キャットナイトファンタジー ーケットシーと七つの秘宝ー

宇都宮 古

起きたら、ケットシーになっちゃった!?

 俺の名前は希望ヶ丘きぼうがおかタケル。

 十二歳だったかな、生まれつき病弱で虚弱体質な俺は病院での入院生活を余儀なくされていたんだ。小学校にも行った事ねえや、行った事はないけど卒業しちゃったよ。でも、お母さんもお父さんもよくしてくれているてるし不満はない。不満というわけではないんだけど、もし願いが叶うなら窓の外から眺める自分と同じ年の子みたいに元気に走り回りたいなってだけさ。


 俺の病院での日課と言えば、窓から俺の病室に来てくれる猫を撫でるくらいだ。こいつは昔からちょくちょく俺の病室に来てくれた猫だ。尾っぽが二本あるのが特徴の三毛猫だ。首輪が付いているので、飼い主のいる猫だとは思うんだがその辺はよくわかんないや。でも、この猫のおかげで辛い日々を忘れたり癒されたりしたので、もう何でもいいや。ただ、一つ問題があって。


「最近、姿を見せなくなっちゃったんだよなぁ」


 そう、ここ最近は姿を見せていない。尻尾が特徴的なので、見ればすぐにあいつだとわかるのだが。まあ、猫は気まぐれって言うし、ここに来るのに飽きてしまったんだろうな。寂しくないのかと言われれば、寂しいけれど仕方がない事だ。正直、事故とかにあってないかどうかだけが心配だ。


 あっ、そろそろ消灯時間だし寝ないと看護師さんに怒られちゃうよ。俺は布団を被ろうと思ったが、ふと目の前が光っているを感じて前を見た。そこには、二頭身で二足歩行の猫が立っていた。長靴をはいた猫みたいな感じにしっかりと二足で立っている。猫の可愛さはそのままに立ち上がらせたような感じだ。ただ、俺は一目であいつだとわかった。見分け方は簡単だ、尻尾が二つに別れていたからだ。


「お前なのか?」


 俺が猫に聞くと、猫はこちらへ手招きするような仕草を見せる。俺は急いで立ち上がったのだが。咳が出てしまった、看護師さんから急に動き出すなって言われたのを忘れていた。


「しまった!!」


 そのままバランスを崩してしまい、俺は前から倒れてしまった。うーん、気を失っていたのだろうか、まだ視界がクラクラしている。落ち着いて待っていると段々と目が回復したぞ。どうやら俺はうつぶせに倒れているようで、最初に視界に入ったのは土? おかしいぞ、俺は病院の室内にいたはずだ。なら、最初に目に映るのは床のはずだ。俺は体を起こす。ううん、なんか体の調子もおかしい気がする。いや、おかしいというのはいい意味だよ。なんか、いつもよりも体が軽い感じなんだ。簡単に起き上がれたし。


「ここどこにゃ」


 辺りを改めて見渡すと見慣れない場所だった。木々がたくさんある森と言えばいいだろうか、とにかく自然が豊かな場所だ。どう見ても病院の中というわけではないだろう。それよりも、何だこの語尾。当然だが、俺の意思でつけているわけではない。何だか勝手に語尾がにゃになってしまうのだ。俺がどこかわからない場所で途方に暮れていると近くの草がゴソゴソと動き出した。静かに何が飛び出してくるのかを待った。すると、ぴょこっと草むらから猫の顔が現れた。


「こんにちわ、こんな所で何をしているの。私はミコ、魚を取ってきていたの。あなたもお一ついかが」


 そう言って、ミコと名乗った二頭身で二足歩行の猫は人懐っこい笑みを浮かべて魚を渡してきた。その勢いに負けてしまい、俺は魚を受け取ってしまった。


「俺はタケルって、しゃ、しゃべったにゃーーーーーーーー!!」


 余りの衝撃に驚きを隠せない。だって、あんまりにも自然に言葉をしゃべるから驚いてしまったのだ。猫の鳴き声なんて、ニャーしか知らない。ただ、俺の反応とは違ってミコは当たり前でしょと言った感じだ。


「あはは、急にどうしたの。ケットシー族なんだから当たり前でしょ、今時喋れない子を探す方が難しいわよ」


「ケットシー?」


「あらっ、ケットシーを知らないなんて。なんてね、面白い冗談を言うのね。知らないなんてそんなわけないじゃない。?」


 同じ種族ってそんなわけないじゃん。俺は人間で、ミコはケットシーという聞いた事もない種族の動物でしょ。そもそも、姿が違いすぎるよ。


「俺は人間だにゃ」


「え----、どこからどう見てもケットシーよ。嘘だと思うなら、そこの水たまりで自分の姿を確認してみたら」


 ミコにそう促されて、俺は水たまりの前に立って、自分の今の姿を確認する。目の前に映ったのは、見覚えのある自分の顔ではなく。猫の姿だった。えっ、猫? 目の錯覚かな。俺人間だし、体全体が写るように移動する。どこからどう見ても、目の前でニコニコしているミコと同じ体型である。つまり、ケットシーって事。


