第10話 不協和音

 空を見上げると星空が奇麗だった。星空だけ見れば向こうの世界と変わらない。天の川のようなものも見えるし、時々流れ星も見れる。

 この部屋からは街の明かりが見える、まだ町は眠っていないみたいだ。

 24時間営業の店とかあるのかなとかふと思った。でも宿屋はあったような気がする。

 壮行会では馬車に乗ったっきりで町のことはよくわからなかった。俺はティーナちゃんと町を練り歩くつもりでいたから。ところが実際はまさかの壮行会…。 


「はあっくしょん!」

 

 夜になると結構外は冷える。つい星空を見続けてしまうから風邪をひきそうだ。こっちの世界では今は何月何日だろう。カレンダーのようなものはないし。まあいいかそんなことは。

 あの壮行会から一日たった。町の人達から激励をうけたりしてなんだか元の世界と変わらない感じだった。タイトル戦が始まる前は親戚の人達なんかが集まって励ましてくれたりするし。今回はタイトルじゃなくお姫様を連れ帰るために勝つという特殊な対局だけど。

 風邪ひいたらたいへんだから広めのバルコニーから部屋に戻った。


「赤星様失礼いたします」


 窓を閉めたタイミングでちゃんが入って来た。今日の日中は侍女としての仕事が忙しくて今日会うのは初めてだ。少し疲れたような表情だ。ちゃんは侍女の中でもかなり優秀らしいから業務も大変なんだろう。俺なんかにかまってられないのもわかる。

 

「お城での生活はどうですか? まだそれほど時間は立ってないですけれど。何か不自由なことはございませんか?」


 今日は俺一人で過ごしていた。元の世界でもそれが普通の生活状態であるから特に不満があったわけじゃない。

 侍女仲間の子が俺の退屈しのぎにかわからないけど王国の歴史なんかを授業みたいに説明してくれたし。

 あとは王様が囲碁に感心を示して教わりに来たりして結構あっという間に時間がたったな。


「不自由なことなんかないって、むしろ快適すぎるくらいさ。今日だって他の侍女の子が御用聞きの感じで来てくれるし。食事の時だって食堂に行ってみれば高級レストランのような待遇でもてなしてくれるし。ありがたくてしょうがないよ」

 

 身振り手振りを添えて話すとにっこりと微笑んでくれた。この笑顔がたまらない。

そういえば結構打ち解けた来た気がする。最初は無表情に近かったけど。


「それは安心しました。それと赤星様、先ほど碁ッドから手紙が届いてきました。といってもマルリタ様伝手になるのですが」


「碁ッドから?」


 そうだった。碁ッドと対局するためにこの世界に来たんだっけ。まったりしすぎてそのことをつい忘れてしまう。いかんいかん。別に完全に忘れてたわけじゃない、昼間はドワーフの職人さんが作ってくれた碁盤と碁石で棋譜ならべをしていたわけだし。

 こう見えて俺は囲碁のことに関しての記憶力はいいつもりだ。全部とまではいかないがそこそこの棋譜を暗譜しているからそれを並べて、この場合にこっちへ打ったらどうか、というような研究をしている。それもこれも碁ッドとの対局のためだ。


「この手紙にはこれからの対局相手と日時が記されていました」


「対局相手? 碁ッドじゃないの?」


 碁ッドに勝てたら帰りますとマルリタ様は言ってたんじゃないのか? 今の口ぶりだとほかにも対局相手がいるような……。しかも日時指定まで? 果たし状みたいだ。

 そもそもだれと対局させようよ言うんだ? まるで俺の存在を向こうが知ってたような……。



 パパ、ママ、お兄ちゃん、ティーナ元気? マルリタは元気いっぱいよ? 今日はねえ、これからの予定を考えておいたからそれを伝えるためにこの手紙を送るね。

 どう? そっちの様子は? 異世界から来たっていう人の調子はどうなの? 来るべき決戦に向けて頑張ってるのかしら?

