第2話 お仕事とダンジョン
周りからの痛い子扱いは給与に反映されている。
私の聖女詐欺と周りの人達が言う悪口で相殺だ。
そう納得し私は周りの反応を特に気にしなかった。
気にしないようにしても気分的には嫌なので、心地よく給与を貰うために【スキル:医療】 を鍛えようと奮起した。
それで分かったのはこのスキルは医療行為による効果を上げると言う事。
魔法のような即効性や劇的な改善という効果は無い。
例えば手当を例に挙げる。
私が怪我の手当てをすると通常治るまで1週間はかかる傷が、「4日」で、薬を飲ませれば、頭痛薬なら早めに痛みが引き、解熱効果を求めるなら薬が効き始める時間が短くなるというような感じだ。
しかも私の『手ずから』が必須作業である。
正直に言って微妙なスキルになっていた。
そして問題がもう一つ。
『手ずから』 治療を行うにあたって、私には医師免許や看護師免許と言った医療行為の免許が無い。
つまり無免許と言う事だ。
簡単な手当てしかできない。
現代のダンジョン生活の中で回復魔法を使える者向けの免許という物も出来た。
技術が必要な医師と、ファンタジーな魔法とでは治し方が違うので別けられて当然といえば当然だ。
当然だけれども……異世界に召喚される前の私は普通の会社員。
だから私は当然どちらも持っていない。
つまりその時点で医療行為が出来なかった。
幸い、政府の方針で私に免許を取らせる方向で動いていたため、大した勉強もせずに、回復魔法の使い手用の学校に入学させてもらうことが出来た。
入学する際、大層ご立派な恩を着せられたが。
大層な恩を着せられたが、そもそも回復魔法の使い手がそんなにいないので、名前さえ書けば合格するところだったらしい。
随分と重くて薄い恩だなと後から思った。
その時は知らなかったので、ありがたやありがたやと、感謝の気持ちをもって勉強に励んだよ、もちろん。
なんて言ったって学費は支払ってもらったからね。
学費無料は美味しいです。
途中で実施訓練なんかも行って何とか卒業までこぎつけ、回復魔法の使い手用の回復魔法免許を取得することが出来た。
魔法という摩訶不思議な物を用いて回復させるので授業の内容も結構ふわふわしたものだったけどね。
卒業するにあたって就活なんか許されるはずはなく研究所へと戻った。
……ここより良い給与の所なんてそうそうないから出て行く気もなかったけど。
卒業すると病院の敷地内に併設されている研究所で、小さいワンルームを与えられた。
免許を取得したことにより、血なまぐさい実験につき合わされることもあった。
精神的に疲労し、疲れた時もあったけど、身に危険のない血なまぐさいやつは異世界で経験済みだったので何とかなった。 グロかったけど。
肉体的な疲れはどうしようもなかったけど。
そしてそれはそんな時に起こった。
いつものように治療の実験をしていたら辺りがにわかに騒がしくなった。
話を盗み聞きするとどうやら病院の近くで新しくダンジョンが出来たらしい。
そのダンジョンは中規模の物らしく、Bランクの探索者クランがいくつか招集された。
病院の近くなので危険と判断され、ダンジョンコアの破壊の依頼が出たようだ。
基本的に勝手にダンジョンコアの破壊することは許されていない。
ただし今回のようにライフラインに影響のある場所はダンジョン協会により許可される。
そしてダンジョンの側にはすぐさま臨時の仮設テントが建てられダンジョン攻略の臨時本部が設置された。
病院の傍と言う事もあり、その仮設テントの診療所にて治療を要請されたらしく、上の人がこれ幸いと私に命令し、怪我人の治療という名の実験をすることになった。
数人の看護師と研究員と一緒に、ダンジョンの外に併設されたテント型の診療所で回復魔法の使い手たちと一緒に治療を行うことになった。
こういう風にたまにダンジョンの外の診療所に駆り出される時がある。
その時は今みたいに臨時の回復魔法の使い手と一緒になる。
この回復魔法の使い手はダンジョン協会から派遣される。
私のスキルは医療行為の身体の治癒スピードを上げるだけですぐに完治する訳ではない。
回復魔法はその使い手によるけれども、どれだけ不慣れでも小さな怪我は完治できる。
私のスキルは回復魔法の医療行為に負ける。
私のスキルはとても中途半端だ。
派遣された診療所のテントの中で軽傷の人たちに薬を塗り、包帯を巻く。
回復魔法の使い手はちらりとこちらに視線を寄越し得意げに怪我を治して見せてくる。
(はいはい回復魔法は素晴らしいですね……と)
怪我をした人達もどうせなら完治してほしい。
軽傷で私の所に回された人たちは舌打ちやら嫌味やらを寄越した。
(まぁ……私だって怪我をした時、治してもらえるなら治してもらいたいもんね。 こんな中途半端に治療されるんじゃなくてさ)
私でさえそう思う。 だから嫌味や横柄な態度なんかは気にしなかった。
ちなみにこの診療所では医者は居なかった。
この診療所だけでなくこういった回復魔法の使い手と一緒になる場合看護師だけが派遣されたりとかが多い。
回復魔法の使い手たちと比べられるのが嫌だったのかもしれない。
だって医者は怪我をすぐに完治させる事が出来ない。
出来るのはあくまで手当だけ。
完治までのスピードがあまりにも違い過ぎるんだもの。
病気とかならまだワンチャンあるかな……?
解毒とかはお手上げか。
あの病院に居た医者達の言い分は「実験するなら検体は多い方が良いだろう? だから私たちは行かない」 だもの。
それがダンジョンの外の診療所に出ろと要請された時の常套句だ。
私はそれらを気にせずに目の前に患者の手当てを淡々と済ませて行った。
時折言われる嫌味や蔑みの言葉は右から左に聞き流した。
だから判断が遅れたのかもしれない。
「モンスターが溢れた!! 逃げろ!!」
「中に入ったやつどうなったんだ!!」
「え? スタンピード? ……マジか!!!!」
「おい!! 連絡早くしろ!!」
「やばい、どけ!! 俺が先だ!!」
「私の方が先よ!! 私は回復魔法の使い手よ!! 優先しなさい!!」
外からも悲鳴が聞こえた。
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