第2話 しに☆がみ
「さあ目を覚まして」
声に促され、僕はゆっくりと目を開けた。目の前には小さな女子の子が座っていた。
「あなたは?」
「おいおい挨拶もないのかい」
少女は少し呆れた口調で言う。
「まあいいか。私は死神の
思いがけない返答に頭が混乱した。死んだって…………? ははっ…………。思わず笑ってしまう。何バカな事を言ってるんだ。
この女の子はアニメの見すぎに違いない。いわゆる中二病だ。大人をからかうなんて、とんでもない子だ。肉体だってちゃんとこうしてある。体をつねったり触ったり叩いたりする。そうだ、感触はちゃんとある。
ただ――今いる空間が異常だった。激しく移り変わる雲、明滅する光、消えては現れる地面、現世に存在を否定されているような圧迫感。
ここは僕が知っている世界とは明らかに違っていた。ここが11次元の狭間ですよと言われても間違いなく信じるだろう。それくらい異質な世界だった。
「理解していただけたかな?それでは少しお話させていただこう」
樹木と名乗った女の子は、僕にゆっくりと近づいてきた。
「実はね、本来の君は寿命は20歳なんだ。今君は32歳だったろう?残念な事に14年間も君を迎えに来るを忘れていたんだ。誠に申し訳ない」
「本当は14年前に死んでいたってことか!? 僕はずっと幽霊だったとで言うのか!?」
思わず聞き返してしまう。正直なところ言っている意味が分からない。この14年間、僕はずっと幽霊的な存在だったとでも言うのか? 透明だった時期はないし、誰でも触ることも出来た。もしそれでも死んでいたというなら、ゾンビのが近い存在なのかもしれない。
「いや、生きてはいたよ。ただ死んでもらうのを忘れていたんだ。だから、言い方が失礼だが、あそこにいる女のついでに迎えに来たんだ」
樹木が指差した方向を見ると、コーヒーショップのレジの女の子が倒れていた。
「あの女を迎えに来ることが本来の目的だったんだけど、調査の途中で松本レン――お前の存在が分かってな。滅多にないケースなんだが、前任の死神が…………まあその…………適当な奴でなっ。14年間も死なせてやれず本当に申し訳ない。それもあって、女には寝たままでいてもらった。話がややこしくなるからな」
そう言い終えると、樹木はすまなそうな顔をして頭を下げた。
言ってしまえば「殺すのを忘れてたっ。てへっ」事なんだろうが、それで謝られているのも変な話だ。そのまま忘れていれば良かったのに。どちらかと言えば殺した事を謝るべきだろう。
だが、そう言う考えとは裏腹に、あまり悲しいという気持ちにはならなかった。
「まあ、いいよ。どうせたいした人生じゃなかったし、不幸中の幸いか、僕を悲しむ人はいないから」
それは嘘ではない。僕には親族も友達いなかった。たいした人生ではないという言葉は言い過ぎかもしれないが、この先の未来で何かやりたい事があったかと言えば嘘になる。毎日が仕事仕事の繰り返し。30歳が寿命の時代もあったようだし、ちょうど良い時期なのかもしれない。
「そんな事言うなって。だからさ、一つだけプレゼントを持って来たんだ」
「プレゼント?」
どうせろくな物ではないはずだ。幽霊になって恋人へのお別れ期間を作るとかだろう。それとも流行りの剣と魔法が織り成すファンタジー世界への転生か?
残念ながら僕には恋人はいないし、ファンタジー世界に転生したとしてもマヨネーズの作り方すら分からないのですぐに死んでしまうに違いない。
「そう、お前の願いを一つだけ叶えてあげようと思うんだ。しっかり調べさせてもらったから言う必要はないよ。へへへ、すごいだろう!高校生に戻してあげるんだ」
まさかの高校生。ちょっと嬉しい。ただ設定が大事になってくる。性別は? 立場は? 現実世界の高校生か異世界の高校生でかまた違って来る。
いや、待てよ、『高校生』という謎の生物かもしれない。それだとあまり意味がない。それに『戻す』と言ったような気がする。ただ過去に戻されたら、それは逆に困る。またスクールカーストの下位で辛酸を舐める事になる。
「本当か! ちょっと考えさせてくれ! もしかしたら他に願いが――」
「ごめん決まりだから! 卒業式に迎えに行くね!」
樹木が一方的に言葉を遮る。ちょっとは話を聞いてくれ、このクソ死神が! いや、可愛いからちょっと許したい気持ちもある。いやいや、今はそんな事を考えてる場合ではない。
下手すると変な世界に飛ばされる。それならせめて何か特殊能力をくれ! 一刻も早く止めないと!
「ちょっ、待て――」
そう言いかけると体が消え始め、同時に声もでなくなった。
無慈悲。あまりにも無慈悲。
「『大好きなアニメの中の高校生活』だ。思いっ切り楽しんでこい」
満面の笑みで、樹木はウインクをした。
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