「にゃんですと----------------------!!」


 俺、なってる。ケットシーになっちゃった!? ただ、その姿にも見覚えがきちんとあった。三毛猫である事、そして何よりも尻尾が二つに別れているのだ。そう、俺が病室で最後に見たあいつの姿そのままなのだ。まるで、俺の魂があいつの体に入り込んだみたいだ。だから、さっきから体が軽いと思ったのか。変に納得もしてしまった、物理的に体重が軽くなっているのだろうしね。


「そんなに驚くような事なのかしら。それにしてもあんまりこの辺じゃ見ない毛並みの子ね。それに不思議な尻尾の形、うーん尻尾の形をどこかで見た事があるような、ないような、まあいいわ。あなた、どこから来たの?」


「日本ってとこにゃ」


「ニホン? ごめんなさい聞いた事ない地名ね。あなた、相当遠くからここに来たのね」


 日本を知らない、という事はここは日本じゃないのか。じゃあ一体ここはどこなんだ。


「じゃあ、ここはどこにゃ?」


「ここはバアルという国で、ケットシーの里の近くよ。あなたもここまで来たって事は里に用事でしょ。その様子だと初めてのようだし、案内してあげるわ」


 ミコに強引に手を握られてしまい、俺は草木が生い茂った道を進んで行く。どういう事だろうか、バアルなんて場所もケットシーも聞いた事がない単語だ。ここから導き出される答えは俺の知らない世界。異世界って事になるのだろうか。理由は分からないが、異世界にケットシーの姿に変えられて、転移してしまったって事かにゃ!! やばい、気を抜くとにゃが飛び出してしまう。口に出すと、強制的なんだけどね。


「それと、服は着た方がいいわよ。ケットシーの里じゃ、人間の真似をして服を着るのがブームになってるのよ。着てないと白い目で見られちゃうかも……」


 なるほど、確かにミコは女の子みたいな衣装を着ている。たいして、自分の姿を見るとまあ裸という扱いでいいのだろうか。なんか、自分の体じゃないみたいで裸でも全く抵抗がないんだけど。仕方がないので、近くに落ちていた布を体に巻いた。これで、旅人には見えるんじゃないだろうか。


「これでどうかにゃ?」


「うんうん、裸よりは全然いいわね。ほらっ、ケットシーの里に着いたわよ」


 ミコに連れられてやってきたのは、村というぐらいの大きさの場所だ。看板にはケットシーの里と書かれている。中にはたくさんのケットシーが大量に歩いている俺にとっては不思議な光景が広がっている。ただ、歩いて行くケットシー達は俺とミコの方を見てくるのだ。


「俺って何かおかしな所でもあるのかにゃ」


「うーん、別に普通だと思うけどなぁ。あ、でも尻尾が二つあるのはかなり珍しいと思うよ。私も見たのはタケルが初めてかな」


 俺もこいつで初めて、尻尾が二本ある猫を見たし、珍しいから見てしまうのも無理はないか。自分でも外に尻尾が二本の猫がいたら近寄っちゃうだろうしな。


「しいて言うなら、面白い語尾だよね」


 ミコの言葉にちょっとだけショック受けてしまった。そうか、にゃって喋るのはケットシーでも普通は喋らないのか。でも、こればっかりはどうしようもないのだ。まるで、呪いのように語尾に強制的につくんだもん。俺達は真っ直ぐ歩いて行くと、一つの銅像の前に出た。そこでは、多くのケットシー達が手を合わせて祈りを捧げている。


「この銅像は誰にゃ」


「ふふん、私達ケットシーの神様の銅像なの。ここは、観光スポットとしても有名なのよ」


 どこか誇らしげのミコに俺も笑顔になりつつ、ケットシーの神様というのがどんな姿をしているのだろうと思い、銅像を見た。正直、俺としてはケットシーの姿は全部同じ見える。目元とかが若干違うので、違いが分かるには分かるのだが、見分けるのならやはり尻尾だろうと思い、尻尾を見た。俺と全く同じの二つの尻尾を持ったケットシーのようだ。俺と同じ、俺と同じ? ミコもここでようやく気付いたようで、ワナワナと震えだした。


「もしかして、タケルってケットシーの神様だったの!?」


「違うにゃ!!」


「凄いわ、その語尾も神様特有の物だったのね。私ったら面白い語尾なんて言っちゃたわ」


「それは俺でも面白い語尾だと思うから心配しなくていいにゃ」


 少し前から思っていたのだが、ミコはどうやら思い込みが激しい女の子のようだ。思い込んだら、俺の話を聞いてくれない。


「すぐに、王様に知らせなくちゃ!!」


 俺の手は再び掴まれてしまい、そのまま引きずられるように日本ではゲームでしか見た事がないようなお城へと連行された。自分でも自分が今どうなっているのかが分からないので、王様というのが俺の姿の事を知っているのなら話を聞きたい。それに、どうにかして元の世界に戻る方法も考えなくちゃ。


