人や敵を捉えるレーダーを見る。

 メインルームの隅に、反応が確認できた。


 こんなことになっても残ってくれる人がいるなんて!


 嬉しくなって思わず駆け寄ってしまった。




 だが、スズカは近寄っても反応をまったく示さない。



   すー、すー。



 寝息のような音だけが静かに漂う。


 ……多分これは寝落ちだな。


 本来VRゲームで寝落ちはない。

 自動ログアウトされるからだ。


 だけど稀に、体質かなにかでそのしくみが働かない人がいるらしい。

 目を開いたままの顔の真ん前で手をかざしても反応がない。



 そっか。


 多分、ボクと彼らがやりとりをしてるうちに寝てしまったんだろう。

 でなければ、こんな状況でここに残るはずもない。



 それにしても、ずいぶんと綺麗なアバターだな。


 身長は僕のアバターと大体同じ位。

 ゲーム特有のシスター風衣装を着てる。


 体格は女性らしいが胸は……まあ、アレだな。

 肩に届くくらいある金髪。

 それが、リボンによって左右がほんの少し結わえられ、垂れてる。


 顔立ちは整っており、美人と可愛さの中間に位置する。

 目付きが少々鋭いように思えるが、どうあれ否定しようのない美少女だ。


 もっとも、ひょっとしたら中身はおばあさんかもしれないけど。


 VRゲームでは原則として本人と違う性別にはできない。

 でもそれ以外は、見た目など年齢設定も含めてほぼカスタマイズ可能。

 まあどうでもいいけど。


 とりあえずつついてみる。

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