08話
「私、決めたことがあるの」
ベッドの上でぼうっとしたり一階に移動してもほげーっとしていた先輩――彼女がやっと喋ったと思ったらこれだった。
「とりあえずご飯を食べてください」
それでも私がいま一番してほしいことはこれだ、温かいのに冷めてしまったらもったいないから早く食べてほしい。
今日も学校があって単純にそこまで余裕がないというのもある、泊まらせた身として遅刻や欠席なんかをさせるわけにはいかないのだ。
そんなことが続いた場合には彼女のご両親から怒られてしまう。
だというのに彼女は全く気にならないとばかりに「先に聞いて」と貫こうとしていた。
「私ね、みかに告白をしようと思うの」
「それを本人に直接ぶつけるなんて思い切りましたね」
「結局、本人にぶつけなければならないことだからね」
それならおじさんのお店でラーメンを食べた後に、がいいけど行ったばかりだから場所は学校かここか、というところだろうか。
これだけ聞いた状態で告白をされずに学校に行くのは嫌だからいまがいい。
「一つ予想外だったのは淳さんに振られた後にすぐに切り替えてくれたことだったわ」
「ああ、依存していただけだったんですよ」
「依存……なら私に対してもそうなの?」
「最初はそうですね。でも、自分から抱きしめたりしたのは響子先輩が初めてなんですよ? おじさんが相手でもしたことはなかったです」
基本的に受け入れてくれるけどそっち関連ではピシャリと壁を作ってきていたからできなかった、なにくそこのと意地になってくっつきたくなる気持ちも初回以外は出てこなかった。
それをしてしまったらどうなるのかを私もわかっていたのだ、まあ? はっきりと言われて逃げてしまった時点で学習能力がないとも言えるけど。
「そうなのね」
「それにいまは一緒にいられないと嫌です、それでもいいということなら響子先輩の彼女になりたいです」
結果がどうであれ、私にとってこれはいい方への成長だった。
感情の差があっても誰かに興味を抱き、好意を抱き、それをはっきりとぶつけることができたのだからこれまでとは違う。
「なんかみかが告白をしてきたみたいになっているわね」
「形なんてどうでもいいです」
「ふふ、そうね」
昨日のようにこちらを抱きしめてから「好きよ」と。
いい時間だ、でも、ゆっくりと浸っておくことができないことがもどかしかった。
何故か変なことが起きて別行動をすることになったから学校に行く前におじさんのお家に寄らせてもらう。
「あい……あ、みかか、早いな」
「響子先輩とお付き合いを始めたんだ」
「きょう……は!? え、それってあのみそラーメンを頼んでくれる子だよな?」
「うん」
すぐにあの子が響子だ! となるところが怪しいけど変なのはない。
「ど、同性とか関係ないんだな」
「でも、おじさん――淳さんに言っていたことだって適当じゃなかったからね?」
「よ、よくその話を出すな、それで少しの間は微妙な感じになっていたのに」
「勘違いしてほしくなかったんだ。とにかくそれだけだから、聞いてくれてありがとう」
さあ、学校に行こう。
多分、先輩も待ってくれているはずだ。
「あ、ああ――あ! おめでとう」
「ありがとう!」
学校までの道を走る、学校に着いてからも教室まで早歩きで急いだ。
残念ながら自分のクラスにいたりはしなかったけどそこは違う学年及びクラスということで仕方がないと片付けた――まではよかったのだけど……。
「来ない」
お昼休みになっても放課後になっても来てくれることはなかった。
自分から行けばいいのに無駄なプライドがあって行くことをしなかった結果、お家に着いてからもなにも変わらなかった。
勢いで行動をしてしまって早速後悔をしているということなら、そう考えたときのこと、インターホンが鳴って玄関まで移動する。
そこに立っていたのはいつき先輩と先輩だった、が、何故かいつき先輩の後ろに隠れるようにして立っていていつも通りではないことはわかる。
