第37話 勘当
――――うちはそんなもの作ってません!
うちの会社のコールセンターもたいへんだったらしいが蓮を出向させたことで、いまは在籍しておりませんのひとことで済ませてるらしい。
自称正義の味方には困ったものだ……。
加賀山アクリル工業はパンフレットのイメージ通りで下町ロケットに出てきた
一応、蓮の父親である加賀山アクリル工業の社長にはアポイントメントを取ろうと電話したのだが、あのイタ電やらお
「お父さん、お客さまをお連れしたよ」
瑠華ちゃんが社長室とプレートのかかった部屋のドアを開けると蓮の父親らしき人物が社長机に突っ伏して、頭を抱えてなにやらぶつぶつとつぶやいていた。
「もう終わりだ……どうすればいいんだ……あの馬鹿息子のために私たち家族だけじゃなく、社員までも路頭に迷わせるなんて……いっそ蓮の奴を殺して、私も死んでやろうか……」
「お父さん、お父さん!」と声を瑠華ちゃんがかけながら背中を揺すったことで、ようやく蓮のお父さんは頭をあげ、俺に気づいた。
「ああ、ご連絡いただいていた結月さんですね。お見苦しいところをお見せして、申し訳ない……」
俺たちは互いに自己紹介を済ましたあと、単刀直入に話を切り出した。
「俺はあなたの息子さんに彼女を寝取られました。そしてその腹いせに俺の部屋で行われていた行為を動画サイトで流したのです」
「えっ……?」
お父さんはただ戸惑うだけで、話が飲み込めていなさそう。
「うちの蓮がそのようなことをしてしまい、大変申し訳ない」
それでも蓮のお父さんは立ち上がり、俺に深々と頭を下げて謝罪していた。
瑠華ちゃんによるとGoogleの口コミから悪い噂が書きこまれてから、銀行から融資を取りやめたいとの申し出があり、取引先も次々と手を引いていったらしい。
もう加賀山アクリル工業は倒産まで風前の
「俺はあなたの会社を買収したい」
それと同時に通帳に入った9億近い額の現金を提示している。
「なっ!?」
「えっ!?」
なぜか俺の隣に腰かけていた瑠華ちゃんはお父さんと共に俺の通帳を覗き込んで驚いていた。俺の顔を見上げた二人にさらに畳みかけるように告げる。
「ただし、これは蓮への賠償扱いとしていただきたい」
「は? 意味が分からないのですが……」
税金の問題もある。企業買収は経費で落ちないが、損害賠償は経費で落ちる!!!
俺は蓮のお父さんである加賀山社長にトロッコ問題を仕掛けていた。
「加賀山社長! 蓮以外のご家族と従業員の皆さんを守るのか、息子さんを取るのか……決めてください。あなたが蓮に訴訟費用を渡すというのであれば、俺は買収の話はなかったことにします。どうでしょう、俺はどちらでも構いませんから」
「分かりました……娘の瑠華は本当にいい子だというのにあいつだけはグレる、喧嘩する、少年院に入りかける……私が甘やかしたのが間違っていたようだ。ここにいるみんなを守るのが社長としての最後の役目を果たしたいと思います」
「あ、いえ社長には会長兼相談役として、残っていただかないと」
「いいのですか!? 会社をつぶしたようなものなんですよ、私は……」
「またつぶれてませんよ」
俺は社長の手を取り、微笑むと社長の顔に
「オヤジ! あの役立たずの弁護士をやめさせ……――――なんでおまえがここにいるんだよっ!!」
「蓮っ! 結月さん……いや結月社長は私たちの恩人、その人になんて口を聞くんだ。訂正しなさい」
「結月さんはあなたみたいな人間のクズなんかじゃない! あなたのせいで傾いたうちに9億円近いお金を出してくれたんだからっ!」
「瑠華!? おまえ、なにを血迷って結月なんかと腕組んでんだよ……」
「瑠華ちゃん、人前でくっついたらダメだって」
「いいえ、結月さんになら処女を……きゃっ、なに言ってるんだろ、私」
「許さねえぞっ! 結月ィィィィーーー!」
蓮は怒りのあまり俺に向かってぶんとフックみたいなパンチで殴りかかってくるが、能力がエロスキルに全振りしてるのかと思うほど遅かった……。
俺はボクシングのダッキングのように屈んで、蓮のクソパンチをやり過ごすと蓮は驚く。
「なっ!?」
避けられたことに気づいたがもう遅い。
俺はそのままスッと身体を起こすと額が蓮の高い鼻を捉えて、強烈な頭突きを鼻っ柱にぶちかました格好となってしまった。
――――ぐはっああっ!!!
