第3話 王子様登場

第3話① ズル休み

 今日は人間達の世界の部屋でだらだらと過ごしていた。


(こんなだらけてていいんですかね)

『いいだろ、研究にも休みは必要だからな』

(でも今日は昼に緊急のミーティングがあるからクランに全員集まるようにって勇気さんが話してませんでした?)

『そうだっけ?』

(また話聞いてなかったんですね)

『まあ、メイが聞いてたんだからいいじゃん。それにしてもミーティングか。ダルいな。よし決めた、体調不良ということにして休もう』

(要するに仮病を使ってサボるんですね)

『その通りだ。メイ、スマホでメール送っておいて』

(えー、それくらいやってくださいよ。もう)


 文句を言いながらもメイは自身の体と比べればかなり大きい液晶を必死になって操作し始めた。


(あ、そうだ、主様アイス食べたい気分じゃないですか。私そんな気分なんですけど)

『わかる』

(それじゃあ、近くのコンビニまで買ってきてください)

『えっ? お前僕に命令するのか』

(いやいや、私ごときが主様に命令なんてそんなことできませんよ。でもほら私だと買い物に行けませんし)

『ちっ、わかったよ、行ってくる』


 メイは先代の妖精よりも図々しい。本人にそのことを言うと僕と話していてストレスを溜めないでおくために最適化された性格なのだという。割と最初の頃からこんな性格だった気もするが。




 次の日クランハウスに行くとホワイトボードに文字が書かれていた。ミーティングというからには会議に関することがいくつも書かれているのかと思ったが一文字だけ「空流」と大きく書かれていた。


「あ、凪さん。今日は体調大丈夫なんすか」

 蓮斗が駆け寄って聞いてきた。

「ああ、もう大丈夫」

(仮病ですもんね)


「でこれ何?」

「あ、これはですね。クランに新しく入った人の名前っす」

「これなんて読むんだ?」

(そら……ながれ)

『そうとしか読めないな』


「クール。くうるさんすよ」

『こいつの親、異世界人に優しくない名前をつけたものだな』

(異世界に行ったときに苦労するって思わなかったんですかね)


「名前の通りすごいかっこいい人なんすよ」

 蓮斗は興奮気味にそう語る。僕はそれを右耳から左耳に聞き流した。どうせ同じクランなのだからその内顔を合わせるだろう。


 しかし度々話題には上がったものの僕はクエストの都合で空流という新人とは顔を合わせることはなかった。ただ他のクランなどの人間も集まるレストランにいたところこんな噂を耳にした。

「最近鍵の家に入ったテイマーの成績が突出していいらしいぜ」

「俺、会ったことあるわ。すげー強さで魔物を倒しまくってた。他のパーティメンバー棒立ちだよ」

「いいなー。俺達のクランにもそんなヤバいやつが入ってくれたら」


『確かにクラン内で見れる成績でもずば抜けてるな』

(まだ主様に会ってないからデバフの被害に遭わなかったんですね)

『そう、だから早く会いたいの』

(その人クラン選びを間違えてしまったんですね。こんなやつがいるクランなんて……)

『うっせ』


(ところでテイマーってなんですか? 職業ですよね)

『そうだ。テイマーは自分の魔力を餌にして動物達を操るしょうもない連中のことだ』

(ああ、ペットがとられたから嫉妬しているんですね)

『この世界の動物は全部僕のペットだったのに……あいつら勝手にやってきて横取りしていきやがって……。絶対僕の方が愛されてるもん! テイマーと僕並んでたら僕の方に歩いてくるもん!』


(うわぁ、泣いてる。きついなぁ。でも本当に主様は動物が好きですよね)

『ああ……向こうの世界では動物好きに悪い奴はいないというらしい。それだけ動物には人の心を安らげる力があるんだ』

(主様は反証そのものじゃないですか)


『ちなみに妖精使いも広義のテイマーだが魔力を流す必要がない代わりに妖精に好かれる必要がある。あいつらとは違うんだ』

(主様は妖精使いじゃないですけどね)

『でも妖精に好かれてるのは一緒だろ』

(…………)

『おい』

 こいつ目を背けやがった。

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