第6話 アッシュウルフ



ダンジョンに向かう途中で診療所のテントに居た狼型のモンスターと遭遇した。

鑑定すると種族名アッシュウルフ、ランクEと出た。


モンスターのランクはGからSまで。 通常初心者向けのダンジョンはGランクの物しか出ない。

上階でEランクのウルフが出ると言う事は、ボス近辺にはCランクが出るはず。 

やはりBランクの冒険者にふさわしいダンジョンなのだろう。


恐怖心はまだある。

だけれどもさっきよりも心は落ち着いていた。


怪我をしても治せる。

防御魔法も使える。

攻撃魔法も使える。


役立たずだったさっきまでの私とは違う。



深く息を吐き思いっきり息を吸い込みアッシュウルフに向かって駆け出した。


アッシュウルフもこちらに気づき迫る。


風刃ウィングカッター


風を圧縮し見えない刃を作り出す。

アッシュウルフの眼前にそれを置けば後は勝手に真っ二つにされた。

意識をすれば魔力が消費される感覚があった。


(……魔力結構消費するな)


『レベルが上がりました』


脳内でその声が聞こえた。

それと同時に減った魔力が快復したような手ごたえを覚えた。


(レベルアップすると回復するのか、それは助かる)


風刃≪ウィングカッター≫を作った時点で体感的に魔力の3割持ってかれた感覚があった。


(全回復で3回しか使えないのか……敵が多すぎると危険だな。 ダンジョンに潜り込んだ後は早めに安全地帯に行こう)


駆け足で入り口に近づくとスルリとダンジョンに潜入した。


ダンジョン内は岩肌が露出した洞窟のような感じだった。

光源は乏しく薄暗いが、完全に視界が閉ざされたわけではなかった。


(確か各階にセーフティーゾーンがあるんだったな……その前に最初に潜ってった人達はどうなったんだろう鉢合わせは避けたいけど……やばっモンスターが居た!!)


岩陰に身を隠す。

先ほど倒したアッシュウルフが数匹出口に向かって駆けよって来た。

スタンピードの最中なだけあってモンスターの数は多かった。


(魔法で倒す? でもあの数じゃ魔力が足らないな……どうするか)


そんな事を考えている間に接近する。


(近接戦闘はしたことないけどナイフで倒せる? いけるか?!)


「グルルルル」


声が近くから聞こえる。

岩陰に隠れていたけれども匂いで気づかれたようだ。


(血の匂いが残ってたのか!! 最悪だ!!)


多数を相手にする覚悟はまだできていなかったのに問答無用でこちらに向かってこられた。


(何が良い?! 混乱させる? 目つぶし? 少ない魔力で威力が出るやつは何だ?!)


考えているうちに肉薄する。


水霧ウォーターミスト


霧を発生させ視界を奪おうとした。

一瞬アッシュウルフと私の間に霧が出来た。


が、


(危ないっ!!)


選択を間違えたらしい。

アッシュウルフは迷うことなく私の方にやって来た。


元々薄暗いダンジョンに居たせいもあるが狼型のモンスターは鼻が利く。

匂いで私の位置を把握されていたみたいで囲まれてしまった。


次々に飛びかかってくるアッシュウルフ。


風刃ウィンドカッター


魔力が足りないとか言っていられる状態ではなくなった。

差し迫ったアッシュウルフに風魔法を放つと反対方向のモンスターが迫る。


身体に傷を負わないよう身をかがめ牙と爪を躱しつつ手に持ったナイフを振りかざした。

すると診療所の時と同じようにナイフがするりとアッシュウルフの前足からお腹にかけての毛皮を切り裂いた。


(このナイフも切れ味良い?! ラッキー!!)



顔に生暖かい液体がかかる。


(生温い……血なまぐさい!!)



顔をしかめるが戦闘はまだ終わらない。

ナイフで怪我を追わせられたアッシュウルフはよたよたと二三歩進み倒れた。

風魔法を食らわせたやつも倒すことが出来た。


『レベルアップしました』


残りは後3体。


かかった血を払いながら立ち上がる。


仲間がやられ怒った1体が口を大きく開け飛びかかってきた。


風刃ウィンドカッター


すかさず風魔法を食らわせた。

真っ二つになりアッシュウルフは沈黙した。

残り2体。 

ここまで来れば魔法を当てられれば乗り切れる。


流石に慎重になったアッシュウルフとじりじりとした睨みあいになる。


ゆっくりとその場にしゃがみ込み地面にあった石を手に取るとアッシュウルフめがけて投げつけた。

軽やかに避けられる。


(流石に石ころじゃ無理か。 冷静に対処されたら魔法も避けられちゃうな……となると)


深呼吸して地面を蹴りアッシュウルフに駆け寄った。

相手もまさか直接来られるとは思ってもなかったようだが来られるなら好都合とばかりに口を開ける。

もちろん食われる予定は無い。


防御盾ディフェンスシールド


口に盾をぶつけてやり面食らっているすきに首の後ろをナイフで掻っ切る。


(何もせずに待ってられるなら魔法を叩きこんでも良かったかな)


残り1体。


眼前にモンスターを捕らえつつ辺りの様子もうかがう。


(今のところ他にモンスターはいなさそうだね。 今後の為に魔法無しでいくか)


今回レベルアップありきで何とかごり押しすることが出来た。

次回もこんな風に戦いながらレベルアップするとは限らない。

となると魔法を使わずに倒さなければいけない場面が必ず出てくる。


使えるかどうかわからないがアイテムボックスから霧吹きを取り出した。


(もしかしたら使えるかもしれないと思って持ってきたけど試してみようか)


片手にナイフ、片手に霧吹きを持ちじりじりと詰め寄る。


ある程度近づき一気に駆け寄る。

アッシュウルフは警戒しその場から避け私の背後に周ろうとする。


くるりと回転しアッシュウルフに霧吹きを吹きかける。

すると


「ギャウン!!」


(効いた!!)


鼻や目を前足で抑え苦し気にのたうち回る。


「モンスター退治にも使えるんだね。 漂白剤って」


そう言いナイフを振りかぶって止めを刺した。



『レベルアップしました』



(掃除用の劇物も使えそうだね。 でも使い方を間違えると私の皮膚も溶けちゃう。 気を付けよう)


霧吹きをアイテムボックスに仕舞った。


(これでレベルは13か。 単体向けの魔法で3割弱ぐらいとすると……範囲魔法はまだ使えないな)


まだまだあちらに居た時のように魔法を使うのは遠いなとため息を吐く。

使えるだけましなのだけれども。


(にしてもハサミといい、ナイフといい切れ味良いね。 運が良かったわ)


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