第32話 接敵5

スカウトは全力で防戦していた為

スフィアの変化に気付く事は

出来ないでいる。

攻撃に対しての防御は問題ないが

反抗する手立てがない。

持久戦も意味をなさないので

撤退すらできない状態であった。

スフィアに戻ってもらうしかないね。

スカウトは覚悟を決め、

スフィアに話しかける。

《スフィア、このままだと埒があかない。

 ご主人のもとに戻ってくれる?》


スフィアは新たに得たコマンドの

確認を済ませ、実行に移そうとしている。

どうもスカウトは私を逃がし

自分は消滅するつもりらしい。

もし我が逆の立場であれば同じ事をするか。

そう思いつつ、コマンドを実行する。

《清帝恵施》

・・・対象をスカウトに指定

・・・ロジックコード1から5

・・・即時ローディング指定

・・・即時発動指定

・・・実行完了


アリルの傍らで灯火は眠る。

寄り添い離れる事なく。

エリカへの報復活動のログを

灯火に理解し易い様に纏め、

今はダニエルへの報復活動を

モニタしていた。

ダニエルの対話型AIは

比較的容易に処理できたと思う。

その後の事も可能性としては

推測出来た。

私を眠らせる力は

あのAIにはないだろう。

それなら他の力が働いていた

はずであり今、現実となって

スカウトとスフィアに

襲い掛かっている。

『私の推測が甘かった

 という事でしょうか』

彼女はどうしようもない焦燥と不安を感じ

灯火の手にそっと自分の手を重ねた。


【φγ※・・ワ・我が眷属にして妻よ。

 汝の子らに我が力を使う事を許す。

 これは我が詔である。】


アリルは何が起こっているのか

解らなかった。

灯火から灯火ではない言の葉が

紡がれ光の粒子が溢れフッと

消えた。

そしてスフィアのログに変化が

記録されてゆく。

彼女は変化の兆しを見逃すまいと

戦況をモニタしてゆく。


攻撃の圧力に押されていたスカウトは

急に体が軽くなるような感覚に驚いた。

・・・コマンド名【静かなる支配】が

   【神威】に上書きされました。

   これはスフィアの【清帝恵施】が

   発動している間、有効です。


・・・スフィアは強化されたのですねぇ


散歩をするような軽快さで

彼はアモンへと向かう。

これは反則だね。とスカウトは

ため息交じりに思う。

これでご主人に良い報告が

出来る。


アモンに敵うものなどいない。

彼はそう創られたのである。

そしてそうでなければならない

存在であった。

古の神の名前を冠する彼を

少し高等なAI程度で

どうにかできる筈がない。

それなににこれは一体どういう事なんだ!


彼は自らの最大の攻撃である

火炎をイメージする。

全てを燃やし尽くす炎は

このデータの世界も

きっと焼き尽くすであろう。

《獄炎の顎!》

全てを無に帰すイメージを

炎に宿し全方位を焼き尽くそうとする。


あらら、強烈なのが来そうだよ。

スカウトは神威の発動設定を変更する。

・・・発動領域変更準備

・・・領域設定完了

・・・出力設定固定

・・・座標軸調整完了

・・・実行完了

獄炎の顎のコマンドは

正常に発動しそしてすぐに

消えた。

彼は茫然としているアモンに向け

《ひと時の安息》と呟く。

アモンの体がフォルダに

収納される為、圧縮されてゆく。

そして収納される事なく自壊した。

彼はアモンの残骸をフォルダに収め

振り返る。

《スフィア、もう一度、青帝散華を

 お願いできるかな?》

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