第23話 物々交換



恩田さんはダンジョン協会の職員っぽい人たちに手を上げ挨拶しつつそのまま誘導されていった。


中には食って掛かっている人もいる。


(ガラの悪そうな人達)


何を言っているのか気になって集音魔法を飛ばした。


「なんでお前らしかいねーんだよ!! 俺のクランの奴らはどうしたんだ!! まさか置き去りにしたのか?!」


「違う」


「ならなんで居ねーんだよ!! お前らがなんかしたんだろ!! 白状しろ!!」


「違うっつってんだろ」


「あいつらが残るって言ったんだ。 怖気づいたんだよ」


恩田さんは冷静に諭すように告げる。


「しかも食料置いていけなんてふざけたこと言ってたしな」


「は? まさか食料全部引き上げたのか?! 食料もなしに置き去りしたのか?! ぁあ!?」


先発隊の他のメンバーが余計な口出しをしたせいで激高してしまった。


「どうしてそうなんだよ……」


「私達は戻るだけだったから自分達で用意した分も多めに置いてきてやったよ」


「それでも足りないならお前らが持ってけばいいだろ。 あの小蝙蝠スモールバッドがひしめく中をよ」


自分達がされた仕打ちを思い出し冷たく吐き捨てるように言う先発隊の人達。


「なっ……!!」


小蝙蝠スモールバッドの群れと聞いて威勢の良かった残ったメンバーのクランの人達もひるんでいる。


小蝙蝠スモールバッドってそんなに危険度の高いモンスターなのか? 防御結界ディフェンスバリアに勝手にぶち当たって死んでく奴らなのに)


そう疑問に思うが答えてくれる人は居なかった。



「俺らだって言いたかないがあいつらくそだぞ」


「今日だって最後の最後で小蝙蝠スモールバッドを俺らに向けようとしてたしな」


「マジでぶん殴りに戻ろうかと思った」


「ほんとサイテーよ」


「助けたいならお前らで行きな。 俺らが見つけたらぶっ殺しちまいそうだ」


「あぁ、それが嫌ならてめーらで助けに行きな」


(うわー……本当に最低な奴らだったのか。 というか脱出間際にモンスターおびき寄せるって殺人未遂じゃん)



その所業にドン引きした。


(まぁその人たちはどうでもいいか。 私はお目当ての倉庫に行こう)


場所はどこだったっけとウロウロうろつく。


ダンジョンに入る前は狼型のモンスター……アッシュウルフ達に破壊されてたテントが今は補修されている。


診療所として使っていたテントも元通りになっていた。


(確かこっちだったはず……? いやこっちか? ん? どこだ?)


テントだからか復旧が早かったみたいだ。

どこも同じようなテントだらけでよく分からなくなっていた。


こっそりとテントの中を覗き見ては違うと首を振る。


そしていくつ目かのテントを覗くとようやくお目当てのテントにたどり着くことが出来た。



(あった!!)


ダンジョンに入る前はアッシュウルフに荒らされ品物が床に散らばっていたが今はそれらが片づけられて段ボールが置かれていた。


(むむ? 思った以上に綺麗になっている)


これは勝手に拝借したらまずいかも? と焦る。


そう思って手近にあった段ボールを開ける。


(あれ? これって散らばったやつを段ボールにただ詰めただけ?)



どうやら本格的な片づけはまだ済んでいないようだ。

散らばった物がただ単に乱雑に詰められていた。


(これならイケる)


おっしゃーとガッツポーズしてテント倉庫の外を見渡し人が居ないのを確認し色々段ボールを物色する。


(欲しいものはあるかなー?)


まずはお目当てのウォータータンクを発見


(18Lか。 まぁいいか)


うんうんと頷きアイテムボックスへ。


レトルトのカレーやらパウチを発見しニコニコ笑顔でアイテムボックスに収納していく。


(……クーラーボックスもある)


倉庫の棚の奥の方に小さめのクーラーボックスを発見した。


(収納兼椅子にも丁度いいかも)


頷きまずは蓋を開ける。

荷物を詰めてからアイテムボックス行きだ。


(収納スペースには限りがあるからね)


うんうんと一人頷く。


(この中にはなにを入れようかな? ……あ)


色々段ボールを開けると服があった。


(まずは服でしょ……あ、衛生用品も発見)


服を数日分入れ衛生用品も入れる。


(調味料もあった!! 乾燥麺も発見!!)


