婚約破棄された公爵令嬢は悪女とか言われてるけど引きこもり生活がしたいだけ。

はちがつ

第一章 クロンヌ・メーニシス・サキスムニア公爵令嬢

第1話 ただのパーティーのはずだった。






 煌びやかな王宮での夜会。

 王国の第一王子の誕生日に開かれただけあって活気に満ちていた。

 

 選ばれた招待客。

 選ばれた料理。


 それらを眺めてため息をつく。

 憂鬱としか言いようがない。

 昔から人が多いところは嫌いなのだ。



「憂鬱すぎる」

「あら、クロンヌ様。何かおっしゃられました?」

「……いえ、うちのシェフも一流のはずですが、王宮の料理はやはり格が違うなと思いまして」

「そうでしたの」



 どうして、憂鬱なパーティーに出なければならないのか。それは、私がミレニオガレス王国第一王子フォルティス・アルバトス・ウーナ・ミレニオガレスの婚約者だからに他ならない。


 一緒に入場し、王族各位の挨拶も終わり、ダンスホールで音楽が始まりだそうとしている。



 そろそろ、誰かと踊るべきかしら?


 でも、一番初めに婚約者である殿下以外と踊ると面倒なことが起きてしまう。


浮気だの、色好みだの言われては困る。王宮――特に女社会では些細な出来事からとんでもない噂に変わってしまうのだ。




 どこにいるのだろうか。


 殿下は輝かんばかりの金髪だが、この国は金髪が多いから埋もれてしまっている。


 探すのが面倒。でも、探さず適当な相手と踊るのはもっと面倒。


 バレないようにため息をついて取り巻きに聞こえるようにわざと「殿下はどこかしら」とこぼす。すると取り巻きもキョロキョロと探し始めた。


 あっちもあっちで最初くらい私と踊らないと面倒なことになるから私のことを探しているはずなのだけれど……。



 周りに任せるのも怠惰すぎるので自分でも探すと、丁度殿下は私の方に向かってきていた。


 ああ、すぐに見つかってよかった。


 安堵したのもつかの間。



 なんと、殿下は独りではなかった。



 少女と腕を組んでやってきていたのだ。


 何の茶番かしら。


 嫌な予感がした。


 取り巻き達もその異様さに戸惑っている。地位ある人間が何人も女がいるのは珍しくない。しかし、公の場で、堂々とそれも婚約者の前で仲良くすることはほとんどない。それこそ側妃のような公然の仲か、貴賓くらいではないだろうか。しかし、殿下が腕を組んでいる目の前の少女はそのどちらとも違った。


 その少女はヒューシア・パルヴォス・アージェル伯爵令嬢――アージェル伯爵家の一人娘で、私や殿下と同じ学園に通っている。


 二人に接点があったのは知っていた。そういう意味で仲がいいのも知っている。だからってここでひけらかさなくてもいいだろうし、私の前でわざわざ腕を組む必要もないと思う。

 何をするつもりだろう。


 殿下は小難しい顔をしており、ヒューシア伯爵令嬢は幸せそうな、得意そうな顔をしている。愛らしく表情豊かな子だとは思っていたが、今ここで殿下と腕を組んで私の前でしていい顔か? 馬鹿じゃないの?



「殿下?」



 ただ事じゃない雰囲気に周囲はシンと静まり、注目されていることがわかる。


 殿下は私の姿を認めると、不倶戴天の敵を前にしたかのような眼で睨みつけてきた。








「クロンヌ・メーニシス・サキスムニア! 今日限りでお前との婚約を解消する!」









 初めて私をフルネーム呼んだかと思えば何を言い出すのかしら。

 




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