 碁ッド様はやる気満々よ? あの方はクールに決めてるけどね。わたくしにはわかるの。

 そうそう、なんでから召違う世界から喚した人のことを知ってるかって思ったでしょ?

 こっちには老魔導士ちゃん自慢のコーションの水晶があるからお見通しなの。でも日常生活までは見れないみたいだから、その辺は安心してね?

 それはさておき、まさかわたくしが言ったことを守らせるためにこんな手の込んだことをするなんてどうやら本気みたいね? やっぱりパパは行動が速いわ。ティーナも大変ね。イケナイ

 でもごめんなさい。わたくしがイケナイのよね、基本的に。

 それとね、この前楽しそうにパレードやってたでしょ? 実はわたくし、こっそり忍び込んだのよ? 気づかなかったでしょ? わたくしかくれんぼ得意だから。

 その時見させてもらったわ。碁ッド様にけしかけようって人。

 なんていうか……、顔だけ見ればモブよね。

 パパたちはなんて言ってたか知らないけどその人に期待してる感じだった?

 碁ッド様に勝てたらお城に帰るっていう約束は守るから安心していいわ。わたくしが一番嫌いなのは約束を破ることだから。それはそれとして本題にはいるわね。

 今回のパーティーを名付けて。

 マルリタさんをお城に帰す作戦三番勝負! っていうのを企画したんだけどノってくれるかしら?

 それでね、老魔導士ちゃんがいろいろ考えてくれたの。

 碁ッド様がラスボスでその前に中ボスと勝負させるんだって。その中ボスっていうのがスノーゴーレムと黒騎士なんだって。

 第一局目がスノーゴーレムちゃんで場所がホワイティアイランドで日時はあさってのお昼13時ちょうど。

 第二局目があさってのそのまたあさって、つまり4日後? 場所は黒騎士邸

 勝てたらいよいよ碁ッド様のご登場ってわけだけど日時はまだ未定ね。

 あとね、中ボス戦で一局でも負けたらゲームオーバーなんだけど、どう? 


            パーティ好きのマルリタからでした



「なかなか面白いお姫様だね、こんな果たし状を送ってくるなんて。それにしても向こう側にすでに俺のことが知れ渡ってるなんて」


 もう一度読み返してみるとタイトル戦みたいな気がして面白そうかもなんて思ったりした。タイトル戦では全国各地に対局しに行くし。今回の対局も場所はよくわからないけど遠くに行く感じなのはわかる。

 


「すみません赤星様、もうあまり時間がありませんが大丈夫でしょうか……」


 形だけ見れば3対1の状態だ。それが気になるんだろう。


「もちろん大丈夫さ、明日でもいいくらいだ」


 ぱっと明かりがついたみたいに笑顔になった。優秀な侍女である前に17歳の女の子。もっといろいろ知りたいけどこの件が終わったらお別れになっちゃうのか。それはそれで寂しい気もする。かといって向こうの世界のことをほっとくわけにはいかないし。


「しかし中ボス戦で負けたらその時点でゲームオーバーってますますそれっぽい。もし負けちゃったらどうなるんだろ? また日をあらためて出直すとか?」


「……大変いいづらいのですが……、もし負けてしまうと赤星様の身の安全が保障されるかどうかは……」


「またそうゆう展開?」


 何でそうなる、たかが碁の勝負じゃないか⁉ 碁は世界を超えて親しまれている極めて友好的なゲームのはずだろ……。


「あの老魔導士があちら側にいるとなると、恐らくそういう展開になっても不思議でわないかと……」


「その老魔導士ってのはそんなにやばい奴なの?」

「はい、魔王の参謀だった者です。すでに魔王の配下ではないのですがモンスターの血が危険を孕んだ事を好むのではないでしょうか…」


 なるほどね。勝てばいい話だが、俺は決して無敵ではない。勝負の世界はジャンケンと同じだ。

 初段が九段に勝つことだってあるし、アマチュアがプロに勝つことだってある。最強なんてのはこの世に存在しないんだ。

  

「あの…、赤星様、今更かもしれませんが、今回のことは無かったことにされても……。もともとこれは私どもの問題……、赤星様を危険な目にあわせるわけにはいきません。なので、勝手ながら明日にでも元の世界に送り届けたいと思うのですが……」


…え…? 


