痛いヤツ

エリー.ファー

痛いヤツ

「あの、ご飯を奢ってくれませんか」

「えぇと、その、奢りたくないですね」

「あ、その。あの、奢って欲しいんですけど」

「あっ、そのっ、ごっ、ごめんなさい。奢りたくないです」

「でっ、でもっ、あなたは、ぼっ、僕に奢りたいですよね」

「あぁ、その。私は、奢りたくはないです」

「僕に奢ってもいいのに、なんで奢ろうとしないんですか」

「すっ、すみません。本当にごめんなさい」

「あっ、そういう意味じゃなくて、責めたわけじゃないんです。こっ、こっちこそごめんなさい」

「わっ、私は、ただ、その、奢りたくないだけなんです」

「僕は、奢ってもらえればそれだけでいいんです。それ以外には何もいらないんです。そんなに無理しないで下さい」

「あっ、むっ、無理はしていなくて」

「でもっ、おっ、お金は持っているんですよね」

「はいっ、あります。奢れるくらいのお金は持ってます」

「じゃあ、いいですよね」

「すみません。奢りたくはないんです」

「えっ、あっ、そっ、そうですか。いやっ、でも、おかしいな。ちょっと、その、へっ、変な話しっていうか」

「あっ、はい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。お金があっても、あなたに奢りたくないんです」

「どうしてですか、奢るだけですよ。あなたはお金があるんだから、僕に奢れるのに、奢らないなんて。そんなの、おかしいじゃないですか。その、何か最近、嫌なことでもあったんですか、相談に乗りますよ。ぼ、僕で良かったら、なんでも協力しますから」

「ほっ、本当ですか。有難う御座います。でもっ、その、なんていうか、特に悩みがあるわけじゃないんです。そのっ、ごっ、ごめんなさい」

「じゃあ、どうして奢らないんですか」

「そのっ、奢りたくなくて」

「どっ、どうしてっ、奢るだけですよっ。やっ、やっぱり変ですよっ、おかしいですって」

「いや、本当に大丈夫なんです。心配かけてしまってごめんなさい。本当に、奢ることだけが嫌なんです」

「奢ることだけが嫌なんて、間違っていますよっ。やっぱり、何かの病気とかっ」

「あっ、そのっ、えっと、病気とかでもないと思うんですけど」

「いやっ、えっと、そのですね。病気にかかってる人って、みんな、そう言うじゃないですか。自覚がないのが、そのっ、一番危険だって言うし」

「心配してくれてありがとうございます。優しいですね」

「あっ、そのっ、有難う御座います。やっぱり、奢ってくれる人が大変な時は助けてあげなくちゃって思って」

「なっ、なるほどですね。でもっ、そのっ、申し訳ないんですけど、やっぱり奢ることはできないんです」

「えっ、えぇっ、じゃあっ、僕っ、今っ、奢ってくれない人にっ、優しくしちゃったってことですかっ、あっ、あぁっ、そんなぁ」

「ごっ、ごめんなさいっ、本当にごめんなさいっ。結果的に、その、そういうことになっちゃいましたねっ、本当に勘違いさせちゃってすみません」

「あっ、あぁっ、いやいや、その、僕もちょっとは悪かったっていうか、はい、その、すみませんでした。あのっ、本当にごめんなさい」

「あっ、いえいえっ、こちらこそ」

「じゃあ、ちょっとは心を入れ替えて、初めて僕に奢ってみるってことですね。なんだぁ、ほっとしました。安心です」

「ごめんなさい、その、本当に奢る気はないんです。ごっ、ごめんなさい」

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