 俺が連れてこられたケットシー城という名前のお城。ミコと一緒にケットシーの王様というものが来るのを待っていた。少しして、俺の前に現れたのはちょっといい感じに太った猫みたいケットシーであった。まん丸い感じで可愛らしい。なんて言えばいいんだろう、丁度いい太さと言えばいいのだろうか。


「おおっ、確かに報告の通り。我がケットシー族に伝わる神様と瓜二つ!! これは、我が里を救ってくださる為に来ていただいた。そういう事ですな」


「ええ、私もそういう事だと思います!!」


 ミコと王様だけが盛り上がっている。俺は案の定置いてけぼりだ。神様がどうとか全く俺には理解できない。


「どういう事か説明してほしいにゃ」


「ああ、神様すいません。我々の方で盛り上がってしまいました。実は最近困った事が起きておりまして、人間が我々をこの土地から追い出そうとしてくるのです」


 いや、この体の事を聞きたかっただけだったんだけどね。どうやら、この世界にも人間はちゃんといるようだ。でも、可愛い猫ちゃんを追い出そうとするなんて、あんまりいい気分じゃないよね。俺だったら、永久にこの土地に住んでいて欲しいもんだが。


「何か理由があるんですにゃ」


「それがこっちにはさっぱり。そこで、神様のお力で是非人間から里を守って欲しく思いました。もちろん、神様の言う通り我々はちゃんと守っておりましたよ。ほれっ、持ってこい」


 俺がもうケットシーの神様という前提で話が進んで行ってしまっているが、今さら違いますと言ってもまたまたみたいな扱いを受けるだけのような気がしたので、静かにしておく事にした。兵士の格好をしたケットシーが二人掛かりで一生懸命に運んでくる。俺の目の前に箱のような物が置かれた。


「貴方様の言う通りにケットシー族を守るとされていた、ケットシーの七つの秘宝をちゃんと管理しておりました。ささっ、どうぞ」


「わあー、中身って初めて見る。楽しみだな、どんなものが入ってるんだろう」


 ミコと王様に促されて、俺は箱を開けた。箱を開けると中には何も入っていなかった。正確に言うなら、七つ何かがそこに入っていたような感じは残っているのだが、その実物の姿は何処にも存在しなかった。


「ど、どうなっているのだ。箱中身を確認した者はおらんのか!?」


 王様が兵士達に問いかける。どうやら、中身がないのは異常な事であっていたようだ。俺には見えない物の話をしていると思ってしまった。


「いや、神様が来るまで誰も開けるなって王様が……」

「中身なんて興味ないし」

「あれっ、これって俺達の里を守ってくれてたんじゃなかったけ?」


 と兵士達も適当な事を言っていた。つまり、誰もこの箱の中身を確認した事がなかったという事だろうか。そりゃ、誰も箱の中身を知らないわけだよ。しかも、このケットシーという種族、どう考えても物を管理するってなった時適当に管理するだろう。なんか、そんな感じがするのだ。


「えーと、里の守りの為に置いてあった物なんですかにゃ」


「ギクッ、すいません神様!! いつまにか、無くなってしまいました。我々はどうすればいいのでしょうか」


「俺にどうすればと言われましてもにゃあ」


 俺もケットシーの七つの秘宝なんて、初めて知ったからなあ。でも、ケットシーの里を守るために残していった物なら、無いのは不味いのではないのだろうか。


「あっ!! あれじゃない、この前人間が箱を見せて欲しいって言ってお王様のとこに来てたじゃない。あの時に持ってかれたんじゃないかしら」


 ミコがそんな事を言っていた。どうやら、ミコが言うには人間が秘宝の箱を見せて欲しいと言ってケットシーの里まで来たようだ。それで、箱だけならと王様は人間に見せたようだ。その時に持ってかれたのではという話だ。


「なんて事だ。人間はやっぱり卑劣ですな。神様、ついでにケットシーの秘宝も人間から取り返してください!!」


 凄い、犯人かどうかなんて全くわからないのにその人間が犯人だって事で話が進んで行くし、神様に取り返させようとしてる。ケットシー的には、ケットシーの神様はケットシーのお願いを聞いてくれる存在のようだ。まあ、話を聞いてるだけならその人間が怪しいのだろうか。もう、周りからも本物のケットシーの神様と思われているので、俺の答えは一つしかない。


「ま、任せるにゃ。秘宝も人間もどうにかしてやるにゃ」


「流石、神様」


「流石、タケルね。私達を追い出そうとしている人間がいる所に私が案内するわ。さあ、ついてきて」


 話がトントン拍子に進んで行く。断れない俺は、そのままミコに外へと連れてかれてしまう。こうして、俺はケットシーの秘宝とケットシーの里から追い出そうとする人間を退治するみたい流れになっちゃったようだ。それにしても、ケットシー族は全体的に緩くて適当な感じだ。

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