第18話 焼肉焼いても世話焼くな

 だいぶ良くなったようだが、腰をさすりながら現れたホストみたいな格好をした男。顔を合わすなり、しかめっ面に加え、耳の穴に指を突っ込みながら男はだるそうに言い放つ。


「なんすか、先輩。オレ、マジ腰痛いんすけど」

「LINEしただろ、飯おごってやるって」

「ああ? 先輩がオレにおごってくれるだと? ファミレスとかだったら、ソッコー帰りますよ」


 俺がせっかく後輩に飯をおごってやろうってのに、この態度である。


 はっきり言って俺だって蓮なんか誘いたかねえよ!


 貴重な休日、課長とサバゲー、もしくは姫野とコミケなどのイベントに参加した方が楽しく過ごせるってのに二人の誘いを蹴って、仕方なく蓮を選んでやったことに感謝のひとことくらいあってもいいのにな。


「もしかして、契約譲れとかじゃねえよな? どうせそんなとこだろ。汚ねえなぁ、おい」


「俺はそこまで落ちぶれてないって。蓮がそんな腰ではまともに契約が取れないと思ってな。蓮のことを心配してるっつうよりうちの課のことを心配してるって感じかな」


「オレを乗せようったってそうは、布団屋が下ろさねえ」


 布団屋? 正しくは“問屋が卸さない“だ……。


 だがここで蓮にヘタにつっこんで機嫌を損ねられては困る。あえてなにも触れないのが吉と見た。


「そうか、それは残念だ。じゃあ、ひとりで上々苑の焼肉を食べてこうよっと」

「待て! なぜ先輩はそれを先に言わないんだよ」

「いや蓮ぐらい実家が金持ちなら、食べ飽きてるかなってな」


「ちっ、仕方ねえなぁ! あんたみてえに彼女なのに美玖に誘いを断られた寂しい男につき合ってやんよ」


 さすが上々苑の最高級焼肉パワー!


 口角の端からよだれを垂らす蓮の姿を俺は見逃さなかった。


 俺は美玖といっしょに出かけようと声をかけたが断られた、と蓮を誘い出していたのだ。そもそも美玖にはひとことも声はかけていない。美玖はいまごろ女友だちと悠々羽根を伸ばしているころだろう。


 「くそっ、くそっ、焼肉うめえ! むさい先輩とじゃなきゃ、最高だったのによぉ!」


 俺が蓮のために肉奉行というか、焼けた肉を皿に盛ってやってるというのに文句だけ垂れて、バクバクと粉雪が降ったように美しい霜降りA5ランクの高級牛肉を口の中に放り込んでゆく蓮。


 それたけではない。


 俺が黙っていると断ることなく、店員さんを呼んで次々と蓮が食べたいメニューを頼んでいった。


 臨月を迎えた妊婦のように盛り上がった蓮の腹。


 白い歯を見せて、しーしーと爪楊枝を使い歯の間に挟まったものを取り除こうとしており、とてもお行儀が悪く金持ちっぽくない。


 そう言えば姫野はお嬢さまっぽいところは普段見せないが、よく見ると仕草はとてもきれいなんだと思ってしまった。


 すっかり分厚くなってしまった伝票を持ってレジへと向かった俺たち。

 

「お勘定お願いします」

「ぜんぶで8万6千円になります」


 なんだ。意外と安くついたな。もっと高いと思ってた。俺が高級牛肉店で満腹になるまで飲み食いしたにも拘らず、意外な安さに驚いていると……。


「なっ!? オ、オレはびた一文たりともだ……出さねえからなっ!」


 店員さんから支払い金額を聞いた途端、蓮は顔が真っ青になって挙動不審になって焦りだしていた。


「俺がおごるって最初から言ってるだろ。蓮は一銭も出さなくていいぞ」

「仕方ねえ! 今日は先輩の顔を立てて、おごらせてやるよ」


 よく言うよ……8万ちょっとで焦りまくってたくせに。


 相変わらず口の減らない蓮だった。


 俺はカードで支払いを済ませて店の外へ出ると蓮が待っており、俺に上から目線でドヤる。


「オレみたいな超一流の仕事ができる男は先輩みてえなド三流仕事しかできねえ奴にもお礼が言えるってことを証明してやるよ。ごちになりやしたぁー、ってなぁ!!! どうだ、ありがたいだろ?」


「ああ、そうだな。俺は蓮みたいな優秀な後輩におごれて、光栄だよ」


 本当ならぶん殴ってやりたいところだが、むしろ俺が蓮と美玖の稼ぎによって上等な肉を食わせてもらったんだ。


 むしろこっちが蓮さま、ごちになりましたーって感じなんだな、これが!


 自分たちが知らないところで肉体労働かつプライバシーのすべてを投げ打って、俺のためにひいこら働いてることも知らずに超一流とか言っちゃうとか、マジでウケる!!!


「すまん。俺は寄っていくところがあるんだ。先に帰っていてくれ」

「ああ? しゃーねえなぁ、帰ってやるわ。」


 ここまで調子に乗れるっていうのがある意味すごい才能だ……。まあ俺から美玖を寝取って勝ち誇った気でいるんだろう。


「おっと……大事なことを聞き忘れてたぜ。そんなに時間がかかるもんなのかよ?」

「ああ、4、5時間はかかるな」

「ははは、じゃあな。またおごってくれよ、ダメな先輩さんよぉ!」


 俺をあざ笑うような笑顔を見せた蓮。


 せいぜい美玖との浮気を楽しんでくれ。


 おそらく精のついた蓮は今日も俺の部屋で美玖とするだろう。それでいい……俺にもっと金を貢いでくれよ、監督の俺におだてられ、簡単に乗せられるチョロい竿役さんよぉ!


 くっくっくっ……蓮にいい肉を食わせて、美玖に何度も種付けさせる体力をつけてもらわないとなぁ!!!



 ピロン♪


 蓮と別れ、俺はぶらぶら街を歩いているとスマホが鳴る。確認すると蓮と美玖が俺の家に戻ってきたらしい。


 実に分かりやすい!


 急いで近くのマンガ喫茶に飛びこんで、ライブ配信の準備を整えると、家に増設したカメラはダイニングキッチンで一戦交えようとする蓮と美玖を捉えていた。


「マジで先輩の奴、馬鹿だわ! オレに肉なんて食わせりゃ、いくらでもヤレるってのに」

「え~、私なにも聞いてないよぉ! 私もお肉食べたかったなぁ……」

「はは、いまから俺のを食わせてやるよ」


               《そっちの肉w》

               《ソーセージ》

               《安肉っ!!!》


 美玖を裸エプロンにして、ダイニングテーブルに手をつかせて後ろから肌をまさぐる蓮。


           ¥5000

           《裸エプロンくそエロ!》

           ¥10000

           《けしからん!》

           ¥20000

           《実にけしからん!!!》


「浮気のつがいの雄が腰を痛めていたので、ネトラは上々苑で高級なお肉を与えてみたのだ!」


               《リッチ!》

               《俺も食べたい》

               《じゅるる……》


 美玖の口に蓮が指を突っ込むと彼女のよだれがぼたぼた床に落ちてしまう。


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RTube健全化委員会カクヨムによる【R15】フィルターメディア良化法稼働執行中。


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 美玖のお口へお肉をたっぷり食べさせた蓮。いつもは3ラウンドでふらっふらになって、あとはだらだらしているのに蓮は5ラウンドに突入してもハツラツとしていた。

            

          《策士w》

          《ネトラ賢い》

          《手のひらダンス》

          《レンとミクはバカwww》


「分かってもらえて、ネトラうれしいのだ」


 おかげでリスナーはどんどん興奮のるつぼへ誘い、スパチャだけで80万円以上も稼がせてもらっている。


 おまえは俺を馬鹿だと言ったがなぁ、たった8万の投資で10倍も儲けさせてもらったよ、蓮!!!



 パタンとノートPCを畳んでマンガ喫茶をあとにしている。


 えっち系VTuberとしての地位がある程度確立しつつあった俺はさらに美玖と蓮を追い詰めるための策を実行しようとしていた。


 二人に絶対に言い逃れをさすつもりはない。


 俺は会社でトラブルったときに頼る顧問弁護士の先生の紹介でとあるところを訪ねていた。


 そこは探偵事務所。


 十分すぎるくらい浮気の証拠は上がっていたのだけど、はっきり言って蓮と美玖は外でどんな行動を取っているのか、釈然としない。


 せっかくの収益があるのだから、これを使わない手はなかった。


 俺は浮気調査名目ではあったが、蓮と美玖の行動をはっきりと把握しておきたかったのだ。


 探偵事務所というと汚部屋って感じで散らかっていると思ったら、丁寧に掃除され普通の事務所といった感じでソファーに座って出されたコーヒーをすすっていると、落ち着きのある茶髪に眼鏡をかけたスーツ姿の美女が現れた。


「星乃……!?」

「結月くん!?」


 現れたのは俺の中高の同級生で美玖とも知己なあるだった星乃めぐみだった。


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いままでお読みいただき、ありがとうございました。かなり修正したんですが、おそらくそのまま公開停止になると思います。運営は修正依頼は出すけど、確認はされてないでしょう。私の脇が甘かっただけです。カクヨムにて、ざまぁまで持っていけずに申し訳ありません。


なろうで10万字程度で完結まで連載しようと思います。フォーマットがなろうとカクヨムでは違いますので、しばらくお時間ください。準備が整い次第、近況ノートにてご報告いたしますので作者フォローしていただけますと通知が行って便利です。

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