化け物
たま
化け物
縁側に腰かけて、足をぶらぶらと揺らす。
ここで膝に猫を乗っけて、お茶の一杯でもあれば、完璧なのだけど。
綺麗な満月を眺められるだけで、僕は満足。
雲一つない濃紺の夜空に、星がチカチカと煌めいて、何か囁いているように見える。
「おやぁ。随分と派手にやりましたねぇ」
背後から声がした。聞き慣れている掠れた声だ。
「何も全員やらなくたって、よかったんじゃないですか?」
「別にいいでしょ。この方が、きみも嬉しいでしょ?」
僕は彼のさらに奥、部屋の中に目を向ける。
そこにはお父さん、お母さん、お爺ちゃんが転がっている。
「お婆ちゃんに会いたいって、いつも言ってた。だから、今頃喜んでるだろうなぁ」
「ほう。あなたは、天国があるとお思いですか? 死者と死者が再会できるなどとお考えですか?」
「冗談だよ。そんな希望はない。死人は灰になって消えるだけ」
「相変わらず、人の心が無いですねぇ。まったく、最高の相棒ですよ」
彼が隣に座る。手の中には、ぽうっと淡く光っている物がある。
「ふふ、美味しい」
それを少しずつ齧りながら、彼はうっとりと目を細める。
こいつは人間の魂を喰う化け物だ。
「ご馳走してあげたんだから、ちゃんと見返りを用意してよね」
「はいはい。次はどんな家族をご所望ですか?」
「今度はたくさんの兄弟がほしいな」
「承知しました。それにしても、こんな家族ごっこを繰り返して、たまに虚しくなりませんか?」
僕は無言で月を見上げる。
僕の「本物の家族」が死んだのも、こんな満月の夜だった。
「家族がほしい。愛してほしい。僕は子供なんだよ、当然でしょう?」
「それは重々理解しておりますとも。しかしながら、偽りだとしても家族として暮らした者たちを手にかけるのは、抵抗感がありません?」
「ないよ。僕の家族にふさわしくなかったんだから。あとは、きみの食料に加工するだけ」
「はははっ、実に面白い。あなたのような残酷な人間と契約できて、化け物として誇らしいですよ」
「そっか」
僕は月明かりに右手をかざす。血のついたナイフが鈍く輝く。
人の肉を斬ることなんて、もうすっかり慣れてしまった。
ドクドクと脈打つ感触が、刃から伝わってくる。そして、止まる。
すっかり右手に染みついて、忘れることができない感覚。
「ここから少し離れた場所に、三人兄弟の家族がいます。そいつらの記憶を改ざんして、あなたを末っ子として認識させましょう」
彼は立ち上がって、血に塗れた僕の手を握る。
「今度こそ、あなたのお気に召す家族だといいですね」
「……」
僕は一瞬、元家族たちの死体を見る。痕跡は全て、彼が隠蔽してくれる。
「さあ、行きましょう」
「うん」
彼に手を引かれて、僕は一緒に歩き出す。
血の匂いをまとった化け物が二人、夜の闇に消えていった。
化け物 たま @tama03
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