序詞 焔

戦場の片隅に立つと、朧げなる原始的な火への恐怖が、次第に明瞭な負の形を象る。


街の火は温かく、包み込むように我々に温もりをくれる。しかし戦場ではそんな生温い性質など持ってなどおらず、容赦なく我々を蝕む。


明確なる意思を持つでもなく、一条の正義感すら抱くでもない。ただひたすらに収集なく暴れ廻り、いつの間にやら消え去っていく。そんなダブルスタンダード的な側面を含有する火が大嫌いだった。


それだけでなく、そんなものを利用しようとし、敵味方問わず火に巻いて来た私自身のことも、同様に大嫌いだった。


ー『大戦回顧録』マルグリット・ド・メーデン著 より引用


6月5日

北部戦線は今日も地獄だった。


死体が積み重なって山となり、連日続く雨のせいで腐敗も酷くなっている。戦況は一向に変わらず、両軍が無為に死者を出し続けている。


人を殺す片手間で食事をとっているから、まるで人肉でも食っているのかと錯覚する。


そして俺は今日、Sー32Dに乗り、5機もの敵機を撃墜した。


しかしそんなことで心は動かなかった。帝国に貢献したという高揚感も、人を殺した罪悪感も何も湧いてこなかった。


このままだと心がどこか彼方へ消えて自らのアイデンティも共に消滅していくんだと思うととてつもなく怖くなって、ここ毎日夢を見ている。


眠るのが怖い。怖いんだ。


ーレオンハルト・ワーグナーの日記 より引用

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