蓮の鼻孔からだらだらと血が流れ、蓮は鼻を押さえていた。
「やりやがったな! 暴行だぞ、こらぁぁ! 民事だけじゃねえ、刑事でも訴えてやる! おまえらも見ただろ、こいつの暴行をっ」
――――シーン……。
蓮のお父さんと瑠華ちゃんは俺の行動をきっちり見ていたはずなのにまったく蓮の言葉に反応しない。
「オヤジ! 見てただろ!」
「私はなにも見ていない。いったいどこに鼻をぶつけたんだ? 鈍くさいにも程があるな」
「瑠華っ! おまえは見てたよな?」
「……知らない」
「だったら、役員どもはどうだ!」
集まった役員たちは蓮の問いに答えず、ただ首を横に振るだけ……。
「なんだよっ、オレが結月の野郎にやられたって証言する奴はいねえのかよ!」
蓮はどうやらここにいるみんなから見限られてしまったようだった。
「オレのこの自慢の顔を、鼻を……結月っ、てめえだけはぜったいに許さねえぞ!」
俺を
「は? それはこっちのセリフだ。いままで俺は動画配信のためだけに蓮と美玖を気づかってやってたんだ。それができなくなったいま、俺はおまえたちにまったく遠慮せずに叩きつぶせることを忘れるなよ!」
「ひっ!?」
ゆっくりと近づいてゆくと蓮は後ずさりするのだが、蓮は自分の流した血で足を滑らせ、ドテッと大きな音を立てて尻もちをついていた。
「蓮! 私はもうおまえに金銭の援助はしない。今後いっさい会社に来ないでくれ。今日でおまえとは他人だ」
「あなたとやっと縁が切れて私はしあわせです!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
蓮も美玖と同じように家族から見限られてしまう。蓮がいちばん弱い瑠華ちゃんに怒りをぶつけようとすると俺は蓮の前に立ちはだかって、蓮の前で拳を握ると蓮は顔が真っ青になり、捨てゼリフを吐いて一目散に逃げていってしまう。
「お、覚えてろよーーーーーーーーーーーーッ!」
蓮が去ると会長は辞退され、相談役となった蓮のお父さんが拍手していた。
「結月社長の初仕事は
それに追従する役員たち。こうして俺は加賀山アクリル工業の社長になってしまった。
蓮のことだ。実家を売却させてでも訴訟費用を捻出しようとするだろうが、蓮が勘当されたことでその資金源を断ってやったのだが、俺もそれだけで加賀山アクリル工業を買収したわけじゃない。
確実に収益が見込める事業を興すつもりでいた。
俺が会社の自販機コーナーでコーヒーをすすりながら休んでると瑠華ちゃんが声をかけてくる。
「結月さん……クズ兄に彼女さんを寝取られたって、本当なんですか?」
「あ、うん……」
「じゃあ、いまフリーなんですよね?」
「まあ誰ともつき合ってはいないね」
「たったら私とつき合いませんか? クズ兄のやったことの罪滅ぼしをさせてくださいっ! 私なんかとつき合えないということでしたら、身体でご奉仕だけでも……」
「いやいやダメだって!」
未成年淫行なんて、蓮以上にクズになりそうだ。
「いいんです。あのとき結月さんが助けてくれなかったら、私はあの男たちのおもちゃにされてたんですから……」
「それはそうかもしれないけど、やっぱり大人になってからだね」
瑠華ちゃんはぽっと頬を赤くしたかと思うと両手で頬を覆い、恥ずかしそうにする。
「ありがとうございます! 結月さんが私を大人の女にしてくださるなんて、うれしいです」
「ち、ちがう……そういう意味じゃ……」
俺が困って右往左往していると加賀山相談役が通りかかってくれたので、瑠華ちゃんを説得してくれるよう頼もうとしたのだが……。
「ありがとうございます! うちに
「お父さん、私がんぱるからね!」
「ああ、蓮がいなくなったが、結月社長と瑠華が結婚してくれれば、うちは
ううう……っ、蓮と違い人は良いのだが、人の言うことを聞かないのはやっぱり蓮の家族だった。
――――それから数週間後。
星乃から蓮と美玖がチャンネルを開設し、動画を投稿したという連絡を受け、早速確認していた。おそらく俺の真似をして、収益を得て訴訟費用を稼ぐつもりなんだろう。
だがあまりのスゴさに驚いていた。
は?
再生数……39回。
すでに一週間も経過してるのに。
さらに数日後、蓮と美玖のチャンネルを見に行くと更地になっていた……。まあ当然と言えば当然だったんだけどな。
―――――――――――――――――――――――
なぜ大人気になってもいいはずの蓮と美玖のチャンネルが消えてたのか? それは次回お楽しみにwww
アドバイスや温かいお言葉をいただき、ありがとうございました! 読者さまのおかげでラブコメの月間2位なんてスゴいところへ導いてもらい、感謝の言葉もありません。
結果がどうあろうと、とにかく完結まで頑張りますので、仕方ねえな応援してやるよとお思いの読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます