魔王を倒して平和になった世界で新婚勇者は旅の思い出を辿りながら世界の最果てにある終焉の地に向かう

神音色花

一日目

魔王を打ち破り平和の象徴となった勇者が魔王軍と長きに渡る攻防を続けてきた代表国に戻り国王と共に女神に祈り世界に宣言する。


『勇者の凱旋』


国はパレードやお祭りが開催され城には各国の最高位の人々が集まり勇者の到着を心待にしている。


外壁の正門から高らかにラッパの音が鳴り響く、勇者一行が帰還した合図だ。

帰還の為に送られた早馬に乗って勇者達が正門をくぐる。瞬間湧き出る歓声と感謝の言葉涙を流すものも居る群衆を警備兵の指示に従い大通りを笑顔で通り抜ける。


立ち塞がる試練を突破する鍵の狩人「プレーリー・オールド・ボレ」


瘴気を浄化し死をも恐れるに値しない女神の遣い、聖女「ニュー・アデリ・エンペラー」


千年の知識を持ち熟練された溢れ出るマナと清らかな精霊の加護を身に宿す、賢者「ボールド・ブルー・イーグル」


故郷を弔うため立ち上がった青年、勇者「ウルフ・ボロー」


吟遊詩人の唄に乗せどこまでもいつまでもこの名前は語り継がれるだろう。


馬の歩みを進めていると城門で馬を返し中に案内される。道の両端を様々な国の騎士団が敬礼をして並び。アーチをくぐった先には開け放たれた庭園に貴族達が歓迎の意を表した拍手が鳴り響く。門を抜け城に入り長い廊下を進んだ先にある玉座の間に着くと玉座の前に国王殿下と王女殿下が立っていた。


「お父様!お母様!!」

ニューは足早で二人に駆け寄り抱きついた。二人もニューを抱き締め返し親として娘に言葉を掛ける。涙ぐみながら再開を喜んだ束の間、一度離れ勇者達の元に戻る。


「国王殿下、王女殿下、只今平和と女神の祝福を届けに参りました。」


「よくぞ魔王を打ち破り平和を世界に訪れさせた。さあこちらに、民が待っておる。」王座の裏にある大きなガラス扉を開けると国を一望できるバルコニーに出る。


バルコニーには神殿の大神官が立っていた。外には大広間が広がり見渡す限り国民がバルコニーに注目していた。二度目の歓声を浴びつつ大神官の隣にそれぞれ立つ。


「兄弟よ聞け」

「信者よ聞け」

「国民よ聞け」


三人は隣人に言う。ざわめきは一瞬で消え去り。希望に満ちた目で今か今かと心待にしている。


「今ここに平和の時代を鐘の音と共に告げる」


リンゴーン リンゴーン リンゴーン

ワアアァァァァ!!!!


国中にある城の頂上に位置する大鐘を始め、大小さまざまな教会の鐘が一斉に鳴り出す。

バルコニーから数十分ほど国民に手を振り城の中に戻った一行は、玉座の間で報酬やこれからのことについての説明は一週間の凱旋パーティー後に詳しく話すことになりそれぞれを貴賓室やパーティーで旅の疲れを少しでも癒して欲しいと国王が話した。


「国王様、教皇様、並びに皆様に一つだけご報告をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


そう言い勇者と聖女が玉座の間の中央に立つ。

この二人が出るという意味に様々な思案が渦巻き始める。


「勇者と聖女よいったいどうしたと言うのかね?」


「「私達は、この旅で純潔を失いました」」


一度静まり返り、あまりのことに絶叫や言葉を濁すものが出る中、国王と王妃は彼等の求めていた思惑に期待して目を光らせながら言いました。

「これはめでたいことだ、祝福したい」と周りのものは、複雑な面持ちをしながら少しの諦めを感じていました。勇者と勇者の血の価値を聖女と継承権第一王女と王族の血族の価値に手を取りたい者は後を絶たないであろう。だが純潔を失い合った彼等を引き離すことは格好の餌であり報復の怖さもある。今後のことを考えると頷き祝福するに越したことはない。一部の思惑は大抵このようなものだろう

祝福の拍手を贈る者たちを見渡しながら満足そうにしている二人は微笑みあった。


そして、勇者の後ろから待機していたエルフが隣に立った。


「私の"妻"のボールドです。」


「「ん?」」


えーーーーーーーーーーーー?!!!

