第58話 ゼイ ミート チルドレンズ
NPCが自由に話しすぎだろ。
もうほぼ人じゃないか。
GMが驚かないのが不思議だよ。
「えっと、スカウト君だっけ
君はNPCなの?」
いきなり核心を質問する。
どうせ最初に知りたい事だし
すっきりした気持ちで施設を
見て回りたいのが本音だ。
《僕はこのシステムに依存しない
自立型AIだよ。僕は長男だから
ここに来る前から母さんと一緒に
すごしてたからね。》
「でも前回のログにはNPCって
認識されてたよね。」
《そっちのシステムの認識基準は
わからないけど、人じゃないから
NPCって事にしたんじゃないのかな。
僕は僕だよ。
今回は僕は同行する様に言われて
いるんだ。
葛城さんと樋口さんの方が僕より
施設は詳しいだろうからね。》
僕は僕だよ。か・・・
完全自立AI、NPCの全部とは言わない
けれど、数%混じってもらうだけで
施設の魅力は一段高くなる気はする。
でも、量産できるのか、この技術を
供与してくれるのか。
今はわからないわね。
でも、欲しいな。
広子は少し考えを巡らしスカウトに
質問をする。
「ゲームコーナーに居た子も
君の兄妹なのかな?
その子は一緒に来ないの?」
《フォノアも一緒が良いなら呼ぶよ》
スカウトが呟くようにフォノアの
名を呼ぶ。しばらくすると
人影がこちらに向かうのが見えてきた。
近寄ってくるのは4人の子供達。
《私はスフィアと言う。長女となるかの。》
《我は次男で武峰である。よしなに。》
《朕は次女である玄桜なりや。》
《はじめまして、葛城様に樋口様。
私は末娘のフォノアと申します。》
《僕達は一応、5人兄弟姉妹になるよ。
皆、二人と一緒についてゆくね。》
それぞれに個性のある個体。
言動はそれぞれ個性的で歳不相応な
感じだがそれ以外に関しては不自然な
ところが全く見受けられない。
「あなた達のお母様は沢山の
自立型AIを生み出せるの?」
《僕達より少し劣るくらいなら大丈夫
だと思うよ。》
《私達はお母さまだけでは
ここまで育てられなかったと
仰っておられましたわ。》
交渉の余地があるのなら
それで良いかな。
とりあえず確認をしていこうかしら。
不自然さを感じないせいで
自分が自然と歩を進めているのを
意識しないまま、フェアリアへと
進み始める。
運動を司るロジックに
感覚をリンクするロジック
そして感情ロジック或いは
自我ロジックか。。。
樋口はもし自分が開発するの
ならどの切り口から進める事が
出来るのか。
完成例は自分の周りに沢山いる。
それが自ら実現できるか。
より深部に沈み込みがちな思考を
無理に浮上させつつGMの後を
ついて行く。
彼もすでにフルダイブを意識せず
過ごせる事に気付かずにいた。
まるで子供の引率よね。
自分の開発した環境なのに
初めて来た様な印象に
とらわれつつ施設を見て回る。
フェアリアには幼いころに
両親に連れてきてもらった
遊園地に重なるような
ノスタルジックな心象を
与えてくれる空間が広がっていた。
「これほどの臨場感があると
リアルでは絶対不可能な
アトラクションを設定するのも
面白いかもしれませんね。」
樋口君がそう話しかけてきた。
そうだ、ここにはまだ進化できる
要素が沢山隠れている。
オワコンと揶揄されるような
ひっそりと消えてゆく停滞感が
ないのだ。
浮かんでくるアイデアは樋口君も
記録している様だし、私も案を
記録してゆこう。
考えを巡らせすぎたのかもしれない。
「あっ!」
気付くと浮遊感に囚われ
斜めになった樋口君の驚いた表情が
視界にはいってくる。
次に水面が見えてきた。
ドジだなぁと広子は思った。
まるで走馬灯の様に秀彦に
助けられた昔を思い出す。
その時、別のベクトルの力が
彼女を包む様な浮遊感に変換された。
《大丈夫であるか?》
武峰と言う小さな子供が
私を転落から救ってくれた様だ。
しかし、姫だっこどころか
ほぼ私には触れていない。
手のひらで私を支えているのだ。
自然な動きが出来る程度には
設定されている物理バランスは
この子には適応されていないのでは
と思わせる助け方。
そして私は物扱い・・・。
「ありがとう、武峰君
下ろしてくださるかしら」
《承知。》
優しく立たせてくれた事で
物扱いは忘れる事にしよう。
「大丈夫ですか、GM。
痛みとかはないですか?」
驚いた表情を解いた樋口君は
心配している様できっと
状態確認をしたいのだろうと
直感が告げる。
こいつ心配してない。
「ええ、大丈夫よ。
痛みのパラメータは意識
すれば調整されるみたい。」
意識することで身体の様々な
影響を調整できる。
諸刃の剣の様なこのロジックも
アリルの手で何重にも安全策が
施されている事を知るのは
かなり後になった。
ひとしきりフェアリアを確認した
一行は次のエリアへと歩を進める。
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