最強と至高の魔法少女はカノジョのためなら巨悪も神様も倒してみせる。
とざきとおる
プロローグ 「太陽のサキ」とカナデ、2人で出撃します!
紋章協会が用意した特急列車スペーシアクセル。埼玉地区の東部、日光街道上の宿街をつなぐ交通手段。
第2車両の前から2番目のシートに向かい合って座っている少女2人がいた。ほかに客は存在しない。1人はうとうとしながらあくびを連発する。それを見たもう1人が首を傾げた。
「そんな調子で大丈夫?」
フードをかぶり、目を黒のサングラスで隠し、鮮やかな赤髪が列車の衝撃で揺れるのを気にしない。
彼女は、前にいるふにゃふにゃな相棒に返答を求める。
「だってぇ、昨日カナデにゲームで全然勝てんから練習しててぇ。まあ私にかかれば悪霊なんてよゆーよゆー」
「死亡フラグ」
「ちがーう! てかサングラスで隠して平気そうにしといて、実はカナデこそねむねむなんじゃない?」
「サキのように楽観的じゃないから起きてる。油断禁物、悪霊に食べられちゃうよ」
「カナデがやさしく、頑張ろ? って言ってくれたら元気出る」
15歳と16歳の子供2人。こうして友達のように話す時間もあるというものだ。たとえ戦場に向かうとしても。
「私はカノジョじゃない」
カナデの目に映るのは、相棒が不満でほっぺを膨らませているところと右手にある紋章。太陽の形の紋章はサキの性格そのものだと思っていた。
ダークブラウンのポニテと近くに立てかけている大太刀が代名詞。一緒にいるだけで騒がしく、強制的に活力を与える快活少女。
余談だが、目がきりっとしてるからかイケメン判定されることもある。本人も女の子が好きといろんなところで言いふらすボーイな一面持ち。多分、彼女がセンジンと呼ぶ育ての親の男に似たのだろう、とお得意様や近所の人に残念がられていた。
カナデは、約半分理解不能な行動をする彼女と一緒に行動するのが、少しずつ楽しいと感じ始めている。最初は不満ばかりのバディであったが、今は悪くない。
「そろそろ草加宿街につく」
「援軍要請とか結構ヤバいよね。今回は人命救助を優先に、が基本方針らしいけど」
窓から見える、あちこちで上がる火の手、駅の近くのビル群や商店の多い宿街、少し遠くの住宅街、そこで誰かが黒い生物と戦っているところ。
黒く染まった体で人間を殺して回る怪物は悪霊と呼ばれる存在。形は定まっていない。カマキリのように腕が鎌になっていて、下半身が馬の如き筋肉隆々の四足歩行の怪物もいれば、飛竜のようなファンタジー生物に似たものまでさまざまだ。
「ヒーローは遅れてやってくるってね! ワルモノをぶっ倒すぞぅ!」
日向サキと赤撫カナデがこの街に来たのは、その悪霊を討伐するため。紋章の魔法少女とその相方である。彼女たちは人間たちの脅威に挑み、人類を救う英雄だ。
「そんなサキに残念なお知らせ。カッコよく登場は諦めたほうがいい」
「えー! なんでよ?」
「悪霊が列車に結構まとわりついている。そしてこの列車ごと爆破して始末しようと、こっちに大規模な攻撃が来る。あと5秒くらい?」
「がちぃ?」
カナデがサキに近寄った。隣に座って。
「守り任せた」
「ええ? 何されんの、ひぃいいい!」
サキの右手の甲にある太陽の紋章が光った瞬間。
ドゴォオオオオン
ドガァドガァンドゴォ!