「あ、いきなりごめんね、だけどこの子が面倒くさいものだから連れて行くしかなかったんだ」
「ありがとうございます」
「うん、じゃあ届けたから後はお願いね」
固まっていたから手を掴んで中に連れ込んでソファに座らせた。
元々、両親も過ごしていたお家のままでよかったと思う、私のために別で契約をしてくれた場所だったらもっと狭いからだ。
「ごめんなさい」
「わかりました」
一日も続けられずに終わる、というか、なにも始まっていなかったということか。
でも、彼女がいなければ一瞬でも盛り上がることすらできなかったわけだから感謝している、ありがとうという気持ちしかない。
「ふぅ……そういうことではなくて行かなかったことについてよ」
「ああ、そっちですか」
紛らわしい、私でなくてもいまの言い方をされたらそっち方向に考えるはずだ。
「朝にやるべきではなかったと後悔したの。全く集中できないし、あなたのところにも行けないし、放課後になってからもいつきには迷惑をかけてしまったわ」
「だけど響子先輩が選ぶ側だったんですから気にしすぎじゃないですか?」
「余裕がなくなってしまったのよ、私はもっと年上らしくいられると思っていたのに結果はこれで悲しいわ」
「余裕がなくなったと言えば私もそうですよ、全く来てくれなくて、だけど自分からも行きたくなくて帰ったんです」
約束を破ってお店に行ってやけ食いをしていなくてよかった。
もしそうなっていたらすれ違いになっていたかもしれない、ラーメンは美味しいけど場合によってはそれ以上に大切なことがある
「どうしても無理だということなら諦めるしかないですけどやっぱりすぐに別れることになるのは嫌です」
「私だって嫌よ」
「だから……いいですか?」
「ふふ、やっぱりあなたは甘えん坊さんね」
彼女に触れた日から本当のところがわかってしまったというか、これまでは甘えられる人がいないからできなかっただけだというか、まあ、細かいところにまで意識を向けると恥ずかしくなるだけだからここでやめておくけど自分の内からは目を逸らせないということだ。
「実はね、外に出てからもすぐに歩かないでいつきに迷惑をかけてしまったの」
「それなら明日、謝っておきます」
「その件ならもう謝っているから多分……大丈夫よ」
「時間的に仕方がないのかもしれないですけどいつき先輩には甘えてずるいです」
「やっぱりこう……いい存在よね、私もあの子のために動ければお互いに支えられているということ――嫉妬しないの」
絶対にわざとだ。
「ずるいと言われた後にそんなことを言ったらこうするに決まっているじゃないですか」
「確かに私はあなたのことを好きになったわ、それでもまだまだいつきには勝てないところがあるというだけのことよ」
「む、じゃあもういいです」
出されていた課題があったことを思い出したからそっちに集中しようと思う。
やはり学校関連のことは私を助けてくれるみたいだ、複雑な気持ちもやらなければいけないことが塗り替えてくれる。
じーっと見られていても変えたりすることはなかった、逆に集中しようと高まってすぐに終わらせることができた。
「なんでまだいるんですか?」
「ふふ、みかはまだまだ子どもね」
「うわーん」
「ぼ、棒読みね」
普通に戻りすぎていつき先輩にただ甘えたかっただけのように見えてきてしまう。
「ご飯を作るので食べてください」
「ありがとう、あなたが作ってくれるご飯は美味しくて好きよ」
「なるほど、ご飯に恋をしたということか」
「違うわよ、ばか」
「な、なんで馬鹿とまで言われたのか……」
とまあ、無駄に傷つけてくる彼女だった。
ご飯を食べている間もどこかツンツンしていて相手をさせてもらうのが難しかった。
子どもだったのは彼女の方だ、こっちは大人のつもりだから口にしたりはしなかったけど。
でも、また表に滲み出てしまっていたのか「こら」と怒られてしまったので形だけ謝っておいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます