生涯年収

山田 こゆめ

第2話


最寄りの駅につく頃には、大分遅い時間になっていた。

「グー」

腹が鳴った。

「ヤバい……お腹空いた」

考えてみれば朝から何も食べていない

スーパーにでも寄っていくかとスマホを見ると20時30過ぎ…ヤバい後30分で閉まる

走れば何とか間に合うか?

急いで走りギリギリにスーパーに滑り込む事が出来た。

店内には、もう客はおらずガランとしていた。

僕はカゴを持ち足早に惣菜コーナーに行き半額シールの惣菜をカゴの中に入れ真っ直ぐレジに向かうと、レジには男性が一人居るだけだった。

ここには良く来るけどこの男性を見るのは初めてだった。

年は30過ぎだろうか男性は僕を見ると、ニコニコと愛想良く

「いらっしゃいませ」

頭を下げ手際良く惣菜をレジに通した。

僕はお金を払おうと財布を出そうとすると

「ちょっと!いつまで店やってんのよ!早く閉めなさいよ、電気代勿体ないじゃないのよ!」

怒りながら女性が店の奥から出て来た。

この男性の奥さんだろうか、やたら偉そうだなと思っていると

レジに居た男性は慌てながら僕を見て、

「まだ、お客さんいるから!」

女性はフン僕を見て鼻を鳴らし馬鹿にした顔で

「…さっさと、しなさいよ!こっちは忙しいんだから。」

そんな様子の女性に男性は、ヘラヘラと笑いながら

「ごめんね、直ぐにお店閉めるから、ちょっと待ってて?」

「ほんと使えねー」

そう言いながら女性は奥に消えた。

こんな奥さんは嫌だなと思っていると、ふと男性のエプロンの名札が見えた。

そこには店長上田とあった。

あれ?でもここはスーパースズキだったはず?レシートにもスーパースズキの文字が印刷されている

店長と目が合うと店長は申し訳なさそうに頭を下げ

「すいませんね、うちの奥さんが嫌な気分にさせてしまって」

僕は慌てて手を振り

「いや、大丈夫ですから」

「ちょっと、待ってて!」

そう言うと店長は店内に走って行って直ぐ帰って来て、手に持っていた惣菜の唐揚げを

「これ、サービスです」

「いいですよ!そんな気にしてませんし!」

「いいから、いいから貰って!」

断ったが店長はいいからと僕に唐揚げを押し付けた。

僕はそれじゃあと有りがたく貰う事にした。

「ありがとうございます。」

「うん、また来て下さい」

買った惣菜をリュックに詰めて店長に頭を下げると店長はにこやかに手を振ってくれた。何だか今日は疲れたなあと空を見上げる月が出ていた。

「月…綺麗だな」

一人ごちた。

そしていつも近道に使っている公園が見えて来た。

公園は昼間は子供やら人が賑わっているのだけれど夜になると街灯が少ないせいでひと気が無い

それに公園なのにやたら木々が密集していて暗闇だと更に怖い

でもこの公園を突っ切ると直ぐアパートだから、いつも近道に使っていた。

今日も公園を突っ切ろうと入ると、人の話声が聞こえた。

辺りを見渡すと木々に隠れるように誰かが居る。

どうやら2人組の男らしく小さな声でヒソヒソと喋べりながら身を屈め何かを探しているようだった。

こんな夜中に何を探しているのかと思っていると男達は喋りながらこっちに来た。

僕は咄嗟に木の影に隠れた。

すると

「本当に、何やってんだよお前はよ!」

男がイライラと怒鳴った。

するともう一人が

「うるせ怒鳴んなよ!仕方ねえだろ落としたもんは、さっさと探せよ!」

「はぁ!探してんだろうが!うぜ!そもそも何で俺がお前の免許証探さないといけねーんだよ!」

「ああ、別にいいけど、もしあの事がバレたら俺はお前の事も警察に言うからな、それでもいいのらなら、もう帰ってもいいぞ」

言うともう一人の男は舌打ちをし

「チッ!探せばいいんだろう!クソ!」

男が近くの木を蹴った。

警察?男達の言葉に朝のニュースを思い出した。

ニュースで聞いた犯人はこいつらか

だったら余計に見つかるのは不味い…

僕は後退った瞬間足元にあった何かを踏んだ見ると免許証だった。

