消えても見きれない

美琴

第1話 家族

服にタバコの匂いを纏って家に帰った。自分についた匂いは鼻が慣れてしまってなかなか気付けない。夜十時に帰ったら起きているのは娘だけ。何の変哲もない日常、私が何年もかけて作り上げた日常がある家。だが、全く落ち着かない。気になるのはスマホ。スマホを見ていたら今度は空腹感に襲われる。娘たちが食べた晩御飯がテーブルに残ってるからつまみ食い程度に食べる。

「これ何?」

「わかんない適当に作った鶏肉」

こんな会話ばっかり。普通の家庭の会話。

「お風呂いくね」

ウン。軽く頷いて返事をした。仲が悪いわけじゃないし、何なら他の家庭より仲がいいと思ってる。娘も同じことを思っているはず。毎日仕事ばっかりで疲れてる私を労ってくれて、家事は大体やってくれている。

「当たり前じゃない?働いてきた人は家では家事はしなくて良い。家にいる人がやれば良い。」

もうこれは口癖で何回も言っているようだ。匂いと同じで口癖も気付けない。誰に責められているわけでもないのに言ってしまう。

食器は洗ってあるが私の分の食器だけは洗わないで置いてある。いつものこと。

「めんどくさがり屋にも程があるんじゃないの?」

そんな私の言葉も聞こえているわけがないのについ大声で言ってしまう。

軽くため息を吐いて残された食器を洗い、残された家事と明日の準備を終え寝室に入った。

 日付が変わった頃スマホの通知音で目がさめた。眠っているところを邪魔されるのはすごく苦手。でもこの人だけは。この人だけは何でも許される。嫌いな電話ですらしたいと思う。私はこの人を愛している。

いつか、この想いは消えるのだろうか。それともきえちゃうのか。

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