第2話③ 怪しげな宝箱

 翌日、昨日の提案の通り僕達は近くの魔物がいる森に足を運んだ。魔物を見つけて蓮斗が戦う。彼の戦闘スタイルは勇気と同じ剣士。ただし勇気ほど強くない代わりにいくつかの補助魔法が使える。だから僕とは少しだけ相性が悪い。今回のような少人数だとわかりやすい。明らかに僕の仕事量が減っている。


「やっぱり休むべきだと思う」

 蓮斗の戦いを見ていた勇気が言った。

「動きがかなり悪くなっている。クランに入った時よりも強くなっているはずなのにそれを感じない」


(それは主様がデバフをかけているからです。一度解いてあげたらどうですか?)

『それも考えたがそれよりもいい方法がある。だからデバフは絶対に解かない』

(ケチ!)

『ケチとは違う!』



 その後、僕達は森を進んで行った。勇気は補助魔導士と不調の剣士とのパーティでは不安のようだったが僕は目的のため彼に構わずに誘導していった。


 目的の場所に近づくと勇気が声を上げた。

「なんだろう? あんな場所あったか?」

 彼が指す先には人が入れるほどの洞穴があった。

「俺は見たことないっすね」

「雨とかで地形が変わって入り口が地表に露出してきたんじゃないか。ちょっと試しに入ってみよう」


(露骨な誘導……罠だ)

『お前は疑うなよ』


「危険じゃないか」

「大丈夫だって。この辺りはあまり強い魔物がいない。洞窟に入った途端強くなるわけないじゃないか」

「いや、ゲームとかだとよくあるけど」

「ゲームはゲーム、これは現実。とりあえずさ、手前の方だけ、行ってみよう。もしかしたらレアなアイテムが手に入るかも」


 少し強引に勇気を説得して三人で洞窟の中に入った。

 洞窟はあまり深くなかった。分かれ道もなく一直線で魔物もいない。そういうふうに作った。


「あ、あんなところに宝箱がー」

 迫真の演技で僕は洞窟の行き止まりに配置した宝箱を二人に見せた。

「宝箱?」

「すごいっすね。俺こっちに来て宝箱初めて見ました」

「そうだ、その通りだ。さっき凪くんが言った通りこの世界はゲームと違う。ゲームのような宝箱などこれまでに見たことも聞いたこともない。それなのにこんなに簡単に……」


『おかしい、宝箱など妖精族が持っているではないか。見たことはないとはどういうことだ』

(いや、だってよそから来た人が見つけられるようなところに宝箱置かないじゃないですか。妖精の里では宝箱は人間には見つからないようなところに巧妙に隠してあるんですよ)

『確かにそれはそうだが先に言っておけ。おかげで怪しまれてるじゃないか』

(こんなガバガバの作戦、元から怪しまれるに決まってますよ)


「もしかしたらトラップかもしれないっすね」

「トラップか」

「ええ、ミミックってモンスターいるじゃないですか。ああいうのじゃないですか?」

「いや、ミミックは宝箱があることを前提とした擬態だ。それなら宝箱がまるでないこの世界にはいないはずだ。それよりも他の冒険者の悪戯を疑った方がいいだろう」

「それとも悪質な罠かもしれないですね。最近他の冒険者を妨害する輩がいると聞いたことがあるっすから」


『なんでこいつらそんなに理性的なん? せっかくの神の好意なんだから黙って騙されてろよ』

(口悪いですよ)


「いや、蓮斗はもっと貪欲に行こう。もしかしたら本物の宝箱でこの中に妹を救えるだけの財宝が入っているかもよ」

「いやー、人生そんな甘くないですからね」

「ちっ、もういい、僕が開ける」

「え、危ないよ」

 勇気の制止を振り払って宝箱に手をかけ、そして思い切って開けた。その中に入っていたのは……。

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