僕は手に取り見ると免許証には男の名前が

「暮林 晴人」

口に出して読んで咄嗟に口をつぐんだ。

ヤバイ物を見つけてしまった。

急に動悸と冷や汗が吹き出してきた。

僕は元に戻そうと屈むと

「おい、確かここら辺じゃ無かったか?あの親父やったのは」

いつの間にか男達が近くまで来ている…

見つかるとヤバイ

「ああ、そうだここでボコッたわ」

「何で見てた俺が覚えていてお前が覚えてねーんだよ!」

「うるせーな!いいだろ別に」

2人が会話している隙に離れた木の影に隠れて様子を伺っていると

いきなりポケットにしまっていたスマホが鳴った。

「!」

慌ててスマホを止めようとしたが静かな公園でその音は響いた。

すると男達は

「おい!誰か居んのか!」

「探せ!あっちの方からしたぞ!」

男達は大声で自分を探している

バクバクと心臓がうるさい

余りの恐怖で思わず走ってしまった。

すると

「おい、アイツだ捕まえろ!」

後ろから男達が追って来る。

僕は必死に走った。

ハァハァと息を切らせながら

限界が近い

寝不足で足がもつれるし息も苦しい

「おい、アイツ俺の免許証持ってやがる!」

そう言われ手を見ると免許証をまだ持っていた。

慌てて捨てようとするけど頭が回らない、

するとスマホが

「ダウンロードが完了しました。アプリを起動します。」

音声が流れ僕はスマホを切ろうとしたが上手く出来ない。

もう、何なんだと内心イライラと

取り敢えず身を隠そうと木々が生い茂っている垣根の中に身を隠した。

身を潜め荒くなった口を手で押さえ心の中で

静かに静かにと目をつぶった。

ガサガサと男達は僕の近くまで来て

「アイツ何処いったんだ!」

「知らねぇよ!」

暮林は舌打ちし僕が隠れている垣根を思いきり蹴った。

僕はビクッとなったが暮林は気付かず

「どうすんだよ!アイツ俺の免許証持ってやがる!クソが!」

「アイツが警察に行ったら不味いぞ!」

「分かってる!まだここいらに居る筈だ探せ!」

「アイツに、俺らの顔も見られたし…やるしかねーな」

そう言うと2人はまた僕を探し始めた。

朝の事件が頭をよぎった。

あの被害者はどうなっただろうか?

思い出したくない…

「出てこい!」

暮林達2人は怒鳴りながら奥の方にと行ってくれた。

僕はホッと胸を撫で下ろし取り敢えずの危機は去ったと、手の持ったスマホの画面を開くと入れた覚えの無いアプリが入っていた。

「何だこれ?」

疑問に思ったがふと思い出した。

昼間航が自分のスマホ触って遊んでいたと、その時に航が間違ってダウンロードしてしまったのだろうと、

僕はしょうがないなと思いながらアプリを消そうとタップすると画面に

「生涯年収?」

アプリにはそれしか表示されていない。


生涯年収とは人が人生の内に稼ぐ金額の事。そんな分かりきった事がアプリになるんだろうか?

暮林達の様子を伺うと、ここは探し終わったと思ったのかだいぶ遠くにいる。

このままじっとしていれば見つからないだろうとスマホの「生涯年収」を見た。

恐る恐る生涯年収を押して見ると画面に

「ようこそ、8人目さん」

「8人目?」

画面は直ぐ切り替わり

「ようこそ生涯年収へ」

スマホの画面に燕尾服を着て手にはステッキ頭には帽子を被った黒猫がいた。

黒猫はペコっとお辞儀をし

「初めましてボクはこの生涯年収の案内をしているクロよろしくにゃ」

そうしてクロはいきなり香箱座りをし目を細めて

「ふぅー立ってるの辛いにゃ、それで誰を殺しますかにゃ?」

可愛い黒猫がいきなり誰を殺したいと物騒な事を言ってる

何だこれっと戸惑っているとクロは首を傾げ

「あれ?殺さにゃいの?お金要らなにゃいの?」

お金?何かのイタズラなのかと僕はアプリを消そうとタップすると急にガサガサと音がした。

僕は咄嗟にスマホを隠すと

「おい、本当にここら辺か?」

「ああ、間違いねぇよこんなに暗いのに、さっき見たら明るかった。」

しまった!

