第35話 廃棄コロニー
ワープを繰り返して左手の小指が示す方角へ33光年ほど進むと、真っ暗な宇宙空間に漂う巨大な人工物が姿を現した。
船の
「スペースコロニーか……」
この建造物は、一般的にスペースコロニーと呼ばれる、人工的に造られた巨大な居住施設である。数十万人もしくは数百万人も収容できる規模のコロニーだろう。
どうやら私の小指の骨は、このスペースコロニーに存在しているらしい。つまり、宙賊『
だがどうも様子がおかしい。宇宙船を誘導する照明等は点いておらず、近づく”
全体的に古びて廃れた印象を覚えるコロニーだ。
「ルルイエ。あのスペースコロニーの情報の検索を頼めるか?」
「
数秒後、
「検索、終了しました。あれは
「廃棄コロニー……なるほどな。だから照明が消えて廃れているのか」
深く納得したところで、私はふとおかしな単語があったことに気が付く。
「いや待て。全滅したと言わなかったか?」
「はい。スペースコロニー『コーンウォール』は大規模魔導テロによって全滅しました。
当時の『コーンウォール』と思われるアンデッドが蔓延る画像や映像が映し出され、いまいち現実感が無くて映画のワンシーンを観ているようである。
「引き起こしたのは、当時、
ナグーブ・ホーの過去の画像が表示される。少し落ち窪んだ目をギラギラと輝かせる男だ。快楽主義者というよりは、目的のためには手段を選ばない真面目で頑固で非情そうな印象だ。
大学教授をしていた男がなぜ魔導テロを引き起こす凶悪な犯罪者に身を落としてしまったのだろうか……。
コロニーだけで合計4つということは、被害者は何十万人、いや下手したら数百万人に上るに違いない。第一級魔導犯罪者に認定されて国際指名手配されるだけはある。
「
廃棄されたコロニーが放置されているのは、解体するにも多大なお金と時間がかかるからだろう。再利用ができないのならば、宇宙の粗大ゴミにしたほうがいろいろとお得だ。国が決定すれば不法投棄には当てはまらないし。
もし外壁が剥がれて中からアンデッドが溢れ出てきたとしても、外は何もない宇宙空間である。被害を気にする必要はない。
「死後に列福された彼女は、戦没50年の節目に列聖されて聖女の地位にあげられるそうですよ」
「ふーん」
その情報は今回の状況にあまり関係なさそうだ。世の中のニュースの一つとして記憶に留めておこう。
「フィギュアデータの入手……ゴホン! 奪われた鎌と小指を取り戻すためにはコロニー内に侵入する必要があるが、それは可能か?」
「相変わらずですね、マスターは」
『ゴブゴブ』
い、いいではないか。幽玄提督閣下のフィギュアデータだぞ! もう手に入らない激レアな逸品だぞ! 私は欲しい!
「スペースコロニー『コーンウォール』に
「期待せず待っていよう」
約50年間もメンテナンスされずに放置されていたのだ。動力やシステムが生きている可能性は望み薄だ。
もしダメだった場合は、外壁に穴をあけて力づくで侵入するしかあるまい。
そんなことを考えていると、
「
「なに? システムがまだ動いていたのか?」
「肯定。予備の小型魔導炉が起動中です。それによって設備やシステムの一部がまだ稼働しています」
「それは重畳。手間が省けた。まだ動いているということは、もしや生き残りが――」
「いえ、それはないでしょう。コロニーの内部はこのようになっています」
私の思い付きを遮ってルルイエが
ホラー映画のワンシーンというか、まさに終末世界というか……。
腐りかけたゾンビが共食いしている様子は、グロテスクで正直あまり見たくない光景である。
水も食料もなく大量のアンデッドがひしめくコロニーの内部で約50年も生き延びるのは無理だろう。もし生きている者がいるとするならば、宙賊と非合法の取引をするような後ろ暗い者たちだけだ。
「いつまでもモタモタしていると神星国に捕捉されかねん。さっさとフィギュアデータを入手……ゴホン! いろいろと用事を済ませるとしよう」
ここはすでに
今は”
そうなった場合、神星国の軍艦と交戦することになり、フィギュアデータの入手ができなくなる可能性もある。
なんとしてもそれは避けたい。神星国にバレる前にコロニー内部を探索してアッハンを見つけ出し、一刻も早く幽玄提督閣下のナノマシンフィギュアデータを我が手に!
「完全に言ってしまっていますし、誤魔化す必要はないのでは?」
『ゴブゴブ』
「ゴホンゴホン! オーッホン!」
「咳き込んで誤魔化しても無駄ですよ。
『ゴブブ!』
「おっと。これは一本取られたな」
「「アッハッハ!」」
『ゴッブッブ!』
ひとしきり笑い合い、私は違う手段で話を誤魔化すことにする。
「そういえばー、アッハンが愛用のエプロンを持っていると言っていなかったかー?」
「ハッ!? そうでしたっ! やはり虹色に輝いているのでしょうか!? こうしてはいられません! ”
よし。これで完全に誤魔化せただろう。”
しかし、相変わらずルルイエはエプロンに対する執着が異常だな。いっそのこと清々しいくらいだ。この残念さがルルイエらしい。
『ゴブゴブ……』
若干一名、誤魔化せずに『やれやれ』と呆れている子もいる中、 ”
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