列車が端から順番に爆砕されていく。2人が認識した2秒後、2人が座っていた列車もまた同様に爆炎に包まれた。
悪霊の生半可な攻撃を通さない特殊金属でできた列車を爆破し、車両にまとわりついていた悪霊をもろとも吹き飛ばしたのは紋章の力。
「ははははははははは」
体調220センチ、体重110キロ、角刈り、筋肉モリモリの巨漢が1人。高らかに笑い声をあげている。
その隣、前述の巨漢のせいで小さく見える175センチ、大斧を持ち、正12角形の所属が刻まれたジャケットと帽子をかぶっている女性が1人。右腕では紋章が光っている紋章使い。彼女もまたいわゆる魔法少女だ。
2人はとっても金がかかっていた特急列車を無残に爆破した割に全く罪悪感なく燃える列車を見つめていた。
「紋章神士が狙っていることにも気づかず、列車に集まる姿は滑稽だったねぇ。バウザ、もう一度念入りに吹っ飛ばしてやれ、まだ生き残りがいるかも」
「いいなぁ。破壊しつくしてやるぜぇ」
この巨漢はもちろん肉弾戦も強いが、それをさらに強くしているのは肩の後ろで光る青色の円の紋章。Aランク『破天光』を示すものだ。
紋章とは人智を超える力を持つことの証明。マッチョな彼に鬼に金棒な光の破壊弾を放つ力を与えている。列車が破壊したのはその力だ。
「まて、中から出てくる。生き残ってるみたい」
「マジか、あんなに念入りに爆破したのに。まさか」
2人が構える前で、哀れな姿となった列車が、すさまじい魔力によってがれきが吹っ飛び、目がやけどするようなすさまじい光を放った。
「イデアルチェンジ!」
紋章解放。これが選ばれし者が力を行使するときに行う変身の合図。
がれきが吹っ飛び光が収まると、その中からすさまじい魔力を感じ、バウザは隣のバディと共に不敵な笑いを浮かべる。
「何すんじゃぼけぇ! 死ぬところだったでしょ!」
サキの姿が変わっている。背中に太刀を背負い、黄色と白で彩られたバトルドレスと、足と腕に戦闘支援用の籠手と脚鎧を装着している。
何より髪色と瞳が異なっている。ポニテはそのままに髪色は金色に輝き、瞳の色が深緑へと変わっていた。
紋章の使用者はバトルフォームになって姿が変わる。紋章の使い手を指す言葉は男女共用の『紋章神士(もんしょうしんし)』という正式名がある。
が、一般の人々はそのうち女性を、神聖視と親しみを込めて魔法少女と呼ぶことが多い。
カナデを抱きよせ、自分の力で爆破から守ったサキはがれきを吹っ飛ばして、こうして2人の前に立っている。
「もういい、はなして」
「へーき? カナデ? 怖かったらこのままでもいいよ?」
相棒に必要とされてうれしい気分より任務優先。
「そういうのいいから」
「はいはいー」
名残惜しそうにカナデを離して2秒不満そうにしながらも、すぐに自分たちを爆散させようとした2人組を睨んだ。
バウザは狂喜。高らかに笑い声をあげた。
「会えてうれしいぞサキ。粕壁など田舎の協会支部にいるくせにちやほやされる最強の紋章使い。主都の活躍を奪う悪魔めぇ。ここがお前の死に場所だぁ!」
――ちなみに、バウザと相棒のリンドは支部ではなく埼玉主要要塞都市、浦与宮市の軍が派遣したA級紋章使い。つまり、サキやカナデの味方であり共に悪霊と戦うべき人間だ。
「あんた、この状況でアタシとやってもしょーがないでしょ! でも謝罪希望!」
「あの車両には一般人は載せない。こんな死地に列車で来るのは死にたがりか一流の紋章使いだし。まあそこの紋章なしの一般兵士は死んでも問題ない」
グサリ、と心に来ないでもないが前よりはカナデも慣れたし、その件は既に折り合いがついている。
「アタシのカノジョになんて失礼な!」
gyaaaaa!