調味料もクーラーボックスに入れる。


(ティーパックも良いね。 紅茶しか持ってかなかったから緑茶とほうじ茶も欲しい)


次々と詰められるだけ詰めていく。


(おお? そこにあるのは保温ボトル!!? 有った!! やった!!)


500mlほどの大きさのものだけど発見できて嬉しい。


(これで紙コップで熱々言わなくて済むね。 持っていれば汚れも一緒に綺麗に出来るし。 2、3個貰っていこう)


ブランケットも発見した。


(なんかちょっと土汚れついてる? でも綺麗に出来るから……いいか。 持ってこう)


そうして入れているうちにアイテムボックスの中3分の2ほど埋まってしまった。


(やば……要らない物取り出して置かないとこのクーラーボックス入んなくなっちゃう。 欲しい物まだまだあるのに)


アッシュウルフの毛皮や取りあえず入れていた素材を取り出す。


(ダークスネークのお肉はあげないよ)


誰に言うでもなく首を横に振る。


小蝙蝠スモールバッドの素材は要らないからポイしていこう……よし空いたね)


空いた段ボールに素材を詰める。

これで重さではすぐには分からないはず。


いっぱいになったクーラーボックスをアイテムボックスの中に入れる。


(もうちょっと入るね……あ、鍋忘れてた)


鍋を探し出し発見するとアイテムボックスに入れる。

鍋の横に油も発見し入れておく。


(そういや上の方は見れなかったけど何かあるかな?)


棚を足場にしよじ登る。

棚の奥の方にも何かありそうだ。


(なんでこんな奥にも物乗っけるんだ。 しかも大きい荷物。 危ないじゃないか……)


ガサゴソと登り段ボールを見る。


(あ……これは……)


段ボールの中に入っていた物はエアベッドだった。


(なんで? 寝袋じゃなくてエアベッド? いや嬉しいけどなんで?)


ふくらます前のそれは非常に小さくてまとまっている。


余計なことを考えずに空気入れと共にいくつかアイテムボックスに収納した。


(やった、硬い土の上で寝なくても済む!! やった!! もしかしてどこかに一人用のテントも寝袋もある?)


ウキウキと棚の一番上を漁ることにした。


(……無い)


しばらく探すがお目当てのものは無かった。


期待した分落胆が大きい。


ガックリとうなだれると棚の裏に何か物が落ちているのが見えた。


(……ん?)


棚の裏は荷物が邪魔で元の位置に戻せなかったみたいだ。


暗くなっているので何が落ちているのかは分からない。

アイテムボックスから懐中電灯を取り出し光をすぼめて照らす。

目を細めて文字を読む。


(!!!!)


お目当ての物がそこにあった。


(落ちてるじゃん!! 誰?! 無いって言ったの!! まって、寝袋も落ちてる!! ちゃんと片づけてよ!!)


風魔法を使用し浮かび上がらせる。

手元に引き寄せてその場で箱を確認すると箱には2人用と書かれていた。


(2人用でも1人用でも何でもいいよ。 使えるんだからさ)


ウキウキでアイテムボックスに仕舞おうとした。


(……容量オーバー。 ガッデム)


1人用ならまだしも2人用だ。 それなりの大きさがある。

それまでに色々アイテムボックスに収納したので空きが足らなかった。


(寝袋は……入る。 でもテント欲しい!!)


一度降りて荷物の整理を行う。


(待ってどうすればいい? どうやれば圧縮できる?)


今一番容量を使っているのはクーラーボックスだ。


(これは居る。 椅子としても活躍が期待される)


ぐぬぬと考える。


パカッと蓋を開け中を見る。


(服……を圧縮袋に入れれば空間が開く。 そこに他の荷物を詰めて……他、他には何か圧縮できるものは無いか?!)


容器に入ったカップ麺を入れる。

無理に押し込むと壊れるからここに入れて……と他。 他に押しつぶしたら不味い物は無いかと荷物を漁る。

塩素系漂白剤や掃除用品、ガスのカートリッジ、着火剤、一人用のコンロをクーラーボックスに入れる。 代わりに潰しても大丈夫な物を外に出した。


それでもまだ物が多く入らない。


悩んだ末に視界に入ったのはリュックサックだった。


(……背負おう)


リュックサックを手に取る。


(結構物入りそうだ)


うんうんと良いね君と頷き、使用期限や賞味期限のないかさばる物をこちらに入れた。


(服はこっち。 ウォータータンクもこっち。 寝袋とエアーベッドもこっち)


そうして空いた空間にテントをねじ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る