第17話 神域

太陽が西の彼方に沈み西の空が茜色から徐々に闇に染まっていく。

やがて陽の光の残り香も消え失せ夜が訪れる。

ビルの谷間にある朽ち果てかけている小さく古い神社。

そこに神社があるとは誰も気にしない。

言われて初めて気がつくそれほどまでに存在感が希薄な神社である。

神代聖流は、そんな神社の前に立っていた。

その背後には八神萌がいる。

「聖流、ここは何」

「その前になんでついてくる。これはお前には関係ない仕事だ。特級陰陽師のみが手がけている仕事だ」

「いいじゃないの、教えてよ」

「興味本位でついてくるな。帰れ、邪魔。お前がいるだけで不測の事態が起きそうだ」

「ハァ〜・・みんなから死神と呼ばれる人にそんなこと言われたくないわ」

「なら、そんな死神と一緒にいると死ぬ目に会うから帰ったほうがいいぞ。無事は保証しかねる」

「あんたなら何があっても守ってくれるでしょう」

「俺には、お前の理屈が理解できんのだが・・・」

聖流は少しウンザリした表情をしている。

聖流は、八神萌を無視して鳥居をくぐる。

「チョット、置いて行かないでよ」

八神萌も慌てて鳥居をくぐる。

「えっ・・これ、どうなってるの」

鳥居をくぐるとそこは綺麗に整備された神社があった。

敷地も広く、玉じゃりも綺麗に敷かれている。

鳥居をくぐる前に見た神社は、ビルの谷間にある寂れた小さな神社。

それが鳥居をくぐると全く違う神社になっている。

「ここは本来特級陰陽師でなければ入れない場所だ。今回は特別だ。あそこに放っておけばお前のことだ、あの場所で大騒ぎをするだろう。そうなればここが公になる恐れがある。そうなれば原因を作ったお前は陰陽師失格の烙印を押されるぞ」

「えっ・・それは」

「それは聞かないほうがいいと思うぞ。聞けば色々やばいことになる。いろんな妖魔から狙われるな、確実に」

「聞かなくていいです・・・」

「ここは霊的結界網の一つで、異空間に結界の拠点を置いてある。外には認識阻害の術がかけてあるから余程のことがない限り気づく事はできん」

「チョット。何で説明するのよ。聞かない聞かない、やめて。帰る帰る」

慌てて振り向いて帰ろうとしたら出口が無い。

「出・・出口が無い・・」

「もう遅い。手遅れだ。ここに踏み込んだ時点でアウトだ。だから何度も言ったはずだ、ついて来るなと。特級陰陽師の仕事に興味本位で勝手についてくるからだ」

「私・・どうなるの・・」

「俺の仕事が終われば出口を開けてやる。ただ、ここに入り込む姿を妖魔に見られていたらこの先狙われるな」

「・・私はどうしたら・・」

「知らん。頑張って自力で守れるようにならんとな。まあ、1級陰陽師だから大抵の奴には負けんだろう」

「大抵の奴には負けないと言うけど、そうじゃ無いヤツがいると言うことかしら・・」

「いるけど、そうそう出会う事もないだろう・・可能性はゼロじゃ無いが」

「そこは可能性ゼロと言ってよ」

「可能性はゼロ・・じゃ無い」

絶望的な表情をする八神萌。

そこに一人の女性が近づいてきた。

「騒がしいですね。どうしました」

そこには巫女姿をした若い女性が立っていた。

黒い髪は腰まで伸びているが後ろでまとめている。

「えっ・・・綺麗・・」

八神萌は彼女の美しさに見惚れていた。

「叔母と言って良いのか?・・神代夏織だ」

「は・・叔母?・・10代後半にしか見えないけど・・叔母?」

八神萌は目の前の女性が10代にしか見えないため戸惑っている。

「何を言っている。若く見せているだけだ。正確に言えば叔母では・・・」

聖流の後ろから呪符が投げられ聖流の背中に取り付く。

その瞬間、呪符が光り聖流の体が思いっきり締め上げられる。

体が軋む音がしそうだ。

「聖流、女性の秘密はみだりに話してはダメと教えましたよね」

ニコニコしながらプレッシャーを二人に与えている。

「ウグ・・・す・すいません」

「叔母という呼び方も私が最大限譲歩しているのですよ、今度から紹介するときはお姉さんもしくはお姉様と呼びなさい」

「そ・それは流石に・・・・・」

「聞き分けの無い。姉として私は怒っているのですよ」

さらに強く締め上げられる。

「わ・分かりました。お姉様・・申し訳ありません」

その瞬間、聖流の拘束は解かれた。

「わかれば良いのです。奥でお茶でも出しましょう。ついていらっしゃい」

神代夏織はさっさと奥に向かって行く。

慌ててついていく二人。

「聖流、あの人は何なの」

「え・・もっとタブーを知りたいの」

「言わなくていい、言わなくて」

聖流の言葉に慌てる八神萌。

「土地神様」

「はぁ?」

「もう一度言う・・土地神様だ」

「なんで、そんなとんでもないことを言うのよ」

「聞いてくる奴が悪い」

「そんなとんでもないことサラッと言わないでよ」

八神萌は既に涙目になっている。

「ここに入った時点でアウトと言ったはずだ。諦めろ。今日からお前もここの管理人の一人だ。日頃から言ってただろう。大きな仕事がしたいと。これはとても重要で大きな仕事だ。よかったな夢が叶って」

「あんたわざと全部話したでしょ」

「人が止めるのも聞かずに首を突っ込んできたのは自分だろ。まあ頑張れ」

聖流は、唖然とする八神萌を放って先に進む。

八神萌は興味本位で動いたことを後悔していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る