唐突に線路に乗り上げてきた悪霊がサキにめがけてとびかかってくる。サキは目も向けず太刀を片手で、まるで細身の片手剣でも扱っているかのように軽々と振った。
剣から黄金の三日月が撃ちだされ、悪霊は真っ二つに。バウザはなぜかにっこり。
「俺と戦おう。紋章を持っている者の目と目があったら紋章バトルだぁ!」
リンドが大斧を振り上げる。朱色の髪がたなびいた。
「そこの戦闘狂はともかく、我ら紋章神士の仕事は人々を悪霊から守ること。そして理想は空塔に挑む力を蓄え、平和の願いを叶えること。お前がボイコットしているせいで今日も戦いが起こってる」
「それはアタシのせいじゃないし」
「生ぬるい支部に移ってのうのうと生きているお前を快く思わない奴らは多い。そいつらに殺されても文句言えんぞ」
「こわー。さすが軍隊みたいな本部の皆さん。生きるのに余裕がないのは悲しいことだよぅ」
カナデに背中をつつかれたのを感じ、サキが、どしたの? と振り返る。カナデ見せたセンサーには大量の悪霊がこちらへと向かっていることが示されていた。
さらに追い打ちをかけるように、2人が耳につけている通信機械からは、通信開始早々上司である女性上司の命令が襲撃。
「わざわざ来たくせに役に立たないつもりか」
「おやぁ、本部北条教官。その言い方キッツいなぁ。あなたの元教え子ですよぉ? 優しくぅ」
「申し訳ありません」
「出来損ないと不良娘など私は知らん。お前たちには戦力が向けられていない区域に特攻してもらう。お前たちも正義を果たせ」
「はいはい。そのために来たんだしね」
小型端末に送られてきた立体画像が点で目的地を指し示す。今いる場所からおよそ5分で着く学校が。向こうのデカい男女ペアも同様に別の目的地が示されていた。
「ぬぅ、決着はお預けか」
「不良娘、今回の件で少しは頭を冷やすことだな」
言うだけ言ってその場から大跳躍、30メートル離れた場所に着地するとサキたちの目標とは別方向へと走り出す。
「サキ、カナデ、聞こえるか?」
「センジンさん、通信じゃなくて現場きてよぅ。どうせ独身なんだから、働いて稼いどけって」
「俺は今回はお前の活躍をドローンで見させてもらうぞ。あと俺は今彼女募集中なだけだ。あ、ケーキあんじゃーん」
通信が切れ、携帯端末に『それ私のじゃ、おい』と叫ぶサキを置いて、カナデは線路から脱出する。
アタッシュケースに入れていたサブマシンガン、そしてリボルバーを腰の入れ物に装備、腰に戦闘等小型支援器こと『デバイス』を装備して準備完了。
「もぐもぐ。本部長の連絡は聞いたな。目標地点を紅葉が解析したところ、一般人と数名の紋章使いがいる。支援に迎え」
「わかった。よおし、行くよ! すぐに帰って先生にケーキを補償してもらう!」
戦いを前にサキの頭には敗北やプレッシャーはない。カナデはそれを頼もしく思うし、ケーキを楽しみに頑張る娯楽に強欲な人間らしさをうらやましく、そして魅力的に思っている。
出会いの日から共に過ごし、しばらく経った。そしてカナデは見届け理解すると決めたのだ。彼女の『楽しく生きる』とはいかなるものかを。
準備運動を終えたサキが走りだし、その後を追いかけ始めた。
戦場を駆けていけば、生命のにおいを嗅ぎつけ悪霊が寄ってくる。
サキには恐るるに足らず。『太陽』の紋章の力で光り輝く太刀で、次々こちらに気づき襲い掛かってくる敵を一刀両断。
「せああああ!」
「どりゃああああ」
「あらよっと!」
太陽の紋章は彼女に強大な力を与える。やってきた腕が鎌の武装悪霊は一度振り下ろせば、強化コンクリートも軽く砕いてしまうほどのプレッシャー。
しかし戦闘モードのサキはその攻撃すらも軽々弾き飛ばし、続けざまに体を両断する。悪霊は生存不可能になると、その場で黒いドロドロに体が分解され自然消滅が基本だ。
