10話

「はい――あれ、今日はどうしたの?」


 扉を開けてみると少しだけ微妙そうな顔をした響子が立っていた。

 すぐに「約束はなかったけど一人で寂しかったから来たのよ」と答えてくれた彼女、こちらとしては一緒にいられた方がいいからわざわざ頼まなくていい点は大きい。


「いつきがいま不安定なのも影響しているわ」

「ああ、響子を取られたことが気になるんだよ」

「でも、あなたが気にする必要はないわ、それこそ私は他の誰かからあなたを取った、ということになるわけだし」

「私のことを気にしている人は響子以外に誰もいなかったけどね」


 告白すらもなかったのだから勝手に言っているだけとはならない、興味があるなら勇気を出して近づくものだ。


「気になることは確かだから早くなにかいいことがあってほしいな、また五杯もジュースを飲んでいるいつき先輩を見たくないよ」

「そういえば二人で行ったのよね」

「うん、お店から連れ帰るのに苦労したよ、あそこに行こうと言われたときはお、っとなったけどね」


 自分に甘いから一人で行かなければセーフということにしている。

 そのおかげで変な症状が出ることもなく、また、学校のお友達と仲良くできているのだからいいだろう。


「もやしラーメンを食べられるよと言われれば誰にでも付いて行きそうよね」

「流石にそこまでアホじゃないよ」

「そうであることを願っているわ、それより入れてくれないの?」

「……入れるとまたよくない時間になっちゃうから」

「変な言い方をしないで、恋人らしく仲良く過ごしているだけじゃない」


 こんな言い方をしておいてあれだけど変な過ごし方をしているというわけではない。

 いまも言ったようにお喋りをしたり、ちょっと抱きしめたりする程度のことしかない。

 ただ、関係が変わってから時間が経過したいまでも慣れてないから駄目なのだ。


「付き合う前の方があなたは積極的だったわ、だからおかしいわね」

「こうなるとは思っていなかったの、あくまで余裕な態度で響子を逆にドキドキさせられるはずだったのに駄目になっちゃった」

「ドキドキさせられるというところに関しては間違ってはいないけれどね」

「でも、理想とは違うから、響子が近くに来るだけで心臓が慌て始めるんだよ」


 いまだって少し危うい状態なのに「ふふ、ならこうしたら酷くなってしまうの?」と意地悪なところを見せてきてくれたのが彼女だった。


「外で変なことをしているって思われると嫌だから中に入ろ」

「あ、あなたが入れてくれなかったからだけれどね」


 だからこそだ。

 矛盾しているけどお家に入ってしまえば一ミリぐらいは余裕が出るからいまからは負けるつもりはなかった。

 けど、彼女も重ねるつもりはなかったのか普通に存在しているだけで特になにもなかったというのもあって、それはそれで恥ずかしいという気持ちにさせられたのだった。

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