「な、何言ってるんだよ⁉ 俺がそんなことするはずないだろ⁉ 無かったことになんかするかよ⁉」


 つい言葉を荒げてしまった。ちゃんの様子は変わらないが少なからず動揺してるに違いない。確かに命は惜しい。そんなことは当然だ。だが俺だって男だ。いったん引き受けたことを自分のみかわいさで無かったことになんて出来っこない!


「ごめん…、大きい声出して…」


「いえ…、それは平気です…、ですが…、すみません…、私は…、私がお願いしておきながら赤星様の勝利を信じてなかったのかもしれません…。だから赤星様を怒らせるようなことを言ってしまって……」


 瞳には涙がたまっているのがわかる。そっとしておかなければ零れてしまいそうだ。


「ティーナちゃん、俺は対局しに行くよ、たとえ命がかかっていようとも。男に二言はないって…言葉が向こうの世界にあるんだけどね? それに勝てばいいだけの話じゃないか。得意分野だし」


 勝てば何も問題はない、簡単な話じゃないか。それに新たな目標が欲しかったところだ。この間のゴブリンよりは明らかに強いだろうし。どんな奴か想像もつかないが代表として出るんだろうからかなり強いんだろう。逆に楽しみじゃないか。

 

「よう言うた! 只もんやないと思うとったけど、思うとった以上や」


 聞き覚えのある声だった。


「な,何だあ⁉ あんたはこの間の勇者⁉」


 沈んだ空気をあっという間に吹き飛ばしていったのはあの、くやしいが命の恩人である勇者だった。そういえばこういう人もいたんだと今思い出した。

 右手にはでかい剣を持ち肩に乗せている。左手にはグラスを持っていて何か飲んでいて顔が少し赤い気がする。防具は相変わらず最低限の装備でたくましい筋肉が目立っている。俺とは対照的な体格。


「なんであんたがここにいるんだ⁉」


 今何時だと思ってるんだ⁉ 勇者だか何だか知らないがそんな恰好で飲み食いしながら城内をうろつくなんて非常識というものだ。ティーナちゃんは特に何も思ってない感じだし、勇者は何でありなのか?


「ねえティーナちゃん、この人に注意した方がいいんじゃない? いくら魔王を倒した勇者とはいえ傍若無人なんじゃない?」


 勇者に聞こえないように耳打ちして聞いてみた。面と向かって言って面倒なことになったら困る。魔王を倒してるし、手にはでかい剣を持ってる。下手したらここでゲームオーバーになってしまう。


「そうでした、赤星様にはまだご紹介しておりませんでした」


「え? 何を? この人が勇者ってのは知ってるよ?」


 ……まさか、この勇者、マリアちゃんの恋人なんて落ちとか⁉ でもこの人二十代半ばくらいに見える。マリアちゃんとはそこそこ離れてるし、別にあり得なくもないのか、年齢差なんて大した問題じゃないのか。

 もしそうなら合点がいく。この間のゴブリンの時だってタイミングよくあの場にいたし、この城内で自由な振舞を取れるのは侍女として地位のあるマリアちゃんの恋人なら許されるとか。

 あるいはお姫さんと密通してたとか、こういう人のよさそうな感じのする奴がそういう事をするもんなんだ。


「勇者様は国王様のご子息なんです」


「え?」


 とんだ赤っ恥をかいた気がする、明らかに顔が熱い。


「ということはマルリタ姫と兄妹ってことか」


「はい、勇者様とマリータ様は仲のいいご兄妹で、勇者様の説得があればマリータ様も心が変わると思ったのですが…」


 そういうことか、なるほど、これで合点がいく、妙な共通点みたいなのが気になっていた。あの陽気な国王様とこれまた陽気な勇者、そして手紙からでもわかる溌剌としたマルリタ姫、同じ家族だったてわけか。

