第23話


「……噂?」 


 オリヴィアは首を傾げた。すると、それまで黙っていたレイルが言った。


「……ごめん、オリヴィアさん。僕が話したんだ。君が、本当はわざと婚約破棄されようとしていたこと。それから……ソフィア様を陥れようとしたのは全部、僕だったこと」


 ラファエルは驚いた顔をして、レイルに詰め寄った。

 

「レイルが、ソフィアを……? では、噂の実行犯はレイル、お前だったのか? なぜだ、どういうことだ。答えろレイル!」


「……ごめん、兄様。オリヴィアさんが好きだったから、どうしても兄様から奪いたかったんだ」

「……だから、ソフィアをいじめたのがオリヴィアだとして、俺にオリヴィアを追放させたのか」


 ラファエルは額を押さえた。


「レイル。お前は自分がなにをしたのか分かってるのか……お前のせいで、ソフィアはしなくていい辛い思いをしたんだぞ」

「分かってる……本当に最低なことをした」


 と、レイルは俯いた。オリヴィアがすかさず口を挟む。


「違うんです。元はと言えば、私がレイルくんに協力を頼んで……」

「違うよ、オリヴィアさんは悪くない。僕が勝手にやったことだ」


 すると、今度はソフィアが二人の前に立ち、ラファエルに向き合った。

 

「ラファエル王子、これは私たちにも責任があります。私たちは噂の事実確認をなにひとつしないまま、それを鵜呑みにして彼女を悪役にしてしまいました」

「……そうだな。たしかに、私たちにも非はある」


 ラファエルはそう言うと、静かにオリヴィアに歩み寄った。

 オリヴィアはびくりとして、身を小さくする。


「……オリヴィア」


 オリヴィアのドレスは泥だらけで、ところどころ裂けてしまっている。顔にも泥が付き、頬にはラファエルの剣で切られた痕があった。


 オリヴィアの瞳は未だラファエルへの恐怖に怯えている。


 ラファエルは膝をつき、そっとオリヴィアの頬に手を伸ばす。

 すると、ラファエルの手からオリヴィアを庇うように、レイルがオリヴィアを抱き寄せた。


 ラファエルは目を伏せ、手を下ろした。

 

「……すまなかった」


 と、呟いた。


「い……いえ」


 オリヴィアは驚きつつ、首をかすかに振った。

 レイルは驚きに言葉を失っている。


 ラファエルはオリヴィアに謝罪すると、すくっと立ち上がった。

 

「医官に手当てさせる。レイル、オリヴィアを応接室へ連れて行け」

「あ……う、うん」 




 その後、手当てを受けたオリヴィアはソフィアからドレスを借りた。


 ハイウエストな木蘭色のレトロワンピースだ。なかなかセンスがいい。


 そして、王宮側はオリヴィアに正式に謝罪したのち、刑を撤回。ローレンシア公爵家への説明についても、必ず責任を持って最後までやらせてもらうとのことだった。

 

 オリヴィアもレイルと共に、改めてこれまでのことを謝罪をした。

 

 ラファエルとの婚約破棄については、お互いの協議の結果円満に破棄ということに至り、オリヴィアとレイルは正式に婚約することが認められた。


 そしてなんと、王宮に住まうことが許されたばかりか、レイルとオリヴィアは裁縫の腕が買われ、王立の魔法具ドレスブランドを立ち上げることになったのである。

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