第28話 野球をしよう③
「さあ、バッチこい!」
体力の復活したアルファが早くノックをしろと
「どうした、どうした!レン!お休みするにはまだ早いぞ!芳佳ちゃんとイチャイチャしやがって、てめえのへなちょこ打球なんぞ目をつむっても取れらぁ!」
あの自信はどこから来るのか。ノックを再開して三球打ったが、アルファは一度もボールをキャッチできていない。股下にトンネル掘り続けている。後ろでボール拾いをしている佐藤芳佳と、休憩後に加わった市井さんは、その度にボールを追いかけ楽しそうであるが。ちなみに太田さんは、僕の隣でボールを渡す役目をしている。
「ほら!今度はしっかりとれよ!」
そうは言ったが、易々と取れる球を打とうとは思わない。思いっ切りバットを振り抜く。
「あっ!」
しまった!力を入れすぎたせいでとんでもない方向へ打ってしまった。アルファの頭の上をボールが飛び越えていく。
「どこ打ってんだあああ!」
怒りのアルファ。くっ……ちょっと悔しい。
「わーーーーーーたしにいいいいいいいい任せろおおおおおおおおおおおおお!」
大声と共に松本ひかりこと
「ひかりちゃんもやるじゃん」
明らかに上から目線のアルファ。
「きゃーかっこいい!!抱いて!!」
黄色い声をあげる佐藤芳佳。抱いてってなんだよ。
「ひかりちゃんスゴイ!『よばんばったー』になれるよ」
市井さんは野球を知らない。だからしょうがない。
「打球の下に行くまで無駄がなく一直線だった……。そして、今のスライディングキャッチはイチロー選手のやり方に似てる……。あの方法は怪我がしにくい……」
お、太田さんは野球に詳しい系でしたか……。意外だ……。
「バックホーーーーーーームだあああああああああ!!!!」
樹木は大きく振りかぶりボールをこちらに投げ込んできた。しかも唸りをあげる剛速球ときている。こちとらグローブを持ってないのにふざけるな!
って太田さんが危ない!
『パーーーーーーーーーーーーーーーーン』
いつの間にかグローブを装着していた太田さんが気持ちの良い音をたて、その投げつけられた剛速球をキャッチしていた。
「今のは元中日のアレックス選手が巨人戦で見せたバックホームのようでしたね……」
言ってることが理解できないよ太田さん。
「私がピッチャーをやるぞ。打てるものなら打ってみるがいい!」
「ふっ、簡単だな」
「やろうやろう!私が最初に打つー」
「わ、わたしも打ちたいです」
どうやら他のみんなもその提案に賛同したようだ。
***
「って僕がキャッチャーかよ!」
「あたり前だろ。お前が怪我をしても誰も困らん」
ちょっとその言い方は酷すぎませんかね樹木さん。
「もし怪我をしても治してやるから心配ないぞ」
「えっ!?そんな能力があったのか?」
初耳だ。それが本当なら、今後は冒険的な行動も取れるかもしれない。例えば不良に絡まれている女の子を助けたりとか。使い方によっては、なんとも物語が動きそうな匂いがする能力だ。
「まあ嘘だがのっ」
嘘かよ……。ちょっと期待した僕が馬鹿でした。
「もし危ないならキャッチャーしなくても良いんじゃない?大丈夫?」
バッターボックスに入った佐藤芳佳が心配そうに声を掛けてきた。今日は色々と気にかけてくれるな。
「ああ、大丈夫。仕事の付き合いでやらされてたしな」
「そっか。じゃーわざとファール打ってレンにぶつけてやろ」
ええ……。酷い、酷すぎる。当たるとかなり痛くてシャレになりませんよ。
「勘弁してください……」
とりあえず懇願しておこう。
「くっくっくっ、どうしよっかなあー」
「くそ、もう勝手にしてくれ。もしファールを打ってきても掴み取ってやる」
「あ、ちょっと怒ってる。ふふふっ、……ねえレン?」
「なんだよ」
「この世界は好き?もう『ひまわりでいず』の世界とは随分変わっちゃったけど」
「当たり前だろ」
愚問だ。考えるまでもない。
「そっか、良かった」
「おーい!いつまで喋ってるつもりだ。もう投げてもいいかのー?」
先程から待たされていた樹木が痺れを切らしたようだった。
「わるい、わるい。よーし、どんと投げ込んでこい!」
僕はそう言うと、グローブを構えた。投球動作に入った樹木は高々と足をあげる。
太陽の日差しがだんだん強くなる昼間近。空は高く、雲と陽炎。青々と茂った林にカブトムシ。蝉は賑やかに今日も鳴く。
本格的に夏だなと僕は思った。そして、次はプールに行きたいなと思った。
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