 自分の家ならこんな振舞をしたってそりゃ許される。


「なんやティーナ、この人に言うとらんかったんかいな、そらこの人もからんでくるのも無理のない話や。そや、ちょうどええ機会や、自己紹介しとこか、わしの名前はメテオス、マリータの兄貴や、どう見えとるか知らんがこう見えても勇者や、よろしゅうたのむわ。あかん、自己紹介になってへんかな? あっはっは」


 豪快に笑い飛ばして気分よさそうだ。やっぱこいつは苦手だ。俺はどうしてもこいつの陰になってしまう。太陽という名前なのに……。

 

「勇者様どうしたか? 国境周辺などの様子は、何か問題とか…」


「ないないそんなもん、モンスターはほとんどおらへん、いてもおとなしいもんや。悪さするモンスターのほうが珍しいのとちゃうか?」 


 グラスの中の飲み物をグイと一気に飲み干した。今まで外回りのような事をしてきたのか。遊び人のような振舞でだらしない感じだが、やることはきっちりやる奴なのか、そこら辺がくやしいがかっこいい。


「ただなあ、ちょっと気になる気配は感じとんねん、魔王の手下やった老魔導士が何か企んでそうなんや」


「そうでした勇者様、この手紙をご覧になってください」


「手紙?」 


 ティーナちゃんはマルリタ姫から届いた手紙を勇者に手渡した。手渡すときに二人の手が一瞬触れたのが妙に腹立たしかった。

 勇者は手紙をふんふんという感じでサラッと読んでいった。


「あっはっは、なんやそういうことか、納得いったわ。それにしてもマルリタの奴ノリノリやないか。あいつこんなん好っきやからなあ。ちゅうても考えたんは老魔導士やろうけど」


 実の妹の書いた手紙を読んでごきげんな様子だ。元気そうにしてるやないか、とか思ってるんだろうか。真剣に妹の心配すればいいのに。


「勇者様、老魔導士というのは大丈夫なのでしょうか? マルリタ様に何か危険なことがあったりはしないでしょうか?」


 不安を隠しきれないスティナちゃんは祈るように手を組み、すがるように勇者の顔を見上げて勇者の言葉を待っている。


「あっはっは、それはないやろ、大丈夫や、この老魔導士っちゅうんは狡猾で抜け目ない奴やが主には忠実な奴や。魔王がおるときは血なまぐさいこともやっとったが魔王がおらんくなってからはほとんど別もんや。今は碁ッドゆう奴に仕えとるんやろ? 碁ッドのことはよう知らんが悪い奴には思えん、わしの勘やけどな。モンスターをほとんど見かけんようになったのはモンスターの指揮権を魔王から譲られたっちゅうこいつが魔界に帰したんやろしな。もしこいつが悪党ならモンスターつこうてなんやかんややるやろ」


「そうですか…、それを聞いて安心しました…、ありがとうございます…」


 組んでいた手を解き、今度は胸元に添えて心の底から安堵した感じだ。


「ちょっと待った! 対局するのは俺なんですけど?」


 どのタイミングで入っていくか大変だった。誰かが止めないとこの二人のやりとりは果てしなく続いてしまう。


「そやったな、スマンそういえば君の名前まだ聞いてへんかったな。教えてくれへん?」


「赤星太陽だ。赤い星に太陽と書く」


 ついいらない説明をしてしまった。


「赤い星と、それに太陽か、かっこええ名前やなあ、まるで宇宙や。まあええか、それでな太陽君。最初君をこの世界に呼ぶっちゅうのはわし反対したんやで? 別にマルリタはさらわれたんとちゃうし、自分で向こう行きよったんや。

 あいつももう16やで? 自分のことは自分でできるし、結婚も自分で決めたいんやろ? ワシその事を親父殿に言うたんやけどな、マリータにはホーエン国の王子と結婚してもらわんと困るの一点張りや。親父殿は頑固やからもう止められへん。ワシに説得しに行け言うてな、まあ後のことはティーナから聞いてるかな、そんなとこや」