スマホを見てた明かりが見えていたんだとするとスマホから

「仕方無いにゃ、たまにいるんだよね自分で手を下せない人間がでも安心してくださいにゃ、そんな人間の為に!初回のみ手伝てあげる!でも手伝うのは初回のみそれじゃ名前でいいから教えるにゃ、ソイツ直ぐに殺してあげるににゃ!」

「…………。」

暮林が僕の隠れている垣根を勢い良く蹴った。

「グッ!…」

そこに僕が隠れているのを知って

僕は蹴られたお腹を押さえ恐怖に震えていると暮林は垣根を覗き込み

「みーつーけーた!」

ニヤリと笑った。

僕は必死に逃げようと垣根から這い出ると、暮林に頭を捕まれ髪の毛を引っ張られ殴られた。

「ぐっう!」

何度も殴られ鼻血が出た。

それを見た暮林は楽しそうに

「お前も、あのサラリーマンみたいにしてやるよ」

頭の中でグワングワンと音がする視界が暗い

暮林はポケットからナイフを取り出し

「!」

僕は必死に暮林を振り払い走った。

「待ちやがれ!殺す!」

「ハァハァ!」

死に物狂いで走った。

こんな所で死にたくない航を残して行けない!

するとスマホから間延びした声で

「ねぇ?まだかにゃ?名前は?名前を入れるにゃ」

名前?手に持っていた免許証を見て、もうこれしかないと無我夢中で画面に打ち込んだ。すると

「承りましたにゃ、只今暮林晴人の生涯年収を確認しているのにゃ、しばらくお待ちくださいにゃ」

僕は後ろを振り返ると暮林がギラギラと血走った目で

「アイツ殺す殺す殺す殺す!」

ナイフを持って追いかけてくる。

捕まったら殺されてしまうそれだけは分かった。

僕は追い付かれなように公園の出口まで走った。

このまま行けば公園の外迄逃げられる!

「ハァハァハァ!」

そして公園を出て前の道路を横切った瞬間後ろから

「ドン!」

と背中に衝撃がした。

グッと咳き込みしゃがむと足元に大きな石が転がっていた。

どうやらこれが僕の背中を直撃したらしいゲホッゲホッと後ろを振り返ると暮林がニヤリと笑いながら僕に近付いて来る

早く逃げないとマズイのに痛くて息が上手く出来ない

「本当にチョロチョロと目障りだっだが、これで終わりだ!」

暮林は持っていたナイフを両手で持ち僕を狙らい走って来る。

あともう少しと所で暮林が迫ってくる!

僕はもう駄目だと目をつぶると。

「ドン!」

急に強い光と大きな音がした。

何事かと目を開けるとそこにいる筈の暮林が居ない

そして僕の横を走り去るバイクが見えた。

「晴人…」

声がした方を見ると、もう一人の男が青い顔で遠くを見ている。

僕も男と同じ方を見ると人だった物がそこに落ちてる。

そして手に持ったスマホから

「暮林晴人の死亡が確認されました。暮林晴人の生涯年収が月村圭様の口座の入金されましたので確認をお願い致します。」

「…。」

何が起こったのかさっぱり分からないけど、尋常じゃない事が起こったのは理解した。

震える足で立ち上がり人じゃなくなった物に近付くとやっぱり予想どうりだった。

「ウップ!オエッ!」

それを見た瞬間えずき吐いた。が朝から何も口にしていなかったせいで胃液しか出なかった。

「オレは知らない!」

僕はふともう一人の男を見ると男は叫びながら走って逃げていった。

そんな状況に薄情だと思いながら殺したのはもしかして自分なんだろうか?

足がカクリと落ちた。

「これは何なんだよ一体」

頭を振りここに居てはまずいと、どうにか立ち上がりふらつく体を引きずりアパートへの道を急いだ。




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