第11話 「新宿駅」の夢

 多分都外に通っている高校生の自分は、自由課題の為に新宿駅に来ていた。

 新宿駅は巨大な駅だ。何故新宿駅が此処まで巨大になったのか、この先の未来新宿駅はどのように変貌するのかについて、過去現在未来の新宿駅について調べる目的で来たという認識をしていた。なので新宿駅についてほぼテレビでしか知らないような感覚だ。

 この自由課題、幾人かの男女と一緒にやることにしていたようで、自分は人混みでごった返す駅構内をはぐれないように周りを見て歩いていた。まず、自分達で歩いて駅の路線がどれ程あるかメモを取ることから始め、改めて答え合わせをする、という方式でいくらしい。

 いくらか場所を把握して次をどうするかと思っていたら、1人が電車オタクだったらしい、ちょうど各線の電車が通るところを写真で撮りたいという話になった。

 早速間近にあったオレンジ色の掲示板が光る階段を上がり、人が行き交う駅構内へと向かい、線路を眺める。

 各線にはガードするような自動ドアが設置されていたが、ここはまだそれが整備されていない。


 飛び降りたら、死ぬだろうか。

 

 この時の自分はここが夢だと認識しておらず、今この体験していることが現実だと思っている節があったことを記述しておく。(マジもんの高校生だと思っていたということだ。)


 電車の到着をアナウンスする女性の声がする。仲間たちは見ていない。自分は迷うことなく黄色い線の外側へ、もうすぐくる電車の前に飛び込もうとしていた。


「危ないでしょうが!!」


 物凄い怒鳴られ、腕をぐいっと強く掴まれ内側に引っ張られた。


「何をしているんですかあなたは!!」


 自分を叱りつけているのは、眼鏡の似合う同級生。優等生とも言われていたような、そんな男の子だ。

(割といい声だな)と思いながら、どうして自分が飛び込もうとしていたのか不思議に思った。

 自分は特に悩みを持っていなかった。進路に悩むとかそういう時期でもない、家庭も、友達関係だって良好で、不満もない。

 なのにどうして。考えても答えはわからなかった。そういえば、やけに暑かったのを覚えている。眼鏡くんも自分の制服も半袖で、季節は夏だったのだろう。

 自分が飛び降りようとしたことを幸いなのか他の同級生は気づいておらず、次の電車の撮影について話をしていた。


 そうして一度あることは二度あって、自分はまた線路へふらりと飛び込もうとしていた。そしてまた眼鏡くんが自分を止めてくれた。


「全くあなたは目を離したらとんでもないことをしでかしますね……!!」


 これ以降、イケメンボイスの眼鏡くんはそう言って自分の隣にボディガードよろしく自分と共に行動するようになった。

 しかし、どうして自分は安易に飛び込もうとしたのだろうか。


 そういえば新宿は、線路飛び込み率が最近増えていると聞いた。だから全線路に柵をつける工事を行なっているとも言われているのを思い出す。そう思い出してすれ違うサラリーマンとかを見ると、なんだかやけに疲れた顔をしているような気がした。


 粗方自分達で駅の地図を描き終えて、駅長室へ持って行く。何故か疲れがどっと出てくる自分に気づいた。眼鏡くんが腕を掴んで歩いてくれなかったら、逸れていたかもしれない。


 新宿はどんどん発展すると言われている。交通の要にもなるから拡大には際限がないとさえニュースでやっていた。

 人々の旅の要となり、活気溢れるだろう駅は、衝動的な自分の終わり、自分の死を願う誰かも運ぼうとしているのかな、と思ってしまったのだった。

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