 ぺらぺらと饒舌な勇者だ、俺が言いたいことが伝わってない。ティーナちゃんは止める様子もないし。これじゃ勇者劇場だ。


「俺はティーナちゃんから碁ッドに勝ってマルリタ、姫を連れ帰ってくれと頼まれたんです。たとえあなたが実の兄で妹のことにかまうなと思っていても俺は俺の仕事をするだけです」

 

 今のは本当に俺の言葉だろうか? 今までの俺ならこういう体のでかい相手に啖呵を切るようなことはしなかった。トラブルに発展すると面倒だからだ。

 しかし今少しだけ後悔している。なぜなら勇者は黙り込んでしまったからだ。普段おしゃべりな奴が急に黙るのは嵐の前の静けさのようなもんで後々何かある。

 現に今勇者は剣を置き目はあっていないが俺を睨んでいるのがわかる。危惧していたことが起こるのか? このままバトルか…? 

 俺は陰に包まれた。これは体のでかい勇者の影。

 そして勇者は俺の肩をバンとたたいた。というか置いた感じか?


「それでこそ男や」


 あれ? 何か予想外…、俺もしかして褒められてる? 恐る恐る勇者の顔を見ると満面の笑みだった。


「実はな、ワシに囲碁っちゅうのを覚えさせて碁ッドと勝負させたろうと親父は考えとってな。やっぱ身内の問題は身内で解決せなあかんちゅうのが親父のポリシーなんや。妹のけじめは兄が取る、くらいに思とんのかもしれんな。でもワシは冗談やない、盤の前にじっと座っとくなんて性に合わへん、まだモンスターと戦っとた方がええ。それに囲碁は面倒そうやしなあ、だからワシは見回りがあるっちゅう理由を作って逃げたんや。そういわれたら親父も引き下がるしかあらへん。

そうなったらもう直接よその人間に頼むしかあらへん。ポリシーとか言うてられへんしな。太陽君のさっきの言葉を聞いて安心したわ。任したで?」

 

 勇者は平然とした顔で肩の荷が下りた、いやまるで肩代わりさせることが出来てほっとしたという感じだった。


「ふざけんなよ! 何が任しただ⁉」

 

 怒るような事だったのかはどうかは正直わからない。でも怒らずにはいられなかった。


「黙って聞いてればべらべらと! 人を不愉快にさせることばっかり言いやがって! 初めはあんたが碁ッドと勝負するはずだったって⁉ でもあんたが面倒だから俺に押し付けたってことか⁉」


 これはいいがかりだ。自分でもそれくらいはわかる。でも自分のプライドが、囲碁というものが傷付つけられたような気がしてならない。


「ティーナちゃんは全部知ってたのか⁉ この人の言ったことは本当なのか⁉ ただ俺を利用しようとしてただけか⁉」


 怒りの矛先がスティナちゃんにまで向いてしまった。スティナちゃんは何も悪くないのに、マルリタ姫のため、王様のため、そしてこの勇者のために純粋に働いていただけなのに、俺って最低だ……。


「ごめんなさい赤星様……、決してそんなつもりでは……」


 わかってるよそんなこと…、ティーナちゃんは優しいからそんな事をはっきり言えば俺が傷付くのをわかってたから言わなかったんだ。ひどいこと言ってしまったのは俺じゃないか。

 部屋の中は急に静まり返ってしまった。さっきまであんなに明るい雰囲気だったのに、今は世界が滅んでしまったかのように暗い。俺のせいだ……。


「ご、ごめんなあ、太陽君……、怒らしてしもうて……、そやな、太陽君が怒るのも当然や、主役は太陽君なのにワシがいらんこと言うてしもうて…、ほんまにごめんな……」


「赤星様……、私も謝ります…、本当にごめんなさい…」


「いいんだ…、俺の方こそごめん…、悪いんだけどさ…、一人にしてくれないかな…」


 二人はためらっていた。でもそうするしかないと感じたのか二人は何も言わずに部屋を出て行った。部屋の外には様子を見に来た侍女の子達が心配そうな顔をしていた。

                   続

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