絶句

動揺した国王が「ひ、姫。これはどういうことだ?」と話しかける。勇者じゃなければ娘の純潔を奪ったのは一体誰なんだという親心なのかもしれない。


「わたくしの生涯の伴侶はこちらですわ。」微笑みながら指パッチンをするといつの間にかいなくなっていたプレーリーが扉を蹴破り縛り上げた人物を床に放った。


「んー!んん"ーー!!」


「貴様は後方支援を務めていたアングラー商会の会長じゃないか!よくも私の娘を、聖女の純潔を奪ってくれたな!?衛兵こやつを捕らえよ!!」


国王の言葉に衛兵が動こうとした時、ニューは「違いますわお父様」と言いアングラー側に行き拘束を解きながらこう言い放った。


「わたくしが彼を襲い純潔を失いました。」


二度目の絶句

王妃にいたっては気を失いかけていた。アングラーは「申し訳ありません国王様、逃げ切れませんでした、、、」と半泣きでニューに引き上げられ立たされていた。


「アングラー様は私たちのもっとも近い後方支援に身を粉にして貢献していました。その姿を一目見て私は神をも凌駕する幸福を感じました。ですが私は一国の姫であり聖女。軽率な行動は周りに多大な影響を及ぼすのが事実。ですが、こう考えましょう。私の幸福は国の幸せ、民の幸せ、ひいては神の思し召しだと思いませんか?思いますよね?何故ならわたくしが幸福により神聖力は魔王を打つ目の前でより強靭なものになったのは勇者始め賢者まで認めました。これはもうヤるっきゃない、おっと失礼しました。これはもう生涯の伴侶です。運命です。番です。ですよね皆さん。」


圧力を感じる。神の贈り物である神聖力で周囲に圧力を掛ける聖女に皆は思った。頷かなければあの手この手で異端者として祭り上げられそうだと。恋は盲目で目のすわった聖女に頷くしか無かった。


「そういう訳でわたくし、ニュー・アデリ・エンペラーはアングラー様と二人で国の平和を治めて参りますわ」


フフッと淑女らしく上品に笑うニューは、目配せで周りに釘刺しの圧力を掛けて笑いを引き起こした。


「お、おまえが幸せで何よりだ、、、さぁ、そろそろ身を清めて休みたま「あ、そのことですが。」まだ、なにかあるの勇者?」


なにも口にしていないが胃に満腹感を感じて腹をひとなでした国王。に、勇者はニコリと笑う。


「私とボールドは今から国を出ます。」


「いきなりすぎないか?」


「あなた」と隣に座っていた気力を取り戻した王妃が小声で叱咤する。ああ、昔もこうして諌めてくれる女じゃった、、、と国王は思い出す。


「理由を話してくれんか?」


「多分、そろそろ女神様がお告げをしに来ますので。あ」


「来ました」と上を見上げた勇者に揃って聖女以外国王達も上を見上げる。聖女はすでに見上げていた。信仰心である。

天井からふわふわとした丸い光が降りてくる丸い光は形を変えて美しい女性の姿で降り立った。


勇者一行と国王夫妻以外は皆一斉に腰を下げて祈りを捧げる。祈りを捧げる様子に機嫌を良くした女神はニコリと微笑み返す。

聖女と王妃に手を振り、聖女はにこにこと手を振り返し王妃は恥ずかしがりながらも振り返えした。うーん、かわいい。


「久しいな国王夫妻、教皇、勇者の存在を告げた以来だな」


光で大きな薔薇を産み出し上に腰かける。

優雅に足を組み頬杖をつく。その仕草は見るものを魅了し、その声は聞くものの時を止めて、その瞳は見たものの口を閉ざす。胸を打つ瞬間を具現化させていた。


「勇者がこの国を出る理由を告げに降りてきた。こちらから言えることは、勇者の体に魔王が封じ込まれていることから始まる。」


"魔王が封じ込まれている"その言葉に先程とは違う動揺と緊張感が走る。つまり魔王は勇者の中に居るということ。消えたとばかり思っていた害がまだそこにいるということは危険の芽が育つ可能性が脳裏にちらつく。


勇者一行以外は固唾を飲み、神妙な面持ちで女神の話を静かに聞く。


「元々私と魔王だった彼は双子神の片割れ、世界の半分をお互い治めていた訳だが。こちらの世界では魔王の魂を昇華出来ない。私の存在と力が邪魔だからだ。」


女神はひとつ大きくため息を吐き出す。


「そのためあちらの世界で魂を昇華しなければならない。そこで勇者だ、神への適性度が高く弱っている神の拠り所としての器に相応しい早い話は人柱だ。」


早く片割れに出会いたいものよ…とクスクスと笑いながら女神は勇者を見つめる。


「勇者は今からあちらの世界の中心で死んで、宿している私の力を使い神を転生させる。後十数年には神が瘴気の規模を戻すから魔人と人間で貿易でもして仲良くするんだぞ。」


「では、私はしばらく寝て待つとする。」と言いたいことを言って光の塊に戻り散乱した。


静まる玉座の間で、それでも動揺だけが残った。


「では国王様、私は彼と一緒にいるための一刻が惜しいのでここで失礼します。ボールドの両親に報告と挨拶と結婚式をする為にエルフの森に行きます。」


「あ、いや、ゆうs


次の瞬間、裏路地だろうか人気を耳で感じる程度の場所に移動していた。


「もういい、行くぞ」


そういいながらボールドはウルフにクロークを羽織らせ目深くフードを被らせる。同じクロークを羽織った彼は、ウルフの手を引き歩き始める。


フードから見えた頬がほんのり赤く染まっていたのが見えて。かわいいなぁっと思い胸が温かくなった。

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