基本的なフォーメーションはサキが暴れて、カナデは後ろからついていきながら後方支援とサポート。
後ろから銃撃で敵の動きを止めたり、サキが暴れている間、後ろから来る悪霊と戦って時間を稼ぐ、あるいは討伐するのが主だ。
『通信、通信。楊だよ。学校構内には数名の紋章使いがいる。一般人をかばって戦っているみたいだ。僕もハッキングで施設内の装置使って時間稼ぎするから、早く行ってね』
「了解、ありがと、こうようくん」
「わかった」
サキが太刀を上に掲げ、紋章の力をチャージする。その間にやってくる相手を倒すのはカナデの役目。しまっていたリボルバーを持ち、敵に狙いを定め引き金を引いた。
今までのマシンガンの銃撃とは比べ物にはならない。カナデに流れるエネルギーを込めた特殊弾。たとえ紋章がなくとも人間はみな、万能粒子というエネルギー源を持っている。
強力な弾丸は悪霊を貫きそのまま絶命させる。それを3発、2発、悪霊は次々と倒れていった。
「OK! カナデ!」
その掛け声で、サキの前から立ち退くと、線路上で放った光の斬撃の数倍大きい同様の斬撃が地面を割りながら敵を破壊し進んでいく。
その先にいた巨大な大蜘蛛のような悪霊が、再び大学の構内に入ろうその前に斬撃が激突し、蓄えられた太陽光が光の柱のような炸裂で浄化されていく。
道中の悪霊はすべていなくなった。この場はひとまずの勝利。
「いえーい!」
2人のハイタッチにぎこちなさはもうない。
『助かりました! あなたが太陽のサキ。そしてあなたが噂のパートナーさん。草加街所属の魔法少女として、お礼申し上げます』
『すごかったねぇお姉ちゃんたち! うちの紋章魔法使いさんが苦戦していた人を簡単にぶっ倒しちゃうなんて』
『もち! アタシ最強だからね』
『俺も粕壁いこっかな……』
『この子、推しにしちゃうかも……』
『あの、私も良ければ弟子にしていただけませんか?』
『あれ、アタシ、なんだかモテモテ? へへへ』
『サキ、お遊び禁止です』
『カナデぇ、やきもちぃ? 可愛いカノジョだなぁ』
鼻を伸ばしている義理の娘をやれやれという感情で見ている青年がいる。草加から送られてくる自分の娘、兼弟子の活躍を満足そうに見守っていた。
「センジンさん。ドローン次、どこ飛ばす?」
「あいつらを追い続けていいぞ」
粕壁支部、公営酒場、地下カウンター席で、近くのボトルに酒を戻す。今回は日本酒だ。その向かい側に座っているのは、13歳くらいのしなやか黒髪ロングヘアの可愛い顔立ちの少年だった。
ドローンを飛ばし、遠隔操縦、さらにはハッキングなどと言っていたのがこの子だ。
「あの2人、仲いいなぁ」
「サキとカナデ、今やうちの2大看板娘だ。前はギスってたけど、仲良くなれてよかったもんだ」
ごくりと日本酒をのどに通す。おいしそうに目を閉じる。
「この2人、ギスってたの?」
「お前が加入して慣れた頃にはだいぶ良くなってたからな。聞きたい?」
うんうん、と頭を立てにふる彼のお願いに乗り、男は『まあしばらくは大丈夫か』話を始めた。
最強少女サキとカノジョ――本人未認――であるカナデが出会った伝説の始まりの日を。
********************************
紅葉ちゃんの『次回予告!』
もみじじゃなくてこうようだから。あとちゃんつけるなセンジンさん。
それはさておき、2人がどんな出会いしたのかは気になるな……。だってギルドの中だと、サキがカナデにかまって、カナデがまんざらでもなさそうにしてるから仲いいから、ギスギスとか考えにくいな……。
次回はそんな彼女たちの出会いの話らしいよ?
2人の掛けあいをもっと見たい。
もっといちゃいたり仲良しな姿見せてくれたらうれしい!
タイトル通りのサキの無双に期待!
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