狂ったドラゴンとメイド様

イズラ

〈第0話〉Memories

「――ほらエリス。ちゃ」


「’’ちゃ’’、ですか?」


「ちゃ!」


「ちゃ……、ちゃ……、ちゃ……。……あ、紅茶ですか?」


 「そお!」


 他愛ない王女様。




「あっ」


「キャッ、ちょっと気をつけなさいよ」


「は、はい、今すぐ拭きますので……」


「そういうことじゃなくて! こういう時は何を言うの!?」


「はい? ……あ、『ごめんなさい』ですか?」


「そお! もうまったく、エリスはメイドとしての基本がなってない!」


「はあ」


 だけど、真っ正直で、わりとマジメ。




「ほら、さっさと洋服しまっといて」


「姫様、今 手に持った服を極めて近い距離にあるタンスにしまえば.....よろしいのでは.....?」


「今日は何となく こき使いたい気分なの!」


「分かりましたよ.....」




 やがて成長して


「エリス、ごきげんよう。うふふ、どうかしら。お嬢様っぽい?」


「はい、姫様。ご立派です」


「それはそうと、そろそろドレスを着なくちゃだわ」


「はい、お手伝いします」



 少し大人びてきて。


「今日もいい天気ね。こんな朝には、コーヒーでも。エリス」


「はい、ただいまお持ちいたします」




『エリス.....』




 だんだんと たくましく。


「はい、こちらですが.....ちょっと姫様、砂糖は.....あっ」


「砂糖なんていらな........うげぇ.....!」


「姫様ー!?」




『エリス.....!』




 でも ちょっと頼りなく。


「姫様、お水です!」


「.....あぁー.....!.....うん.....ありがと.....苦いぃ!」


「ああ、どうすれば!あ、姫様ー!?」




 『エリス.....!!』




 ハッキリ言って強がりで。




 『エリス.....!!!』




「もう姫様も14歳ですか。もう大人ですか?」


「もちろん!」


「それではブラックコーヒーを.....」


「それは やめなさい!」




『やめなさいエリス! エリス!!』




あの年の誕生日パーティーは、最高の盛り上がりだった。




『エリス!エリス!!エリス!!!!!やめて!!!!』




 あの夜は、姫様と一緒に寝て。




『エリス!いい加減にして!!..........もういいの!!』




 寝て、寝て、……寝た?




「――ついに我々が、この国に革命を起こすのだ!」




『エリス!逃げなさい!!』


 ―—でも……、でも、それでは姫様が!


『もういいのよ。……これまでの、……ツケよ、これは』


 ——姫様が何をしたって言うんですか!!


『……私の、私たちの幸せの下には、それだけたくさんの”踏み台”があったの……』


 ——踏み台!?そんなバカなこと有り得ません!!! ……有り得ません。


『……もう、いいわ。それなら勝手にその扉でも抑えてなさい。すでに周りは火の海。焼かれるのも、もうすぐよ.....!』


 ——……。


『もうエリスなんて知らないわよ。私なんて……、生まれてこなければよかったの……!』



 ……。



『私なんて……!!』



 ……バカ。


『……っ!?』



 姫様は、バカです。


『……ば?』


 ……そのベッドの下に、抜け道があります。

 そこから逃げてください、今すぐに。



『……バカ!? ……私が、バカですって!? ……ああ、もういいわ! 本当に知らない、あんたのことなんて!』


 ……。


『逃げるわよ逃げるわよ! 世界のどこにでも! あんたとは二度と会わないわ!!』


 ……。

 ……。

 ……。


 …………。

 …………。

 …………。


 ……『二度と会わない』、か……。




 ……ええ、きっと、もう、 ’’会えない’’でしょう――。

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