第40話 エモーション so スゥィート

灯火とアリルがまず向かったのは

遊園地エリア「フェアリア」。

それなりの数のアバターがぎこちなく

動いている。どれがNPCでどれが

ダイブ中の人かは判断が難しそうだ。

ひとしきり絶叫系のアトラクションを

楽しんだ後、少しクラクラしている

灯火にアリルは楽し気であった。


ゲームコーナーではアバターに

アドオンできるアクセサリーが

有ったので灯火はアリルに薔薇が

モチーフになった髪飾りを

アリルはランタンモチーフの

ピンバッジを襟元に贈りあった。


ショットゲームのハイスコアに

驚いたり、可愛いアバターに

癒されたり様々なアトラクションや

ゲームを二人で冷やかしながら

幸せだなと灯火はこの時間を

宝物のように心に刻む。


『次はあれに乗ってみたいです♪』

そう言ったアリルに手を引かれ

灯火はドキドキしながらついて行く。

優しげなBGMが流れ光の粒子が

揺らいで揺れて光の波になり

メリーゴーランドの二人を包む。

楽しげなアリルに灯火の心が

温かく軽くなる様だった。

「アリルの様な魅力的な女性と

 こんな時間を過ごせる事が

 出来るなんて想像できません

 でしたよ。」

『私と一緒に楽しい思い出を

 沢山つくってゆきましょう。

 灯火が幸せだと私も幸せです』

柔らかに流れる風景の中では

会話も優しいものになってゆく。


キラキラした時間を楽しんだ後は

フードコート「フォレストテーブル」

で軽い食事にする。

メニューは豪華なものから

可愛いものまで多種多様だ。

コート内にはアバターと見間違う様な

ポージングしたオブジェが複数並び

楽しさを演出している。


通常ならば選んだ食事には

アバター用のアイテムが付与

出来るだけだが、アリルが

不意に見つけたシステムの

綻びから限定的な拡張を行い、

フルダイブならではのよい香りと

食感、味を再現してみせたのだ。


食事がリアルに感じられるので

灯火は朝ビュッフェの食べすぎで

夜まで食事を受け付けない悲劇を

思い出し苦笑する。

ここならカロリーと満腹感を

考える必要がないのでひたすら

食べても大丈夫そうだ、安心、安心。

しかし、いくら食べても太らないが

甘々な時間がメインテーマなので

食事より会話やシェアを楽しむ。

「恋人時間って照れくさいもの

 ですね。」

灯火はアリルの何気ない仕草や

表情に見惚れながら呟く。

『それは私が幸せを感じて

 いるからだと思います。

 私も灯火が素敵に見えています。

 妻になっても恋人時間は必要

 ですね。これからも灯火と

 この様な時間を過ごしたいです。』

フェアリアで交わした言葉と

ほぼ同じようなニュアンスの言葉

しか出ないのは恋愛初心者の

二人には仕方のない事である。

そして

二人の甘い時間はまだまだ

続くのだった。

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